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2013年1月14日関東地方の大雪に関して
2013年1月14日、本州の南海上を低気圧が急速に発達しながら通過し、太平洋側の広い範囲で降雪をもたらした。首都圏で大雪となり、交通機関が大きく乱れた他、積雪や凍結による転倒事故なども相次ぎ、関東地方で大きな影響が出た。雪に慣れていないエリアにとって、雪の状況など情報は非常に重要であるが、雪の降り方や、雪の積もり方に関しては、観測機だけでは状況把握が難しい。ただ、今回のケースにおいても全国のサポーター(ウェザーニューズ会員)からリアルタイムに寄せられる沢山のリポートによって、状況を的確に把握することにより最新の雪情報を共有することができた。
首都圏では東京都心で8cm、横浜で14cm、千葉で8cmの積雪を観測するなど、7年ぶりの大雪となり、多数の転倒事故が発生し、道路・鉄道・航空の交通機関に大きな影響を及ぼした。
気象起因の災害を最小限度に食い止める『減災』につなげるために、今回の大雪事例について、サポーターからの膨大な情報と当社独自観測データをもとにした実況および解析結果や事前予測可能性などを振り返る。
尚、当社では公共機関から提供される気象観測データだけでなく、当社サポーターからの情報(感測)や当社が独自に設置した観測機のデータをもとに、気象とその影響について予測している。以下は今回活用した観測、感測情報である。このうち、サポーター情報は品質に個人差、地域差が発生する可能性があるが、その集合を用いて統計的な処理を行うことで、他データとの比較や併用が可能と考えている。
<大雪の被害範囲を想定するために利用したデータ>
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左図は面的に展開した解析情報
これ以外にも気象予測上ポイントとなる地域にはWITHレーダーやライブカメラを設置、監視している。
※ソラテナ(WITHセンサー)とは、KDDI株式会社と共同で設置した独自気象観測機
【当日の概況】
14日は、日本列島の南岸を低気圧が急激に発達しながら北東進し、関東地方を中心とする太平洋側で降雪をもたらした。この低気圧の発達は、気圧の谷や非常に湿った空気の影響で、記録的なものとなった。
WITHセンサーの地上気温の分布(図4)を見ると、14日9時には気温2℃以下となっているのは関東の北部や西部の山沿いだけであったが、12時には関東平野のほぼ全体を覆うまで拡大した。発達した低気圧により、山沿いなどから冷気が平野部へ流れ込み、また強い降水による冷却効果が働いたと分析される。
【前日までの予測について】
雪の予測には地上付近の気温の予測が重要であるが、日本を含む各国気象機関の数値予測モデルではいずれも地上付近の気温を実況より高めに予測していた。本州南岸で低気圧が急発達する場合、数値予測モデルは全般に地上付近の冷気を弱く表現する傾向がある。今回は2012年2月29日などの過去の南岸低気圧との類似点に注目し、各モデルの気温を低めに補正して考えた。
<過去:2012年2月29日の事例>
この事例では数値予測モデルでは平野部の降水は概ね雨で予測されていたが、実際には図5右のようにほとんど雪となった。
<当社独自数値予測モデル(OWN)による予測値>
当社の独自数値予測モデル(OWN)では、降水中の雪の割合を予測しているが、前日(13日)の予測で関東西部から都心部にかけて雪の可能性が高いと示されていた。
初期値1月12日21時による1月14日午後3時の雨雪予想。
<降水相Index>
~0.3:雨の可能性高い
0.3~0.7:みぞれの可能性高い
~1.0:雪の可能性高い
<前日での当社の予測見解>
こうした過去のモデルの予測とサポーターによる状況情報の比較や、当社独自数値モデルの予測結果から、都心部が積雪となり社会的に大きな影響が出る可能性が高いと分析し、当社サポーター向けに情報を発信し、13日夜には号外として『都心でも積雪に注意 明日、成人の日は雨が段々雪に変わり、積雪の恐れがあり。交通への影響も心配。』としてサポーターにメールおよびスマートフォンのポップアップ機能等を通して、お知らせを実施した。
【当日の推移、解析】
前日の段階で、関東地方は雪と予測したが、積雪量や雪が激しくなる時間までを正確に予測することはできなかった。当日は、サポーター情報と当社独自インフラを用いて実況をより詳細に把握することによって、予測を随時更新した。
<サポーターリポートによる解析>
午前8時頃までは関東平野は、ほとんど雨であったが、午前9時から10時頃になると、冷気塊が拡大した神奈川県東部、東京都西部から、雪のリポートが多数届くようになった。東京都内のサポーターからの報告数では、9:30頃から雪の報告が全体の割合の50%を超え、雨から雪に変化したことが確認できた。
<サポーターリポートと観測データを融合した独自予測システム>
当社では、2011年〜2012年の冬より地上観測データとサポーターリポートの降水相を融合した客観解析とその短時間予測を開発・試験運用している。このデータによると、神奈川県東部付近に本格的な降雪が始まる約1時間前の9時から、雪となる可能性を予測できた。
<WITHレーダーによるブライトバンド解析>
雨から雪への変化についてはサポーターからの報告に加えて、WITHレーダーによるブライトバンド観測によってより詳細な解析を行うことができた。
※ブライトバンド:融解層に対応し、雪やあられが下降しながら融けて、レーダーの反射強度がその上下より強まる層。
千葉県八街市に設置されているWITHレーダーをみると、ブライトバンドが確認できた(9時41分時点)。
すなわち地表付近が雨であることを裏付ける観測結果と言える。10時40分までの間、千葉県上空にブライトバンドが継続して確認できた。
(水平面図の白線における鉛直断面が右図となる)
<刻々と変化する路面状況の把握>
路面に積もった雪は当日夕方から翌朝にかけて『シャーベット状』から『ツルツル路面』へ変化していった。
路面の状況は既存の観測値で把握は難しいが、ソラミッションによりサポーターからの情報が細かく上がることで状況を把握することができ、これにより交通への影響、事故の恐れについてより深く言及、メッセージ化することが出来た。
※ソラミッション:当社サービス、ウェザーニュースタッチで日々行われる天気や季節の変化を感じたり、ウェザーリポーターとしての腕を磨く場。
【まとめ】
今回の事前の予測から当日の状況にかけて、下記のことが改めて確認された。
- 短期予報(前日時点の予報など)について、現在の気象の数値予測モデルでは十分に表現できない現象 がまだ多く存在し、南岸低気圧による雪はその顕著な例である。これにはサポーター情報も含めた 過去事例による数値予測モデルの補正が必要なほか、人の体感や経験知も活かした総合的な判断が必要 である。
- 積雪量の予測、雨から雪への変化のタイミングの詳細は依然として予測と実際の差異が現れており、 『減災』に役立てるためにはさらに観測、感測の充実、それに予測技術の向上が必要である。
- 目先数時間の降水相、降雪量、積雪量の予測についてサポーター情報を用いた解析が有効である。
現状まだ課題は多いものの、今後、気象災害による被害の低減に向けて、気象観測器や気象予測手法の充実とともに、人の体感や感覚を含むより多くのデータを活用することの重要性を確認できた事例と考える。
今後とも、ウェザーニューズでは、多くのサポーターからお寄せ頂いた情報を解析、共有しながら、より多くの方々に気象の観測、感測に参加して頂き、『減災』およびより良いサービスの提供へ繋げていきたいと考える。