2025.10.23

AIでお天気キャスターが読む原稿をポチッと作成、「お天気原稿エージェント」

ウェザーニューズは2025年10月7日にAIを活用した新サービス「お天気原稿エージェント」の試験提供を開始しました。

本ブログでは、単なる自動化に留まらない、AIを活用し、品質と透明性を両立させたサービス開発の舞台裏を、開発の経緯やこだわりのポイント、そして、「言語化」の重要性について開発に携わった萩行正嗣(はんぎょう まさつぐ)氏に聞きました。

テレビ・ラジオ局向け「お天気原稿エージェント」とは?

「お天気原稿エージェント」は、ウェザーニューズ提供の放送局向けAI原稿作成サービスです。全国2,000地点以上から原稿の対象とする地点を選び、最新の気象情報に基づいた高品質な天気原稿を自動生成します。経験や専門知識がなくても、均一で洗練された原稿を迅速に作成できるだけでなく、チャット形式で放送尺や内容の調整も簡単に行えます。

「AIサービス」と聞くと、情報の正確性や使われる情報リソースに不安を感じる方は少なくないと思いますので、利用者が納得できるようこだわりました。具体的には、どのデータを使って原稿を作成するか、を利用者自身が取捨選択できます。また、誤った原稿を読むリスクを下げられるよう、原稿と実際の予報・気象データを見比べながら原稿を修正できるインターフェースを採用しています。

他にも、こだわりのポイントとして、現地の体感情報「ポツポツと雨が降っている」「雪質がベチャっとしている」など、ウェザーニューズ独自のデータを取り込むことも可能で、数値だけでは分からない現地の感覚を自然に盛り込んだ原稿作成が可能です。

システム化からAIの活用に挑戦!品質と安定性を両立したサービスへ

ウェザーニューズは、100局を超えるテレビ・ラジオ局にアナウンス原稿やOA用画像を提供しています。以前はすべて人の手で原稿を作成していましたが、手作業による間違いや、夕方や災害時に業務が集中することなどが長年の課題であり、安定したサービス提供のためには原稿作成の自動化は重要なテーマでした。

第一段階として、2016年頃に社内向けの原稿自動作成の仕組みを開発し、手作業の軽減とデータ転記ミス防止に効果がみられました。 しかし、100%完璧な原稿とはいかず、作成された原稿の手直し作業は残っていましたし、原稿は提供後、お客様の手元で細かな訂正も行われていました。

このため、第二段階としてAIを活用した自動化にチャレンジするにあたり、お客様と一緒に原稿のルール作りができるシステム開発をしたいと考えました。

究極のインストラクション、40年のノウハウを詰め込んだAI

AIを活用した原稿作成支援のサービスが提供できるようになった背景には、いくつか理由があります。

1つ目は、AIの技術の発展です。我々が想像している以上に技術の発展は目覚ましく、サービスとして提供できる品質になってきています。

2つ目は、ウェザーニューズ社員の95%が社内イベントの「生成AIハッカソン」に参加したことです。開発経験のないスタッフも、たった1回、3時間程度ではありましたが、AI活用に対するハードルを下げてくれました。気象データをナレッジ1としてAIに与えてみると、こんなこともあんなこともできる、と身をもって実感できたことが何よりの収穫だったと思います。

ウェザーニューズには、天気のプロが原稿を書ける、という40年分の運営ノウハウがありました。これは財産であり、他では真似できないことです。このノウハウを言語化し、運営担当が直接AIのインストラクション2を書くことで、「究極のインストラクション」が完成しました。また、インストラクションはユーザーの手元で修正したり、新しいものを作ったりすることもできるので、お客様と一緒に原稿の完成度を高めていくことができます。

従来、新しいサービスを作ろうと思うと、日頃お客様の声を直に聞く運営担当と経験豊富な開発者が話し合いをしてサービスのロジックを構築していきます。しかし、今回、僕たち開発チームはUIの作成とデータの準備を行ったに過ぎず、運営担当自身がインストラクションを編集することでロジックを作り上げていきました。

僕は、AIとの触れ合いが運営担当者よりも少し長かったので、「この言葉では曖昧すぎるかも」「こうした方がAIに正しく意図を伝えることができるのでは?」とアドバイスしましたが、その程度です。お客さんの業務を一番理解している運営担当者たちが、サービスの肝である部分を自分の手で作り上げたのです。ハッカソンの賜物だ、と感動さえ覚えました。

AI活用で見えた「言語化」の重要性

ウェザーニューズ 陸上気象事業部 萩行正嗣 氏
ウェザーニューズ 陸上気象事業部 萩行正嗣 氏

当社では、原稿の自動化に取り組んだ実績があったからこそ、「ここはできるけど、ここは難しい」と課題が浮き彫りになっていました。当時難しいと感じた部分は、実は、AIの方が得意な部分だったと、今になって改めて感じています。

また、サービス開発の過程で、暗黙知の言語化という副次的なメリットも見えました。どうもAIに意図がうまく伝わらない、と感じる時は「暗黙知の割合が高い作業だった」と気づくことができ、AIに限らず知識継承の際には丁寧な言語化が必要である、という新しい発見がありました。AIが上手に原稿を書けるよう如何に言語化するか、AIと人のコミュニケーションに面白みを感じています。

なお、本サービスでは、チャット内容をAIに学習させる機能は入れず、インストラクションを修正することで初めて、AIを育てることができる仕組みにしています。これは、AIの学習結果がブラックボックス化することや、サービス品質のムラにつながることを回避し、日々の安定した品質を優先させるためです。引き続き、AI技術の進化や性能を見極めながら、学習機能の搭載については検討したいと考えています。

今後は、お客様のニーズを汲み取りながら、注警報や台風情報などを搭載し、書ける原稿の幅を広げたいです。また、AIの得意な部分と従来の自動化システムを組み合わせ、既存の原稿提供サービスを全て自動化できるよう、開発を続けていきたいです。

<参考>「お天気原稿エージェント」を操作してみた





Footnotes

  1. 1:ナレッジ:知識、知見、AIの生成の質と正確性を高めるために外部から追加される情報。本文ではウェザーニューズが蓄積してきた気象データや予報ノウハウを指します。 ↩︎
  2. 2:インストラクション:モデルの全出力に一貫性と方向性を与え、特定のタスクを効率的にこなせるようにAIを仕立てる目的で、AIモデルに対して「あなたは誰で、何を目的に、どう振る舞うか」という前提を明示する、根本的な文脈情報のこと。(例)「あなたはラジオ局のパーソナリティです。」「0度未満の気温は、マイナスと書いてください。」など ↩︎