2025.10.10

欧州最新のAI気象予測技術が集結する「Using ECMWF's Forecasts 2025」に参加

9月15日から18日にかけて、イタリア・ボローニャで開催されたカンファレンス「Using ECMWF's Forecasts (UEF2025)」にウェザーニューズの予報センターから坂本晃平氏と藤野純平氏の2名が参加し、発表を行いました。今回はこの2名より、この国際会議への参加を通じて得た知見とそれを受けての今後の展望について紹介いたします。

UEF2025とは

UEF(Using ECMWF's Forecasts)は、ECMWF(欧州中期気象予報センター)が主催する年次イベントです。ECMWFは世界最先端の予報技術を持つ組織として気象の分野では広く知られています。今年のUEFの開催地は、ECMWFのデータセンターがあるイタリアのボローニャでした。

この会議は、ECMWFの気象予測プロダクトの開発者と世界中の利用者が一堂に会する貴重な機会です。ECMWFの開発者からは今後の開発方針が共有され、利用者からは開発者へのフィードバックが行われ、さらに利用者同士でお互いの経験を共有し合う場となっています。

特に今年は、ECMWFが創立50周年を迎えるという記念すべき年であり、50周年記念行事の一環として他のいくつかのイベントと合わせて開催されました。

参加の目的

今回のUEF参加の一番の目的は、世界のAI気象予測モデルの最新動向を知ることでした。世界の気象機関では最もその開発・運用が進んでいるECMWFやその他の公的機関、民間企業の取り組みを知ることは、グローバルにビジネス展開するウェザーニューズの予測技術戦略、サービス戦略を検討する上で非常に重要だと考えています。

そして、もう一つの目的は、気象予測におけるAI活用を牽引するECMWFの開発者と、実際に顔を合わせて関係を築くことです。ウェザーニューズでは、彼らが開発したモデルやツールを活用していますので、技術的な課題や要望が出てきた際にコミュニケーションが取りやすくなります。

一人の気象屋としても、私たちと同じようにAI気象モデルを扱う技術者が一堂に会するこの機会に、同志である技術者たちとコミュニケーションが取れることを、とても楽しみにしていました。

ウェザーニューズからの発表の内容と現地での反応

発表を行うウェザーニューズ予報センターの坂本晃平氏
発表を行うウェザーニューズ予報センターの坂本晃平氏

私たちはECMWFのAI気象予測モデルであるAIFSが日本域における極端現象に対してどのような予測を出していたかについてケーススタディをまとめ、発表しました。

発表では、日本域における極端現象として、今年の8月半ばに日本列島の広範囲に影響を及ぼした前線性の豪雨と、8月5日に群馬県伊勢崎市にて観測された国内最高気温を代表的な例として取り上げました。結果として、AIFSは極端現象に対してもある程度妥当な予測値が出せるものの、特に豪雨の表現は弱く、より解像度の高いAI気象モデルの必要性が示唆される結果となりました。

具体的には、前線性の豪雨の事例では、AIFSは降水のピークの地理的な位置については正確に予測することができていました。一方で、24時間降水量は実際には一部の観測地点で400 mmを超えましたが、 AIFSの予測では最大値でも約160 mm程度に留まりました。日本国内で最高気温を記録した事例は、伊勢崎で観測史上最高の41.8°Cを観測しましたが、AIFSの予測では伊勢崎の周辺を含めても40°Cを超える予測はされず、実際の観測記録よりもわずかに低い結果となりました。

詳しい発表内容については資料とビデオがECMWFのウェブページにて公開されているため、そちらをご参照ください。

発表を行うウェザーニューズ予報センターの坂本晃平氏と藤野純平氏(ECMWFの公式サイトより)

現地の参加者からの反応は非常に好意的で、日本域での評価という物珍しさも手伝って、発表後には多くの方に「Your presentation was interesting!」と声をかけていただきました。

参加を通じて得た知見と今後の展望

今回のUEF2025への参加は私たちにとって非常に大きな刺激となりました。特に印象的だったのは、日本の気象業界に比べて欧米、特に欧州の気象業界がいかにスピーディにAI活用を進めているかを身をもって体感したことです。

既にウェザーニューズ内でもAI気象モデルの開発及び活用は進められていますが、今回のUEF参加を通して得た知見やコネクションを活かしつつ、よりスピードを上げてドラスティックに進めていければと考えています。

今後もこのような国際的な場での発表や交流を重ね、ウェザーニューズの技術力を世界に発信するとともに、グローバルな気象予測技術の発展に貢献していきたいと考えています。

旅の小話

ウェザーニューズのロンドンオフィスのメンバーたちと
ウェザーニューズのロンドンオフィスのメンバーたちと

今回の出張は、世界の気象・気候を体感する上でも良い機会になりました。 ボローニャの気温は東京よりもやや低く、湿度も低いため比較的過ごしやすかったですが、日差しは強かったです。また、サマータイムの影響もあり太陽が南中する時間及び気温が一番高くなる時間が大きく午後にずれ込んでいることも新鮮でした。

ボローニャの次にパートナーとの打ち合わせのために訪れたロンドンでは、素晴らしい好天に恵まれました。ロンドンには1日しか滞在できなかったのですが、ウェザーニューズのロンドンオフィスメンバーからも、こんなに天気がいい日に来られるなんて本当にラッキーだと何度も言われました。翻って普段のロンドンの天気についても「推して知るべし」ですね。