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台風9号に伴う大雨と暴風について(関東・北海道)

 2016年8月22日、台風9号が千葉県館山市に上陸しました。台風の通過により、関東地方の各地では大雨や暴風となり、道路冠水や土砂崩れ、停電など、多くの被害が出ました。鉄道では、JR東日本の山手線や常磐線、東海道線が運休となり、道路では、圏央道で相模原市のトンネル内が冠水のため一部通行止めとなりました。さらに、航空でも、羽田空港では400便以上が欠航となり、成田空港では管制塔の避難基準を上回る強風が吹いて、一時、職員が避難して滑走路が閉鎖されるなど大きな影響が出ました。台風は22日夜から23日にかけて東北地方から北海道へと進み、北日本にも大雨や強風をもたらしました。

1.被害状況

 空や雨に関する写真付きの報告が8月22~23日の2日間で合計49,500通ほど届き、被害を知らせる「減災リポート」(※)も数多く寄せられました。(図1, 2)

図1: 関東地方から寄せられた「減災リポート」
図1: 関東地方から寄せられた「減災リポート」
図2: 北海道から寄せられた「減災リポート」
図2: 北海道から寄せられた「減災リポート」

※「減災リポート」はスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」を通して、当社予報センターに寄せられる被害報告です。当社では、被害がいつ・どこで・どんな原因で発生したかを共有し、少しでも被害を軽減することを目的に、自助・共助による減災の取り組みを進めています。
◆減災リポートマップはこちらから(過去のデータも閲覧可)

 

2.台風の経路

 台風9号は19日15時に日本のはるか南の海上で発生しました。海面水温が29~30℃の暖かい海面から水蒸気の供給を受けつつ、ゆっくりと発達しながら北上して、22日4時に八丈島付近で勢力はピークに達しました。さらに北上を続けた台風は、22日12時30分頃に千葉県館山市に上陸し、勢力を落としながら、関東地方の東部から東北地方の太平洋側を縦断しました。その後、岩手県から再度太平洋へ出た後、23日6時頃、北海道の日高地方に再上陸し、23日12時にオホーツク海で温帯低気圧に変わりました(図3)。

図3: 台風9号の経路 経路上の丸の色は中心気圧を、海上の色は海面水温を示す
図3: 台風9号の経路
経路上の丸の色は中心気圧を、海上の色は海面水温を示す

今年の台風はいつもと違う?! 北海道への上陸が多い理由

 今年、北海道に接近または上陸した台風はこの9号を含めて5個(5, 6, 7, 9, 11号)にのぼり、全て8月に接近または上陸しています。1951年から2015年までの記録によると、年間で北海道に接近した台風は、最大4個(気象庁HP「台風の接近数」より)であり、今年は8月時点で既に、統計開始以来最も台風の上陸または接近が多い年であると言えます。
 台風の進路に大きな影響を与えているのが、気圧配置です。例年の8月には、日本の南海上で太平洋高気圧が発達すと進むことが多く、日本へは時折、南西諸島や西日本に向かうことがある程度です。一方、今年は太平洋高気圧が日本の東海上に偏っており、日本のはるか南で発生した台風はその東に偏った高気圧の縁に沿って北上するため、東日本や北日本に接近しやすくなっています(図4)。

図4: 今年8月の台風の経路と気圧配置(8月23日時点)
図4: 今年8月の台風の経路と気圧配置(8月23日時点)

3.関東の大雨
3-1. 大雨の状況

 台風の中心は千葉県から茨城県を通過しましたが、その中心の経路から少し西に離れた栃木県や埼玉県、東京都、神奈川県で24時間に100mmを超える雨となりました。特に埼玉県南部から神奈川県北部にかけては、24時間に200mmを超える大雨となりました(図5, 表1)。

図5: 21日19時〜22日19時の24時間積算雨量(アメダスの解析)
図5: 21日19時〜22日19時の24時間積算雨量(アメダスの解析)
表1: 大雨となった主な地点における22日の日降水量
表1: 大雨となった主な地点における22日の日降水量
 

