2026.02.19

海運業界の業務負担を軽減、100万航海の実績データから誕生した船舶向けAIサービス

ウェザーニューズは、航海気象・運航管理・脱炭素対応を支援する、海運業界向けAIエージェント搭載サービスをリリースしました。 自然言語による問いかけに対し、専門的な回答を即座にフィードバック。あらゆる海運の現場において、お客様の業務効率化を強力にバックアップしています。 このAIサービスはいかにして生まれ、どのように活用されているのか? 本記事では、AI開発リーダーの墨氏(航海気象チーム)やカスタマーサクセスチームのAndreas氏に、開発の裏側と利用のメリットについて詳しく聞きました。




100万航海データを活用した船舶向けAIエージェント開発の背景

2024年以降、ウェザーニューズはエンジニアを中心にAIの活用が積極的に進んでいました。私たちが想像する以上にAI技術は進歩しており、「お客様にもAIを活用した新しい価値を提供したい」、「ウェザーニューズの資産である膨大なデータを組み合わせれば、顧客業務の高度化・効率化を実現できるはず」という強い思いが芽生えていました。 また、40年間、海運業界の方々を気象の面から支えてきたウェザーニューズだからこそ、船長、運航管理者、船主、経営層など多種多様なユーザーニーズに答えるAIを業界でいち早く作れるという自負もありました。

航海気象事業部 AIエージェント 開発リーダー 墨 幹 氏
航海気象事業部 AIエージェント 開発リーダー 墨 幹 氏



衛星電話やメールでの煩わしいコミュニケーションはもう不要!気象ブリーフィングはAIでスマートに

船が航行ルートを決める際、運航部門と船長が話し合いを行った上で、船長が最終的なルートを決定します。このとき、ウェザーニューズは安全でかつ燃料消費の少ない最適なルートを提案し、船舶会社の業務をサポートしています。

従来、ウェザーニューズからのサポートは、メールの添付資料や電話を通して船員に伝えていましたが、天気が刻一刻と変化する中で最新の情報を受け取れない、聞きたいことがリアルタイムに聞けない、陸上と海上では情報鮮度に大きな差が生じてしまう、といった課題がありました。 しかし、ウェザーニューズが提供する船長向けの新サービス「SeaNavigator for Master」*1では、船上の限られた通信環境でも利用できるウェブシステムで、いつでも最新の気象情報やルートが表示されます。また、AIエージェントを使うことで、気象やウェザーニューズの推奨ルートに関する解説を、いつでも受けることができます。

*「SeaNavigator for Master」については、別記事で詳しく解説しています。

航海気象事業部の中でもお客様と向き合い課題解決をサポートするカスタマーサクセスチームから、特に「SeaNavigator for Master」に詳しいAndreasさんに、AIエージェントの重要性について聞いてみました。

航海気象事業部 カスタマーサクセスチーム Andreas KALLIAKMANIS 氏
航海気象事業部 カスタマーサクセスチーム Andreas KALLIAKMANIS 氏

「AIエージェントの最大の強みは、24時間365日いつでも即座に対応できる点にあります。トラブルが発生した際、まずは人間を介さずに解決を目指す「最初の窓口(一次対応)」として非常に有効です。また、膨大なデータを瞬時に処理する能力において、AIは人間を遥かに凌ぐスピードを誇ります。 つまり、AIの活用は業務効率化に直結し、専門知識や経験がより求められる「難易度の高い業務」に注力できる環境を整えてくれるのです。

私は、ユーザー向けにデモンストレーションを実施する際、必ずAIエージェントを実際に利用し、いかに迅速に正確な情報を提供できるかを実演するようにしています。百聞は一見にしかず。使ってみたい、と思っていただける自信があります。

将来的には、AIエージェントが自動でルートの比較や検討を行い、あらゆるルートについて、選択するメリットとともに結論を導き出してくれるようになるでしょう。また、ユーザーのニーズに合わせた関連性の高い情報を提供できるようになるなど、AIエージェントのさらなる品質向上に期待しています。」




AIエージェントで実現する運航管理のDX、全フリートから“危ない1隻”を瞬時に特定

私たちの開発するAIエージェントは、船員向けの提供に留まらず陸上においてもその真価を発揮します。 陸上の運航管理者は、日々、各船から送られてくる「航海日誌(ヌーンレポート)」を参考に船の安全や航海計画が順調であるかチェックしています。しかし、世界中に散らばる何十隻、百隻ものフリート(保有船舶)の状態をすべて把握し、膨大なデータの中から潜在的にリスクを抱える船を見つけ出すのは至難の業です。

