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令和元年8月の前線による九州北部の記録的な大雨について
はじめに
2019年8月27〜28日、前線と湿った空気の影響で、九州北部を中心に記録的な大雨となりました。佐賀県では28日4時頃に1時間で100mmを超える記録的な大雨が降り、重大な災害が発生する可能性が高まったことから、気象庁は28日5時50分に佐賀県、福岡県、長崎県に対して大雨特別警報を発表しました。
この雨による死者は佐賀県で3名、福岡県で1名となっています(9月3日時点)。佐賀県を流れる六角川や牛津川があふれ、家屋や田畑の浸水被害が相次いだほか、排水不良で処理できなくなった雨水があふれる内水氾濫によって、大町町一帯で浸水しました。この浸水によって、病院の入院患者ら200名が3日に渡って孤立したほか、鉄工所から大量の油が流出しました。また、道路の冠水によって車の水没や立ち往生が発生し、救助要請が相次ぎました。大雨の影響で、28日早朝から交通機関も大幅に乱れ、JR九州や私鉄で一部運転を見合わせたほか、高速道路も九州道や長崎道などの一部区間で通行止めとなりました。長崎道の一部区間は、路面の隆起や地すべりによって現在も通行止めとなっており、復旧作業が行われています。
1−1.被害状況:浸水被害の報告
各地で発生した大規模な冠水・浸水被害の全容を明らかにするため、8月28日11時から29日13時にかけてウェザーリポーターに緊急アンケート調査を実施しました。「周辺の冠水・浸水状況は?」と質問し、“腰以上”、“ひざ以上”、“足首以上”、“水たまり程度”から選択いただきました。被害が大きい佐賀県、福岡県、長崎県からは、腰以上5件、ひざ以上12件、足首以上57件、水たまり程度535件、合わせて609件の報告がありました(表1)。マップで見ると、佐賀駅の南側でひざ以上まで、大町町で腰以上の浸水があったことがわかります(図1)。
表1:冠水・浸水状況のアンケート結果
腰以上 | ひざ以上 | 足首以上 | 水たまり程度 | 計 | |
佐賀県 | 2 | 11 | 38 | 60 | 111 |
福岡県 | 3 | 1 | 16 | 380 | 400 |
長崎県 | 0 | 0 | 3 | 95 | 98 |
3県 | 5 | 12 | 57 | 535 | 609 |
マップで見ると、佐賀駅の南側でひざ以上まで、大町町で腰以上の浸水があったことがわかります(図1)。
1−2.被害状況:ウェザーリポート
8月28日には合計10,178通の写真付きのウェザーリポートが寄せられました(図2)。大雨となった佐賀県、福岡県、長崎県から計653通の報告が届き、河川増水や道路冠水などの報告が多く寄せられました。佐賀県からは前日の3倍のウェザーリポートが届き、ひざまで水が浸かっている様子や、川と道路の境目がわからない様子などが報告されました。
図2:ウェザーリポーターから寄せられた報告
2.大雨の状況
特別警報が発表された佐賀県、福岡県、長崎県では、27日0時から28日24時までの48時間降水量が広い範囲で300mmを超え、特に雨が集中した佐賀県では500mmを超えた場所もありました(図3、茶色のエリア)。
1日の降水量も多くのエリアで200mmを超えており、日降水量が最も多かった地点は佐賀県の白石で299.5mm、次いで長崎県の平戸292.5mm、佐賀県の佐賀283.0mmとなりました(表2)。また、佐賀の日降水量283.0mmを8月の降水量の平年値196.9mmと比較すると、1ヶ月分の約1.4倍にあたる量の雨が1日で降ったことがわかります。
表2:8月27〜28日に日降水量の記録を更新した地点
(記録を更新した地点のうち、200mm以上の降水を観測した地点)
県 | 市町村 | アメダス | 日降水量(mm) | 記録 |
佐賀県 | 杵島郡白石町 | 白石(しろいし) | 299.5 | 観測史上3位(8月28日) |
長崎県 | 平戸市 | 平戸(ひらど) | 292.5 | 観測史上8位(8月28日) |
佐賀県 | 佐賀市 | 佐賀(さが) | 283.0 | 観測史上4位(8月28日) |
長崎県 | 松浦市 | 松浦(まつうら) | 253.5 | 観測史上2位(8月27日) |
佐賀県 | 伊万里市 | 伊万里(いまり) | 253.0 | 観測史上5位(8月27日) |
福岡県 | 八女市 | 黒木(くろぎ) | 221.0 | 観測史上5位(8月28日) |
長崎県 | 長崎市 | 長浦岳(ながうらだけ) | 217.5 | 観測史上9位(8月28日) |
佐賀県 | 唐津市 | 唐津(からつ) | 216.5 | 観測史上1位(8月28日) |
長崎県 | 北松浦郡小値賀町 | 小値賀(おぢか) | 216.5 | 観測史上2位(8月27日) |