 大雨による影響を調査するため、8月22〜23日にスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに対して「雨の状況は?」と質問し、“道路冠水”、“家屋への浸水”、“土砂災害”、“被害なし”から回答を選択していただきました。全国17,082人の回答から、関東の広い範囲で道路冠水が発生しており、特に雨量の多かった埼玉県南部から神奈川県北部にかけては、家屋への浸水も多く発生していることがわかりました(図6)。都道府県別に見たところ、道路冠水の割合が最も多い地域は埼玉県(21%)で、次いで茨城県(16%)、栃木県(15%)、千葉県(13%)、東京都(10%)、神奈川県(10%)と関東に被害が集中していることが明らかになりました(表2)。

図6: 雨による被害に関する調査結果(凡例の回答数は関東)
図6: 雨による被害に関する調査結果(凡例の回答数は関東)
表2: 都道府県別 雨による被害に関する調査結果(上位6県)
表2: 都道府県別 雨による被害に関する調査結果(上位6県)

3-2. 大雨の要因

 関東地方の西側で特に大雨となった要因として、南北に伸びる局地前線が形成されたことが考えられます。図7左のように、台風の上陸前後、埼玉県から東京都、神奈川県にかけて、北からの比較的低温な気流と東寄りの比較的暖かい気流がぶつかり、局地的な前線が形成されました。風の観測データから解析される上昇気流がこの前線付近で強くなっていたことがわかります(図7中央)。そこで積乱雲が発達し、激しい雨を継続させたと考えられます。このような関東西部の局地前線は、2015年7月15日の台風11号接近時にも見られ、神奈川から東京、埼玉にかけて大雨をもたらしました。このような局地前線は、台風の接近の際には平野部でも大雨をもたらすことがあるため、警戒すべき現象です。

図7: 8月22日 関東の観測データ 左:アメダスの気温と風(等値線と数字は温度を示す) 中央:22日12時の地表付近の風と上昇気流の解析(赤い色ほど上昇気流が強く、値は指数を表す) 右:22日12〜13時の降水量 ※点線は局地前線の位置を表す
図7: 8月22日 関東の観測データ
左:アメダスの気温と風(等値線と数字は温度を示す)
中央:22日12時の地表付近の風と上昇気流の解析(赤い色ほど上昇気流が強く、値は指数を表す)
右:22日12〜13時の降水量
※点線は局地前線の位置を表す
 
4.関東の暴風
4-1. 暴風の状況

 台風の通過に伴い、関東地方の各地で最大瞬間風速30m/sを超える暴風が吹きました。表3はその代表例です。これらの最大瞬間風速は、概ね台風の中心が近くを通過した時間帯で観測されています。

表3: 暴風を観測した主な地点の最大瞬間風速
表3: 暴風を観測した主な地点の最大瞬間風速

 風による影響を調査するため、8月22〜23日にスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに対して「風の被害は?」と質問し、“大きなものが飛ぶ”、“停電”、“倒木”、“被害なし”から選択していただきました。全国10,737人の回答から、大きなものが飛んだ割合が最も多い地域は茨城県(14%)で、次いで千葉県(13%)、栃木県(9%)、福島県(8%)、埼玉県(6%)となり、関東南部や茨城県を中心に倒木や「大きなものが飛ぶ」といった報告が多く寄せられました。また、台風の中心が通過した千葉県や茨城県では、停電や倒木が多く発生していることがわかりました(図8, 表4)。
図8: 風による被害に関する調査結果(凡例の回答数は関東)
図8: 風による被害に関する調査結果(凡例の回答数は関東)
表4: 都道府県別 風による被害に関する調査結果(上位5県)
表4: 都道府県別 風による被害に関する調査結果(上位5県)

 

4-2.暴風の要因

 台風の中心付近の様子を詳しく見るため、ウェザーニューズが全国約3,000カ所に設置している独自観測機「WITHセンサー」の気圧データから海面気圧を解析しました。千葉県内では気象庁の気圧観測計は千葉、館山、勝浦、銚子の4カ所、一方、「WITHセンサー」は約110カ所にあり、気象現象を細かく解析するのに効果的です。

 図9のように、台風の渦に対応した同心円状の気圧の低い部分が千葉県から茨城県へ進んでいく様子が解析されます。中心から60km程度の範囲内では特に等圧線の間隔が小さくなっています。等圧線の間隔が小さいところでは大きな気圧差により、非常に強い風が吹きやすくなります。