ウェザーニューズのAIエージェントでは、

「北太平洋の荒天リスクについてブリーフィングシートを作成(気象概況を解説)してください」

「今後3日間で、荒天リスクのある船舶をリストアップして」

と問い合わせるだけで、24時間稼働の「優秀なアシスタント」であるAIエージェントが、膨大なデータの精査を肩代わり。ユーザーの管理する全船を対象に、予定航路や最新の位置情報、航路上の荒天リスクから優先的に対応すべき船舶をリストアップしてくれるので、監視漏れのリスクを最小限に抑え、先回りした安全管理が可能になります。




脱炭素時代の経営を支援、CO2排出量の集計と可視化を即座に実施

そして近年、国際海事機関(IMO:International Maritime Organization)による環境規制が強化されるなか、海運経営において「安全性」「経済性」と並び、避けて通れない課題となっているのが「環境負荷の管理」です。管理している全船舶のCO2排出量を集計・比較分析するには、多大な時間と人手が必要ですが、ウェザーニューズのAIエージェントなら、

「この3ヶ月で最も燃費の悪い船を5隻リストアップして欲しい」

「自社管理船の、今年の累計CO2排出量を算出して」

と問い合わせるだけで、燃料消費、CO2排出量、速力、積荷状態などを瞬時に出力し、グラフを描画することも可能です。AIとの対話を通じて、会議に活用できる資料を作成でき、経営、コスト管理、環境への負荷軽減、資産管理など、幅広い目的でご活用いただけます。

開発チームでは日々、AIエージェントの回答について品質確認を行っていますが、とある回答が目に止まりました。人間が手作業で行えば1〜2週間は要するような高度な燃料消費データの分析を、AIはわずか15分で回答を提示していたのです。 AIがデータの集計・分析を行うことで、ユーザーが「戦略的な意思決定」に集中できる時間を創出し、業務品質を劇的に向上させた事例として、お客様の業務に大きく貢献しているという手応えを感じています。




船主向けに航行パフォーマンスを自動分析、データドリブンで高品質な船舶管理を実現

最後にご紹介したいのは、自社の船に関するパフォーマンス管理についてです。 船は長期間の航行により、船底にフジツボや海藻が付着します。わずかな汚れでも船体抵抗が増すことで燃費が10%〜20%悪化すると言われており、船主にとって、船の状態を正確に把握することは、ビジネスの根幹に関わる重要な業務です。

「好天(Good Weather)であるにもかかわらず、想定されるスピードが出ていない船をピックアップして」 と問い合わせるだけで、想定のパフォーマンスを十分に発揮できていない船を抽出でき、これまで経験則に頼っていたメンテナンスのタイミングを、客観的なデータに基づいて判断できるようになります。

また、船の貸し借りを行う「傭船(ようせん)契約」の際にも、AIが大きな役割を果たします。 契約に欠かせない「船の性能証明(好天時の速度と燃費)」の作成をAIがサポートします。過去の航海データと気象データを分析し、正確な「実力値」を瞬時に導き出します。これまで多大な時間を要していた複雑なデータ集計や客観的な気象解析のプロセスをAIが行うことで、契約準備の大幅な効率化と精度向上を同時に実現します。




AIエージェントが“真のオペレーションパートナー”になる未来

私たちのAIエージェントはセキュリティにもこだわり、設計しています。 船固有の運航データやユーザーからの問い合わせ内容は厳重に保護され、他社に漏れることはありません。また、入力した情報がAIモデルの再学習に自動利用されることもありませんので、安心してご利用いただきたいと思います。 その他、世界には同じ名前の船がいくつも存在するのですが、ユーザーのアカウントとウェザーニューズのサービス対象の船を紐づけて管理しており、誤った情報を提示するリスクを排除しています。

現在、ウェザーニューズのAIエージェントは、メニューごとにエージェントが個別に存在していますが、今後は、一つのエージェントが航海気象に関するあらゆる疑問を解決できる「総合型のエージェント」へと進化させる計画です。また、「AIが自発的にリスクを察知し、先回りしてレコメンドする」というプロアクティブな機能も実装する予定です。 完成もそう遠くなく、ユーザーの皆さまはぜひご期待ください。

わずか2年前、船上での意思決定に「AIエージェント」を組み込むという発想は、現実的なものではありませんでした。しかし、AIの進化は私たちの想像を超えるスピードで進み、現実のものとなっています。将来的には、当社のAIがお客様独自のシステムやAIと手を取り合い、より高度な連携が実現する未来も、そう遠い話ではないはず。 AIが「ツール」ではなく、陸と海のすべての現場で、共に悩み、共に最善を尽くす「真のオペレーションパートナー」になる未来。私たちはその未来を、お客様と共に創り上げていきたいと考えています。

Footnotes

  1. 1:船長向けの新サービス「SeaNavigator for Master」に関する詳細はこちら ↩︎