福岡県 | 久留米市 | 久留米(くるめ) | 216.5 | 観測史上6位(8月28日) |
福岡県 | 久留米市 | 耳納山(みのうさん) | 215.0 | 観測史上4位(8月28日) |
佐賀県 | 佐賀市 | 北山(ほくざん) | 208.5 | 観測史上3位(8月27日) |
アメダス佐賀は28日3〜6時に降水のピークを迎え(図4)、3時43分から4時43分の1時間で111.0mmの猛烈な雨が降り、観測史上1位を更新しました。また、アメダス白石でも3時41分から4時41分の1時間で109.5mmを観測しました。佐賀県で1時間に100mm以上の雨が観測されたのは、1999年以来で20年ぶりのことです。
3.大雨の要因
8月26日に九州南部に位置していた秋雨前線は、太平洋高気圧の強まりとともに、27日には九州北部やその北の対馬海峡付近まで北上しました(図5)。その後、日本海の前線上に低気圧が発生したことで、東シナ海から九州地方を通って低気圧に流れ込む暖湿気流が強まりました。28日の暖湿気流の温度は、950hPa(上空約500m)の相当温位が357〜360Kであったことから、当時は暖かく非常に湿った空気が流れ込んでいたことがわかります(図6)。なお、2017年7月5日に発生した九州北部豪雨の時の950hPa相当温位が354〜357K程度であることから、当時と同程度の暖湿気流であったと言えそうです。
当時、秋雨前線は対馬海峡にあり、佐賀からは100kmほど離れていました。そこで、佐賀に局地的な大雨をもたらした要因を調査したところ、局地的な前線の形成が大きく影響していることがわかりました。
28日4時の気象データを解析したところ、長崎県北部〜佐賀県〜福岡県の有明海沿岸〜熊本県に至る地域で、南北の気温差が大きい局地的な前線が形成されており、地上の気温は佐賀23.8℃、長崎27.5℃と、3.7℃の大きな気温差が生じていました(図7)。この局地前線は、東シナ海から強く流れ込んだ地上気温27〜28℃の暖湿気が23〜24℃の相対的に冷たい空気にぶつかることでできており、長崎県から佐賀県へと北上し、数時間停滞しました。この局地前線付近では積乱雲が継続的に発生し、その雲が上空の風によって東北東に流されて、線状降水帯を形成しました。
局地前線付近のレーダーエコーの高さは10〜12kmに達していました(図8)。局地前線付近では強い上昇気流が発生し、激しい雨をもたらす積乱雲が急激に発達しやすい状況になっていたと推測されます。この状況が継続したことが、佐賀に1時間雨量100mmを超える猛烈な雨をもたらしたと考えられます。
局地前線の動きを時系列で追ってみると、28日0時頃から4時頃にかけて長崎県の南から佐賀県へと北上してきたことがわかります(図9)。さらに詳しく解析するため、長崎県長崎市中里町に設置されたウェザーニューズの独自観測機器「WITHセンサー」の気温を見ると、2時3分には23.1℃であったのが、2時28分には25.0℃に変わり、25分間で1.9℃上昇していました。中里の32km北側に位置する佐賀県嬉野市のWITHセンサーでは中里から遅れて75分後に同様の気温上昇が見られました(図10)。この時間差と2地点間の距離から計算すると、局地前線は時速約25kmで北上していたことがわかります。その後、局地前線は7時頃にかけて佐賀市付近に停滞しました。
まとめ
8月27〜28日、佐賀県、福岡県、長崎県を中心に九州北部で記録的な大雨となりました。2日間の降水量は九州北部の広い範囲で300mmを超え、佐賀では28日3時43分から4時43分に観測史上1位となる111.0mm/hの猛烈な雨が観測されました。ウェザーリポーターに対して浸水被害のアンケート調査を実施したところ、被害が大きかった佐賀県、福岡県、長崎県から回答が多く寄せられ、佐賀駅の南側でひざ以上、大町町で腰以上の浸水があったことがわかりました。
秋雨前線から100km離れた佐賀で大雨となった理由としては、東シナ海からの暖かく湿った空気が九州北部に流れ込み、陸地の相対的に冷たい空気との温度差によって局地前線が発生したことが挙げられます。この局地前線が停滞していた数時間、前線付近で積乱雲が継続して発生し、上空の風で東北東に流されたことで線状降水帯が形成されました。WITHセンサーの観測データから、この局地前線は28日0〜4時にかけて長崎県の南から佐賀県へ北上しており、7時にわたって停滞していたことがわかりました。
福岡県では2017年の九州北部豪雨から3年続けての特別警報となりました。秋は今回のように局地前線が発生したり、秋雨前線と台風が組み合わさることによって大雨が発生することがしばしばあります。大きな災害につながることもあるため、各自が必要な対策を意識し、日頃から注意しておくことが大切です。ウェザーニューズは、独自の観測インフラによる観測情報やウェザーリポーターの報告を気象予測に活用することで、被害軽減に努めていきます。