2026.01.29
海上と陸上の情報格差をゼロに。「鮮度」をプラスした最新オンボードシステムが描く船舶業界の未来
ウェザーニューズは「船乗りの命を守りたい」という思いから創業した会社です。創業のきっかけとなった事故のように、かつて海へ出た船乗りたちは極めて限られた通信手段の中で、孤独に航海せざるを得ませんでした。
1990年代以降、陸上で情報化社会が加速する一方で、海上の衛星通信はコストが高く帯域も限られていたため、陸上と海上の情報格差は広がる一方でした。
本ブログでは、海上の船長を直接サポートする最新のオンボードシステム「SeaNavigator for Master」の開発経緯やこだわりのポイントについて、開発を担当したMiles氏に話を聞きました。
海上の船員を孤立させない、安全運航と最適な航路選定をサポートするため加速する「海上のDX」
船舶業界における「海上の情報不足」は、安全性、効率性、そして環境対応のすべてにおいて長年の大きな課題でした。しかし今、この状況は劇的な変化を迎えています。 2022年の「Starlink」の海上サービス開始に象徴されるように、衛星通信の発達によって、海上でも高速・大容量のブロードバンド利用が可能になりつつあります。これにより、航海情報の共有だけでなく、数ヶ月間船上で過ごす船員の福利厚生(家族との連絡など)の面でも大きな転換期を迎えています。 もう一つの大きな変化は、国際海事機関(IMO)によるCO2排出規制の強化です。環境負荷低減が急務となる中、船長は気象や海象データをリアルタイムに分析し、安全でかつ最も燃料効率の良い「最適航路」を選定しなければなりません。 こうした背景を受け、ウェザーニューズは船員が利用するオンボードシステムを約10年ぶりに刷新。最新のネットワーク環境を最大限に活かし、「船長を孤立させない、地上と海上の情報格差をゼロにする」ことを目指したのが「SeaNavigator for Master」です。
海上でも常に最新の気象情報を。情報鮮度にこだわり抜いた「SeaNavigator for Master」
「SeaNavigator for Master」の最大の魅力は情報の鮮度です。 従来のサービスでは専用ソフトをPCにインストールする必要があったり、1日あたりに取得できる通信の制限のため「前日のデータ」や「解像度の低いデータ」を見ざるを得ないケースもありました。また、たとえ陸上の運航管理者が気象の変化に気づいても、船長に伝える手段はメールや電話に限られ、陸と海ではタイムラグが生じていました。
しかし、本サービスは船上にあるパソコンのウェブブラウザから見ることのできるオンライン型のサービスで、通信環境さえあれば常に最新の気象情報を自動取得し、地図上に表示します。万が一ネットワークが切れた場合でも、直近のデータをキャッシュしてオフラインで確認できるため、突然情報が途絶える心配もありません。
「SeaNavigator for Master」を利用する船舶では、海図様式の情報と重ね合わせて、風向・風速、波高・波周期、海流、台風の進路予測など、全海域の海象データを船上でも高解像度で確認することができます。

さらに、世界で初めて船舶向けのAIエージェントを搭載したことも大きな特徴です。このAIエージェントは、地上の運航管理者と海上の船乗りそれぞれが求める気象情報を届けるだけでなく、この船のルートとそれに関わる気象情報を自動で集約し、隣にいる人に相談するような感覚で運航判断の支援を受けることができます。
実際に、サービスの運用テストを船の上で開始したところ、海上のネットワークは想定よりも拡充しておらず、ネットワークの帯域を業務で十分に利用できるというステージではないことに気づき、データ量の取り扱いを工夫することにしました。こうしてデータ量の最適化を実施したことで、運航中の自分の位置情報はもちろん他のあらゆる船のAIS(船舶自動識別装置)や、高解像度な気象情報もリアルタイムに表示されるようになり、船の上でも実用的なシステムとして進化を遂げています。
また、今回の開発において「直感的なUIデザイン」に徹底的にこだわりました。海上での標準語は英語ですが、様々な文化やバックグラウンドを持つ船員が共通のイメージを持てるよう、テキストを極力排除し、アイコンを多用したデザインを採用しています。社内の多国籍なスタッフと議論を重ね、試行錯誤しながら作り上げたプロダクトです。
既に20社で導入、海上と陸上をつなぐコミュニケーションツールへ
私は、日本で英語講師として働く一方で、プログラミングに興味を持ち、実践的な開発講座や関心のあるオンラインコースを学びながら、独学でスキルを身につけてきました。その過程で、勤務先のスケジュール管理や労働時間の計算を自動化する簡易的なシステムを開発するなど、実務に近い形で開発経験を積んできました。そうした経験を経て、現在はディベロッパーとしてウェザーニューズに入社し、海運向けサービスのフロントエンド開発に携わっておよそ5年になります。
このプロジェクトでは、大小さまざまな課題に向き合うことになりましたが、どれも重要な学びにつながるものでした。最大の課題は、言葉の壁でした。ウェザーニューズの中でもSeaチームは多国籍なメンバーが多く在籍しています。日本語と韓国語が話せるスタッフ、日本語と英語が話せるスタッフ、韓国語と英語が話せるスタッフなど、「これ」という共通言語がありませんでした。ミーティングや社内のチャット機能で情報共有する時にはAIや翻訳ツールを駆使して、徐々にコミュニケーションが円滑になっていきました。
今回のリリースは、多くの仲間の支えがあって実現しました。長年のノウハウを惜しみなく共有し、導いてくれたリーダー。船員としての経験を活かし、的確なデータ開発を担ってくれた韓国チーム。そして、私と共にUI/UX開発を力強く推進してくれた開発メンバー。全員の協力があったからこそ、無事にリリースすることができたと感じています。
サービスの販売過程においては、時差も少なからず負担となっていました。海外の営業スタッフからリクエストがあっても即座に回答できなかったり、ミーティングの設定時間一つとっても、UTC(世界協定時刻)かJST(日本標準時刻)など、小さな疑問や悩みがありました。
チーム内でスケジュールカレンダーを共有するなど、積極的なコミュニケーションを意識することで、小さな課題を乗り越えることができたと思います。
私はアメリカの出身ということもあり、英語での社内コミュニケーションの橋渡し役を率先して務めています。また、海の上では英語が標準語ですので、トライアルの実施や船長へ提案を行う際には、自らプロダクトの魅力を伝えることができており、自身のアイデンティティを最大限に生かすことができていると感じます。
既に国内外20社で導入が進んでおり、現場からは「リアルタイム情報の入手が容易になった」「台風18号の際も非常に役立った」といった声が届いており、情報の鮮度という強みを実感いただけていることを嬉しく思います。
今後は、欧州とアジアで異なるニーズ、例えば「自分でルート編集をして燃費を節約したい」という要望や「気象のプロによる24時間のサポートを受けたい」という期待の両方に応えられるよう、さらなるアップデートを予定しています。その他にも、陸上と海上がより密に連携できるコミュニケーション機能の強化も視野に入れています。
ウェザーニューズはこれからも船員の声に耳を傾け、心から「船乗りの命を守れる」サービスを提供し続けていきます。
船長向け次世代型運航支援サービス「SeaNavigator for Master」の詳細はこちら


