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2015年8月23〜25日の台風15号の影響について
2015年8月23~25日、台風15号(GONI)が南西諸島に沿って北上し、九州に上陸しました。石垣島では観測史上1位となる最大瞬間風速71m/sを記録、西表島や波照間島でも最大瞬間風速50m/s以上、九州の一部でも最大瞬間風速30m/sを超えるなど台風15号は記録的な暴風をもたらしました。また、西日本の太平洋側を中心に激しい雨が降り、宮崎県や長崎県、徳島県では200mm、三重県では500mmを超える大雨となりました。沖縄や九州を中心に、停電(九州電力管内だけで45万戸以上)や道路の冠水、航空便の欠航や新幹線・在来線の運転見合わせ、高速道路の通行止めなど大きな被害が出ました。このように台風15号により沖縄や九州を中心に大きな影響が出た理由としては、台風が東シナ海で再発達し、強い勢力を保ったまま上陸したことが挙げられます。
1.台風15号の概要
台風15号は8月15日午前3時頃、グアム島の東海上(北緯13度/東経148度付近)で発生しました。同じタイミングで台風16号(ATSANI)が台風15号の東(北緯15度/東経162度付近) に発生し双子の台風となりました(図3)。台風16号は太平洋高気圧の縁に沿って北西に進んだのに対し、台風15号は日本の南のリッジ(周囲と比べて気圧が高い部分)の南縁に沿って西北西~西に進みました。暖かい海面(29〜30℃)から十分な水蒸気の補給を受けた台風15号は発達し、16日~17日にかけてはっきりとした眼が現れ、17〜20日にかけて発達のピークを迎えました(ピーク時の最大風速50m/s、中心気圧935hPa、図1)。
その後、21日頃から上空の北東風が強いエリアに入って鉛直シア(上下の風向風速差)が強まったことや、フィリピンのルソン島に近づいたことから徐々に雲の構造が崩れて一旦勢力を落としました。
しかし、21日に北へ転向後、先島諸島に接近した23日頃から再発達し、再びはっきりとした眼を形成し、時速10〜15kmのゆっくりとした速さで北上しました(図4)。石垣島付近を通過するころにはほぼピーク時の勢力を取り戻し(中心気圧940hPa)、石垣島では23日午後9時過ぎに観測史上1位となる最大瞬間風速 71.0m/sの猛烈な風が観測されました。台風が再発達した理由としては、中国東部付近で深まった上空の気圧の谷の影響で上昇気流が強まりやすい場になったことが考えられます。
石垣島付近を通過後は、進路を北東に変えて沖縄本島・奄美大島の西を通過し、時速30〜40km前後に速度を上げて九州に接近しました。海面水温が28℃以上と高かった影響で、非常に強い勢力を保ったまま、25日午前4時頃に鹿児島県阿久根市付近、午前5時過ぎに熊本県宇城市付近を通過し、午前6時過ぎには熊本県荒尾市に上陸しました。上陸後は次第に勢力を落としながら北上し、午前9時に強い勢力で福岡県福岡市付近に達した後、日本海へと抜けました。日本海に入った後も台風15号は暴風域を伴ったまま北上を続け、26日午前6時に温帯低気圧へと変わりました。
2.先島諸島の強風について
台風の接近・通過に伴って、沖縄県内では8月としては観測史上トップレベルの強風が吹きました。特に石垣島では、23日午後9時16分に観測史上1位となる最大瞬間風速71.0m/sが観測されました(図5左)。
最大瞬間風速71m/sが観測された時間のレーダー画像(図5右)を見ると、石垣島には台風の眼の壁雲(アイウォール)が差し掛かっていることから、石垣島の記録的な最大瞬間風速はこのアイウォールの通過によってもたらされたと考えられます。また、進行方向に向かって右の半円では、台風自身の風と台風を移動させる周りの風が同じ方向に吹くため風が強くなる傾向があります。石垣島は台風の中心の東側に位置していたため、台風の移動に伴う速度も加わって風がより強まった可能性があります。
3. 九州の強風について
台風が上陸した九州では各地で暴風が吹き、25日5時28分に熊本市で41.9m/s、6時15分に佐賀市で37.0m/s、7時12分に福岡市で31.5m/sの最大瞬間風速が観測されました。ウェザーニューズには、スマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」を通して通常1日に2〜3万件の空の写真や天気・風の報告が寄せられており、25日も九州から暴風や大雨の報告が届きました。最も報告数が多くなった台風上陸時は、熊本県を中心に九州の広範囲で「ゴォー」という激しい雨や「外出危険な風」の報告が増加しました(図6)。
図7は、ウェザーニューズが全国3,000カ所に設置した独自観測システム「WITHセンサー」の気圧観測データから計算した海面気圧とそれから解析された台風の中心経路です。台風の中心付近では等圧線が非常に密になっており、気圧傾度が非常に大きくなっていたことがわかります。ほとんどの人が「外出危険な風」と感じる風速30〜40m/sの風は、この台風の中心付近の大きい気圧傾度によってもたらされたと考えられます。大きい気圧傾度は台風の勢力が強いことを示しており、それは九州周辺の海面水温が28℃前後と高く(図1)、台風が上陸直前まで海面から十分な水蒸気の補給を受け、衰弱しにくかったためと考えられます。
4. 西日本の大雨について
台風15号は強風だけでなく、西日本の太平洋側を中心に大雨ももたらしました。台風の東側を回る非常に湿った暖かい空気が吹き込んだ九州、四国の太平洋側および紀伊半島の南東斜面で雨量が多くなり、積算雨量が500㎜を超えたところもありました(図8)。雲仙岳(長崎県)、油谷(山口県)、粥見(三重県)では、1時間降水量と3時間降水量で観測史上1位の記録を更新しました。また、台風の中心が通過した甑島(こしきじま)から島原半島にかけても、中心付近の発達した雨雲の影響で1時間に100㎜前後の猛烈な雨が観測されました。
5.「減災リポートマップ」
8月24〜26日にかけて、スマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」の利用者から、被害状況を報告する「減災リポート」が数多く寄せられました。25日は特に “強風被害”のリポートが多く、台風15号の特徴を表しています。
6. まとめ
台風15号は、先島諸島に接近した8月23日頃から再発達し、強い勢力を保ったまま25日午前6時過ぎに熊本県荒尾市に上陸し、沖縄や九州に記録的な暴風をもたらしました。石垣島では23日午後9時過ぎに観測史上1位となる最大瞬間風速 71.0m/sの猛烈な風が観測されました。記録的な暴風となった理由としては、海面水温が高かったことで、台風が強い勢力を維持したまま接近・上陸し、中心付近の気圧傾度が非常に大きい部分が通過したためと考えられます。
また、台風の東側を回る非常に湿った暖かい空気が流れ込み、西日本の太平洋側を中心に大雨となりました。九州、四国の太平洋側および紀伊半島の南東斜面で雨量が多くなり、積算雨量が500㎜を超えたところもありました。
ウェザーニューズは、独自の観測インフラによる観測情報や全国850万人のウェザーリポーターの報告を24時間監視し、台風予測に活用することで、被害軽減に努めていきます。