2025.12.23

3500台のカメラをAIが瞬時に解析、リアルタイム霧検知システムの開発秘話に迫る

霧の発生は、道路では追突事故や渋滞発生の原因となり、空港では飛行機やヘリコプターの運航に大きな影響を及ぼすなど、交通の安全を考える上で必要な情報です。しかし、現在、霧の発生を自動で検知できるアメダスの観測地点は日本全国に90箇所しかありません。ウェザーニューズは、AIと日本全国に所有する約3500台のライブカメラを利用して、霧の発生を検知するシステム開発に挑戦しました。

もし、10分毎に霧の発生を正確に知ることができたら、どれだけの命と経済活動を守れるか?本ブログでは、本システムの開発を担当した髙橋大成(たかはしたいせい)氏に開発の経緯や活用方法について聞きました。




AIと独自インフラを活用しリアルタイムな霧の発生検知に挑戦

もともと、霧の発生状況を把握したいというニーズは、道路管理事業者や航空会社、テレビ局や船会社など、様々な市場で顕在化していました。ウェザーニューズでは、機械学習の技術を用いて、ライブカメラから霧の発生を検知するシステムを航空気象事業部で開発するなど、「霧のニーズ」に対して各チームが個別で対応していましたが、従来の機械学習では、1つのライブカメラに1つの機械学習モデルを適応する必要があり、膨大なライブカメラ全てでこの技術を適応するのは現実的ではありませんでした。

一方、2024年からソラコムのクラウド型カメラサービス「ソラカメ1」と「ウェザーニュース」の連携を開始するなど、ライブカメラネットワークの拡充が進んでおり、その数は2500台を突破しました。ウェザーニューズの予報センターではこのインフラをもっと活用したいという思いがありました。

近年、AI技術の著しい進歩が「ライブカメラを活用した霧の検知」というテーマの実現を導いてくれるのではないかと考え、ウェザーニューズが所有する約3500台のライブカメラを使って霧の検出に挑戦することにしました。




全国3500箇所のライブカメラから霧の発生を自動検知、あらゆる気象データを活用しコストと精度の課題を改善

ウェザーニューズ 予報センター 髙橋大成 氏
ウェザーニューズ 予報センター 髙橋大成 氏

本システムの開発過程では、AIの利用コストと精度の両面でいくつかの課題があり、実運用開始までに、私たちは複数のAIモデルを試行錯誤しました。例えば、あるAIモデルは霧を解析する精度は非常に高かったものの、1日あたり数十万円という莫大なコストが想定され、現実的な運用は不可能だと判断せざるを得ませんでした。

最終的に採用したAIモデルは、他のモデルと比較して圧倒的な低コストでありながら、実用的な精度を持つものでした。しかし、選定理由はコストだけではありません。このモデルは、具体的な指示(プロンプト)を与えることで精度を高めることができるという大きなメリットがあったため、採用を決めました。

さらに、利用するAIモデルを決定した後も、運用効率を最大化するための工夫を凝らしました。 例えば、AIによる画像解析を行う前に、霧の発生条件に当てはまらない地域のライブカメラを除外するなどです。ライブカメラの選定には、アプリユーザーからの天気報告や、湿度、風速、降水などの観測データを利用しており、コストの最適化と精度向上を実現することができました。

本システムでは、10分に1度、約3,500台のカメラを解析しています。これは1日あたり約50万枚の画像データを処理することに相当します。私たちはリアルタイムに霧の発生を検知することにこだわったため、この高い更新頻度は譲れないポイントでしたが、クラウド技術を利用することで、膨大な量のカメラ画像も一斉に解析することが可能になっています。

社内向けウェブシステム(イメージ)
社内向けウェブシステム(イメージ)

霧の発生を自動検知する本技術は、2025年11月に完成しました。また、 霧の検出結果を誰もが利用できるように、社内向けウェブシステムもリリースしています。霧の発生を検知すると、地図上のカメラ画像の枠が赤やオレンジに色づく仕様にしており、社内のスタッフからは、「日々の業務で利用して、お客様のサポートに役立てたい」と多くの反響がありました。




全国1kmメッシュの高解像度で高速道路管理会社向けのサポートを強化

今回の霧検知技術の開発は、気象観測において極めて大きな成果をもたらしました。

従来は観測地点が不足していたため、全国規模で「霧の実況解析値」を作成することは困難でした。しかし、本技術と当社予報士のノウハウを融合させることで、日本全国1kmメッシュという高解像度での解析値作成が可能になり、予報精度の向上が期待されます。また、解析値が確立されることで客観的な精度評価が行えるようになり、予測精度における課題も明確化します。

本技術は、すでに陸上気象事業部での試験運用を開始しており、高速道路管理会社向けのサポートに活用されています。しかし、私たちはこの技術を社内利用に留めるつもりはありません。将来的には、企業の皆様に解析結果を直接ご覧いただいたり、リスクの高まりを即座に通知したりする仕組みを構築し、霧による事故の削減と人々の命を守る社会貢献に繋げていく考えです。

さらに、本技術はどのようなライブカメラにも適応できる高い汎用性を備えています。この強みを活かせば、日本国内のみならず、世界中のライブカメラで霧の検出が可能になる日はそう遠くないと感じています。

Footnotes

  1. 1:「ソラカメ」は株式会社ソラコムの商標または登録商標です ↩︎