図9: 「WITHセンサー」の海面気圧 現地気圧データから推定。等値線と色が海面気圧を示し、赤色ほど気圧が低い。 ※海上は陸上のデータからの外挿のため信頼性に劣る。黒丸と黒太線は気象庁の台風経路を示す。
図9: 「WITHセンサー」の海面気圧
現地気圧データから推定。等値線と色が海面気圧を示し、赤色ほど気圧が低い。
※海上は陸上のデータからの外挿のため信頼性に劣る。黒丸と黒太線は気象庁の台風経路を示す。

 最大瞬間風速36.0m/sを観測した22日14時10分の成田付近の状況を詳しく解析しました。その時の海面気圧と降水強度(図10)を見ると、台風の中心から約15kmの範囲では等圧線の間隔は広く、雨も弱いですが、その外側の幅約20kmの範囲では等圧線の間隔が特に狭く、雨も強く降っています。中心から約15kmまでは台風の目に相当すると考えられます。台風の目のすぐ外側で風速が非常に大きくなるということは、目を持つ台風の共通した特徴で、成田はそのエリアに入った結果、30m/sを超える暴風となったと推測されます。

図10: 22日14時10分の「WITHセンサー」の海面気圧(等値線)と降水強度(色、気象庁レーダー)。白丸はアメダス成田の位置を示す。
図10: 22日14時10分の「WITHセンサー」の海面気圧(等値線)と降水強度(色、気象庁レーダー)。白丸はアメダス成田の位置を示す。

 また、「WITHセンサー」の海面気圧の24時間最低値をプロットすると図11のようになります。気圧の低い部分(赤色)が台風の中心の経路によく対応しています。もっとも気圧の低い帯状の部分の幅がおよそ20-30kmであり、これが台風の目の直径に対応していると考えられます。

図11: 「WITHセンサー」の海面気圧の22日24時間最低値(等値線と色)。黒丸と黒太線は気象庁の台風経路を示す。矢印は台風の目の直径に対応すると思われる距離を示す。
図11: 「WITHセンサー」の海面気圧の22日24時間最低値(等値線と色)。黒丸と黒太線は気象庁の台風経路を示す。矢印は台風の目の直径に対応すると思われる距離を示す。
  1. 北海道の大雨

 台風が北海道を縦断したことにより、北海道の一部でも大雨となりました。台風が通過した時間帯を含む24時間の積算降水量(図12)を見ると、日高地方・胆振地方から上川地方・十勝地方にかけて100mmを超える雨量となっており、特に日高門別では178mmの雨量を観測しています。
 北海道では8月16日頃から、台風7号や台風11号、前線の影響で大雨が降っており、今回の雨を含めた7日間(16日12時〜23日12時)の総雨量は300mmを超える雨となっているところが広範囲にあり、場所によっては400mmを超えているところもあります(図13)。このような大量の雨が、土砂災害や河川の氾濫などにつながりました。

図12: 22日12時~23日12時の24時間積算雨量(アメダスの解析)
図12: 22日12時~23日12時の24時間積算雨量(アメダスの解析)
図13: 16日12時〜23日12時の7日間積算雨量(アメダスの解析)
図13: 16日12時〜23日12時の7日間積算雨量(アメダスの解析)
  1. 最後に

 台風9号は8月22日に千葉県に上陸し、茨城県から東北地方へと縦断しました。台風の通過に伴い、関東地方の西部では24時間に200mmを超える大雨が降りました。局地的に形成された前線によって台風に伴う積乱雲がより発達したことが大雨の要因であると考えられます。また、台風が上陸し、その中心が通過した千葉県では30m/sを超える最大瞬間風速が観測されました。「WITHセンサー」のデータを用いて解析した結果、台風の目のすぐ外側の、気圧差の大きい部分が通過したことがそのような暴風につながったと推測されます。また、「WITHセンサー」のデータから、台風が関東地方を通過した際の目の大きさは直径20〜30kmであったと推定されます。
 台風は23日に北海道を通過し、それまでに通過した台風や前線による雨と合わせて、7日間で300mmを超える大雨となっていました。そのような記録的な雨が河川の氾濫などの被害につながっています。
 ウェザーニューズは、独自の観測インフラによる観測情報や全国1,000万人のウェザーリポーターの報告を24時間監視し、台風予測に活用することで、被害軽減に努めていきます。

 

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