2025.12.25

「勘」に頼らない除雪判断——AIが挑戦した積雪予測の新しいかたち

冬の季節、雪は社会活動に深刻な影響を与えます。特に雪になれない都市部では、アスファルト上のわずかな積雪でもスリップ事故を招いたり、通勤や物流の遅延発生など交通網の乱れに繋がります。

こうした事態を防ぐため、道路の維持管理には「いつ、どこで、どれくらいの雪が路面に積もるか」という正確な予測が不可欠です。しかし、雪の予測は極めて難易度が高く、道路管理業務の支援に課題を感じていました。

本ブログでは、AIや機械学習を応用して新たに開発した雪の予測技術について、ウェザーニューズ予報センターの開発担当である青木 紘介氏に話を聞きました。




テクノロジーで予測の限界を超える、半信半疑からの挑戦

”雪の予測”と一言に言っても、今回の取り組みには2つのテーマがあります。 1つは、1時間あたりの積雪増加量を意味する「降雪量」の予測精度をあげること。 もう1つは、社会的影響が大きい”アスファルトの上”で雪がつもり始めるタイミング(0→1cm)を予測することです。

従来の予測手法では、降水量や気温を元に「空から降ってくる雪の量」を予測し、そこから積もる量を導き出すプロセスでした。しかし、単に空から降ってくる雪の量を足し算するだけでは、実際の「降雪量」とは一致しません。雪は湿り具合や重さによって積み重なり方が異なり、さらに積もれば積もるほど自重で圧縮されるなど、多くの要素が複雑に絡み合うため、予測ロジックの構築は極めて困難でした。

こうした中、ウェザーニューズでは近年、全社的にAIや機械学習の活用を推進する方針を打ち出していました。予報センターの現場でもAIの活用が進み、気象予測への応用ノウハウが蓄積されつつあった頃です。正直、私の中に「本当に機械学習で解決できるのか」という半信半疑な気持ちがありました。しかしそれと同時に、「機械学習を用いれば、この要素の多さも問題にはならないのでは?」「精度が少しでも向上すれば、社会貢献に繋がるはず」と期待を抱き、この難題に挑むことを決めました。

今回開発した降雪量の新ロジックは、過去の気象条件と当時の降雪量を機械学習させることで、現在の気象条件から降雪量を推定するものです。気象条件には、気温、降水強度、湿度、風、積雪深、路温、上空のなど、多岐にわたる要素を利用しています。

全国のアメダス地点で開発した新ロジックを評価したところ、従来のロジックよりも精度が高いことが確認され、結果は非常に良好でした。一部エリアでは、他のエリアと比べて精度が劣る部分がありましたが、詳しく分析すると、降水量の予測精度と相関があることが分かり、降水量の予測精度が向上すれば、「降雪量」の精度がさらなる改善が期待されました。

新ロジックを用いた「降雪量」は、すでに1年前から運用を開始しており、ウェザーニュースのアプリや「ウェザーニュース for business」の積雪深予測として、すでに多くの方にご利用いただいています。

ウェザーニューズ 予報センター 青木紘介 氏
ウェザーニューズ 予報センター 青木紘介 氏



世界に類を見ない「アスファルト上に積もる雪を予測する」ウェザーニューズだけの予測技術

さて、「降雪量」のロジック開発は良い結果に結び付いたのですが、まだ満足はできません。実際に社会的な影響が大きく、かつ、困難な「アスファルトの上で雪がつもり始めるタイミング(0→1cm)を予測する」次のステップへ進むことにしました。

このステップにおける最大の課題は、積雪に関する観測データが圧倒的に足りないということです。都市部にアメダスのような観測地点は少ない上に、アメダスは芝生や鉄板の上で計測されており、道路とは環境が異なるため、実際の様子とは一致しません。具体的には、アスファルトの路面は、アメダス(積雪深)が設置されている芝生や鉄板の上と比べ、路面温度が高くなるため、雪の積もり始めるタイミングが遅れるのです。

観測データが足りないという課題に対して、単純にアメダスと同じ積雪深計を増やすことは金額と時間のコストを考えても現実的ではありません。そこで、AIによるカメラの画像解析を導入しました。AIには、道路の脇に設置されている100箇所以上のカメラを活用しました。

AIによる解析の結果、積雪なし(青色)、積雪あり(緑)
AIによる解析の結果、積雪なし(青色)、積雪あり(緑)

このようにアメダスに依存せずとも観測データを作り出すことができたため、このデータを実況値としてもう一つの新しい予測ロジック「降雪量アスファルトver」を開発することができました。 前半に登場した「降雪量」の新ロジックと同様に機械学習を用いていますが、より実態に即した予測を実現するため、道路特有の気象要素を数多く組み込んでいます。

これまでは、アメダスのような芝生の上に積もる雪を予測していましたが、今回の開発により、実社会で求められる「道路に積もる雪」を予測する技術を初めて確立できました。少しずつ、精度評価も開始しており、過去の社会的影響が大きかった事例においても、従来の予測より実態に近い予測結果が得られています。

今回開発した「降雪量アスファルトver」の予測は、今年から「ウェザーニュース for business」の「路面積雪リスク」として提供を開始しています。現在、民間企業各社から「自社のライブカメラを活用して精度向上に一緒に取り組みたい」との声もいただいています。ウェザーニューズの予報技術と、企業の現場データを融合させることで、より価値のある情報をユーザーへ還元する、という良循環が生まれ始めています。




最新テクノロジー×高精度予報でドライバーの安全を守れる社会へ

法人向け気象情報サービス「ウェザーニュース for business」1では、ピンポイントの最大10日間先の天気情報に加えて、道路通行影響予測では1kmメッシュ毎72時間先までの気象リスクを把握することができます。

また、1時間ごと3日先までの「路面積雪リスク」を低・中・高の3段階で示しており、除雪作業の開始タイミングなどにご活用いただけます。

道路管理事業者の方々は、「路面積雪リスク」で雪の積もり始めをウォッチし、その他の気象情報も活用しながら総合的に判断することで、最適な除雪体制を構築できるようになります。

従来の物理モデルによる予測では、精度検証に時間を要し、社会実装に繋がるまで長い期間が必要でした。しかし、今回の取り組みを通じて、機械学習やAIを活用することで新しい予測ロジック開発に対するハードルが下がり、社会実装までのスピードが格段に上がることを実感しました。

また、機械学習は強力なツールではあるものの、その根幹となる 精度の高い予報(データ)を持っていることが極めて重要 である、ということも改めて認識することができました。

ウェザーニューズは、今後も高解像度かつ高精度な気象予測の開発に努めるとともに、社会課題の解決に直結するプロダクトの開発を進め、より安全で便利な社会の実現に貢献してまいります。





Footnotes

  1. 1:法人向け気象情報サービス「ウェザーニュース for business」はこちら ↩︎