2025.08.15
ウェザーリポート1億通突破、これまでの奇跡とサポーターへの感謝(著:石橋 知博)

「ウェザーリポート1、ついに1億通突破!」 その知らせが社内Slackに投稿された瞬間、コメント欄はお祝いの言葉で溢れ、スタンプが一斉に飛び交いました。 拍手、クラッカー、1億絵文字、そしてなぜか、おにぎりのスタンプまで――画面がカラフルに染まり、ちょっとしたお祭り状態。 1億通。それは、日本の人口に迫るほどの数の空が、私たちのもとに届いたということ。 晴れの日も、嵐の日も、雪の朝も――全国、そして世界中から寄せられた空の声です。
さて、この大記録をどうブログで伝えるか?私の座ってる席の近くで広報チームが議論を重ねていました。 「〇〇さんが良いんじゃない?」「いや、さすがにテーマとして重すぎるかも」 「予報センターが書くべき?それともアプリ開発側?」 話は堂々巡り、結論が出ません。 そこで、つい口を出してしまったんです。
私:「じゃあ、自分、書こうか?」
スタッフ:「いいですね!それで!!」
ウェザーリポートが始まった日
2005年11月、ウェザーリポートが正式にスタートした日のことは、今でも鮮明に覚えています。 その年の春、桜プロジェクトで全国から集めた桜の写真で桜前線が浮かび上がり、夏には台風リポートで現地の被害状況が見え始めていました。 そのとき、私たちは確信したのです。
「現地の天気を一番理解しているのは、気象の専門家ではなく、その場にいるサポーターだ。」 当時、チーム内でよく口にしていたのは、刑事ドラマで有名なあの台詞。 「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているんだ!」 天気予報も同じだ、と。
私はその頃、個人向け事業(BtoS2と呼んでいました)のリーダーでした。 「これは天気予報を劇的に変えことになるぞ!」 数人のチームでしたが、根拠のない自信と勢いだけは十分にありました。
スマホもSNSもなかった時代
あの頃はスマートフォンもまだ存在せず、投稿を集める機能も全て自社で開発しなければなりませんでした。写真をメールに添付して送る専用機能を開発し、携帯向けの特別な言語(cHTML)で、スタッフがリアルタイムに写真やコメントを編集できるツールも準備しました。 そしてリリース前夜、トップページにこう書き足そうとしたのです。
「皆さんのウェザーリポートが天気予報を変えます」
すると現場スタッフから、「少ない投稿数じゃ予報は変わらない。そんなこと書いて大丈夫ですかね?」と慎重な声もありましたが、「いや、逆にこの1行にシビれてサーバーパンクするくらいリポート来ちゃうかもよ」などと冗談を言いながら、結局そのまま掲載することにしました。
初日、244通と「柿」のリポート
迎えた当日。胸を高鳴らせながら投稿数を見守りました。 最初に届いたリポートは写真と一言。
「毎年、隣の家には柿がなります」
正直、天気とは関係ない(笑)。けれど、それがなぜか嬉しかったのを覚えています。 そして1日の終わり、カウントされたのは244通。その日、天気予報は変わりませんでした。
もし、初日から大量にリポートが集まったら、私はすぐに予報センターにドヤ顔で持ってサポーターのチカラを大々的にアピールしようと企んでいたのですが、持って行くのはもう少し後にしようと思いました。
一方で現場は、ハイテンションのまま生き生きとしていました。テーマもないのにこれだけ集まったこと自体が奇跡のように思えたのです。まだSNSが発達していなかった時代、見ず知らずの誰かが我々の想いに共感し、わざわざ送ってくれた――その事実が何よりの力になりました。
そこから私たちは、投稿を増やすためにあらゆる工夫を重ねました。 エリアごとの特集ページ、ポイント制度、観測機プレゼント、キャスター募集とサポーター投票、そして24時間ライブ放送――。
こうして、「サポーターと一緒に(WITH)コンテンツをつくる」文化が社内全体に広がっていきました。

意外と知られていないBtoSの起源
BtoSやWITHという言葉は、社外ではもちろん、社内でも私が旗を振ってきた印象が強いようです。メディアの取材でも、よく「このコンセプトを作ったのはあなたですよね」と聞かれます。確かに推進役ではありましたが――実は、この“種”を最初に蒔いたのは、私ではありません。
BtoSに代表されるSupporterという概念を生み、サービス構築の土台として「WITH」というコンセプトを描いたのは、創業者の石橋さんでした。 彼は、これからはモバイルの時代が来ると信じて疑わず、「その時、コンテンツは“自分がコンテンツ“になる」と繰り返していました。 そして、リンカーンの有名な言葉、Government of the people, by the people, for the people.をもじって、「これからは、WITH the Supporterだー」と、ほぼすべての会議で口にしていたのです。
石橋さんは、モバイル事業に強い思い入れがありました。その背景には、我々の会社の起源である海難事故の悲劇があったんだと思います。「もしあの時、モバイルがあれば空光丸の悲劇は回避できたかもしれない…」そう語るとき、ほんの一瞬だけ声を詰まらせることがありました。
その悔しさこそが、BtoSやWITHという思想の出発点であり、私たちの原点です。現場からしたら、そう言われたらね――やるしかないでしょ、と。 誰に何を言われようと、時に何かをきっかけに炎上しようが、とにかく「WITH」でやっていく。やるだけやってダメなら、それも人類の良い教材になる。そんな覚悟で、私たちは一歩一歩、時に回り道もしながら、終わりなき旅を歩んできました。
年輪のように刻まれたすべての人へ感謝
あの日から少しずつ積み重ねてきたウェザーリポートは、いま1億通。
そこには年輪のように、サポーターと共に歩んだ日々が刻まれています。毎日のように参加してくれる方はもちろん、たまたま何かをきっかけにサイトで目にして数回だけ参加した方もいれば、個人の都合などで途中でやめた方々もいます。そういった全ての方の想いが刻まれています。
まだ世界を代表する大木とは言えないかもしれませんが、確実に根は広がり、幹は太くなっています。これからは、生成AIがあらゆるコンテンツを生み出す時代。でも、私たちが誇りに思うのは、この1億通が生身の人間の意思によって作られたことです。 それは、「災害を減らしたい」「地球環境を守りたい」というDreamに共感した人々が、自らの空を切り取り、送ってくれた記録です。
どんなAIでも、この人間の想いまではコピーできません。これからもAIの力を借りながら、この大木をさらに成長させていきます。けれども、その幹を育てるのは、これまでも、そしてこれからもウェザーリポーターの皆さんです。
この場を借りて、年輪を刻んでくれたすべての人に、心から感謝いたします。 これからも一緒に、新しい空の物語をつくっていきましょう。
(著:ウェザーニューズ 代表取締役社長 石橋知博)

Footnotes
- 1:ウェザーリポートとは:https://weathernews.jp/s/report/sample/ ↩︎
- 2:一般的には、企業が一般消費者(個人)向けにサービスを提供するビジネスモデルはBtoC:Business to Customerとされていますが、ウェザーニューズではBtoS:Business to Supporterとしています。 ↩︎