2025.09.19
歴代最強の竜巻と大雨をもたらした2025年台風15号について

気象概況
9月3日18時(UTC)頃、南大東島の南東海上にある熱帯低気圧が発達し、台風15号が発生しました。 台風15号は、北寄りに進んだ後徐々に北東へ進路を変え、宮崎県の東海上を進み、4日16時(UTC)頃に高知県宿毛市に上陸、5日0時(UTC)頃に和歌山県北部に再上陸しました。その後、東日本太平洋側を時速約60kmで東進し、太平洋沿岸部を中心に被害が広がりました(図1)。
台風15号と前線の影響により、台風が上陸する前から本州付近には南から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、西日本から東日本の太平洋側を中心に記録的な大雨となりました。特に宮崎県、静岡県、神奈川県で線状降水帯が発生し、静岡県の菊川牧之原や静岡空港では1時間に100mm以上の降水を観測しました。宮崎県の都農では465.5mmの24時間降水量を観測し、9月における1ヶ月分の平年値423.3mmを上回る記録的な大雨となりました。
また、静岡県牧之原市静波(しずなみ)から榛原郡吉田町大幡(おおはた)にかけて突風が発生し、気象庁によると竜巻によるものであると認められました1。牧之原市では竜巻の影響で74人が重軽傷を負ったほか、住宅被害は1000棟を超えていると報告されています2。

歴代最強の竜巻発生、ユーザーの天気報告で見る被害状況


今回、静岡県牧之原市から吉田町にかけて発生した竜巻は、竜巻の階級を表すJEF(日本版改良藤田スケール)で過去最大級の3に該当し、推定風速は過去最大の約 75m/s と推定されています1。また、アプリユーザーから当社に寄せられた写真や動画「ウェザーリポート」を見ても、台風の影響で発生した突風による被害が広範囲で確認されています(写真2,3)。
ウェザーニューズ 予報センターからの解説
9月5日、竜巻が発生した当時の様子を、牧之原に設置されているレーダーでドップラー解析3を行いました。図4の左は降水量を示しており、右は赤がレーダーから遠ざかる向きの風、青がレーダーに近づく向きの風を表しています。そして、赤い丸で示した通り、経度138.2度・緯度34.7度付近に、強雨域かつ赤と青が隣り合う領域が確認できます。これは空気の流れが強くぶつかり合い回転していることを示しており、Tornado Vortex Signature(TVS)と呼ばれる典型的な竜巻のサインがはっきりと検出されました。
統計的に、台風に伴う竜巻は中心から東側に100-200㎞以上離れたところで発生することが多いとされていますが、ドップラーレーダーの解析結果からも、9月5日に牧之原市から吉田町にかけて発生した竜巻は、台風の中心にかなり近い位置で発生したことがわかります。

今回の竜巻は、被害状況や推定風速75m/sという発表から歴代最強の竜巻と言えますが、これだけ強い竜巻が発生したのは、台風の中心付近で竜巻が発生する条件が整ったことが要因と考えられます。台風に起因する活発な対流活動に加えて、南から強い暖湿流が流入したことでさらに上昇気流が強まり、地上まで渦が発達して竜巻に至ったと分析しています(図5)。

ウェザーニューズでは、竜巻が発生する直前や発生している最中に見られる、漏斗雲の「ウェザーリポート」が届いた場合に、現地の気象状況を解析した上でアプリユーザーに「竜巻アラーム」を通知し、注意を呼びかけるなどしています。
台風は積乱雲が集まってできているため竜巻の発生条件と一致しやすく、台風の接近・上陸が多い9月は竜巻の発生数が最も多い時期となっています4。 台風接近時は、最新の気象情報を確認し安全対策にお役立て下さい。
台風進路の精度評価
台風15号の進路予測について、世界各国の8つの気象予測モデルによる予測結果を評価しました。 図6は、台風が発生する前の2025年9月2日12時(UTC)における、各予測モデルの進路予測を示しています。多くの予測モデルは実際の台風15号の進路と同じく、九州に上陸して東寄りに進路を変え、太平洋側を東進する予測をしています。

GFS(NCEP):アメリカ国立環境予測センター ECMWF:ヨーロッパ中期予報センター UKMET:イギリス気象庁 GSM(JMA):日本気象庁 CMC:カナダ気象庁 HFSA:アメリカ海洋大気庁 ICON(DWD):ドイツ気象局
図7は、台風の中心位置の予測と実況の誤差を表したグラフで、横軸は予報時間(*時間先の予測)を、縦軸は予測と実況の誤差を示しています。ヨーロッパ中期予報センターのAI気象モデル(ECMWF AIFS)が60時間先以上までの予測誤差が200km以下であったことが分かります。 また、図8に示した中心位置の予測誤差の積算値を比較しても、ECMWF AIFSが最も予測誤差が小さい値となりました。 これらの結果から、台風15号の進路予測において、ECMWF AIFSの予測精度が最も高かったと言えます。
なお、今回降水量の予測についても評価しましたが、グローバルモデルでは日本で記録したような積算雨量400mmを超える大雨を予測しているモデルはありませんでした。


当社では、高精度の予報を提供するため、ウェザーニューズ独自の予測モデルに加え、他機関のモデルも活用したアンサンブル予報を行い、精度評価を通じて継続的な予報改善に努めています。引き続き、AI気象予測モデルも含め様々な予測モデルの精度検証を重ねることで、モデルの特性を深く理解し、皆様により高精度な気象情報をお届けできるよう努めてまいります。
Footnotes
- 1:令和7年9月5日に静岡県牧之原市、掛川市及び吉田町で発生した突風について ↩︎ ↩︎
- 2:牧之原市の突風は「竜巻」 市内のけが人74人、住宅被害1044棟 停電8日に全面復旧見通し=静岡 ↩︎
- 3:ドップラーレーダーは、雲の中の降水粒子に反射されて戻ってきた電波を受信することで降水や風の情報を得ることができます。https://www.data.jma.go.jp/stats/data/bosai/tornado/dr_notes.pdf ↩︎
- 4:9月は竜巻が圧倒的に多い時期 その理由とは? ↩︎