2026.04.01
【開発者にインタビュー】 世界最高精度の波の予測モデルを開発〜船長が迷わず舵を切れる情報提供で船舶業界に貢献したい〜
海上輸送や漁業など、海の安全に直結する「波の予測」。 2026年3月19日、ウェザーニューズは世界最高の精度を誇る新しい波・風の予測モデルをリリースしました。どのようにこの精度の高い情報を実現させたのか。 開発リーダーの坂本さんに、その舞台裏を聞きました。
最新のテクノロジーと独自データを活用したアンサンブル予報のモデルを開発
ー 坂本さん、新モデルのリリースおめでとうございます。今回、特にこだわったのはどのような点でしょうか?
坂本: ありがとうございます。お客様や運営現場から予報精度の改善への期待の声を聞いていましたので、予報精度にこだわった新しい予測モデルを作りたいと思っていました。 海の現場では、波の予測一つで航路を変えるか、作業を続けるかという重大な決断を下します。その判断を支えるため、圧倒的な精度と、現場が使いやすい情報の見せ方も追求しました。
ー 精度評価では、欧米の世界的な予測モデル(ECMWFやNCEP)を上回る結果が出たそうですね。
坂本: はい。有義波高の平均的予測誤差(RMSE)において、世界的に使われている2つの予測モデルと比較、精度評価を自社で実施しました。
その結果、ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)の6%減、NCEP(米国環境予測センター)と比べて18%減という評価結果となりました。

もう一つ、6m以上の波高の予測精度についても評価を行っています。
貨物の種類や積載状況にも依りますが、船にとって6mという波の高さは避航が必須となる波高であり、多くの船長が気にかける基準となります。
評価の結果、ECMWFやNCEPよりも、6m以上の高い波高を捕捉できる割合が高いことがわかりました。

ー 具体的にはどのような仕組みで予測しているのですか?
坂本: 今回開発した新予測モデルは、主要気象機関のアンサンブル予報を活用しています。合計80以上の異なる全球風・波浪予測の集合から独自の分析に基づいて、一つの全球風・波浪予測を作るモデルです。
ー なぜ、これほどまでの高精度が実現できたのでしょうか。
坂本: ウェザーニューズが持つ3つの強みがポイントとなっています。
1日1万通の独自データ: 広く知られている、波の観測データは衛星や海上の観測用ブイから得られるデータですが、私たちは世界中の海上の船から届く1日1万通以上の「レポート」も持っています。この膨大な実況データに基づく独自の分析を行い、予報精度を高めることができます。
クラウド技術による計算の効率化: 計算環境をオンプレミスからクラウドへ移行しました。 予測の計算時のみ多数のサーバーを起動し、予測の計算が終了したらそれらを落とすという柔軟で効率的な運用が可能になりました。 また、計算時間を短縮でき、従来よりも1時間早く最新予測を提供できるようにもなりました。
独自台風予報の反映: アンサンブル予報の多数の予測を例えば単純に平均して一つの予測を作ると、台風周辺の風速や波高の予測が低くなりすぎ、強風や高波の危険性を見逃してしまう可能性があります。 そこでウェザーニューズでは、台風専門チーム「グローバルストームセンター」が作る高精度な台風予報を自動で反映。台風周辺の強風や高波がしっかり表現できるようにしました。
「作る時間より、確かめる時間の方が長かった」約300項目の品質チェックを乗り越え完成。
ー 開発の過程で、特に苦労された点はどこですか?
坂本: 品質チェックですね。項目数はなんと300近くになりました。AIを使って新旧モデルを比較し、少しでもおかしな差異があれば原因を徹底的に調査して修正する。この繰り返しです。
ー 300項目!とても多いですね👀
坂本: 波のアウトプットは、うねり、風浪、周期、向きなど20種類以上に及びます。これらはすべて船の安全に直結する情報ですから、AIを使いつつも、最後はプロフェッショナルの「目」で品質を担保することにこだわりました。
ー この新モデルによって、現場の意思決定はどう変わるのでしょうか。
坂本: 例えば、2026年1月に北太平洋で発生した爆弾低気圧の急発達を、このモデルは発生の3日前に正確に捉えていました。
ー 3日あれば、できることは多いですね。
坂本: そうなんです。単に嵐を避けるだけでなく、最も燃料消費を抑え、到着時間を調整しながら余裕を持ったルートの再計算ができます。
また、弊社のプラットフォーム「SeaNavigator」では、従来の「明日の波は6m」という波高予測に加えて、6mの波高を超える可能性を示した「航行リスク(Wave Probability)」をみることができます。
私たちが「降水確率」をみて、雨が降る可能性が高いから傘を持ち歩こう、という意思決定を行うように、「揺れ絶対NGの自動車船だから航行リスクが0%のエリアを通ろう」といった、船種ごとや船の個々の状況に合わせた高度な判断が可能になります。

「迷わずに舵を切れる」精度の高い予報の提供で船舶業界の安全と業務効率化に貢献したい
ー 最後に、今後の目標を教えてください。
坂本: 気象は不確実なものですが、だからこそ私たちは「船乗りが迷うことなく舵を切れる情報を提供したい」という思いでモデルの開発に取り組んできました。
ここ数年急速に発展してきているAI気象モデルによって台風の進路予測の精度が向上してきていますが、まもなくAI気象モデルが波の予測も出せるようになり、さらなる精度向上が期待できます。
最新技術を取り入れ続け、船舶業界の安全と効率化に貢献していきたいですね。
波、風の新予測モデルの提供については、以下プレスリリースをご確認ください。 海運市場向けに「航海気象データセット」をAPIで提供開始

