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2月10〜12日、西日本日本海側を中心とした大雪について
1.はじめに
2017年2月10日から12日にかけて、日本列島に非常に強い寒気が流れ込み、西日本の日本海側を中心に大雪となりました。鳥取市では1984年以来、33年ぶりに90cmを超える積雪を記録しました。鳥取県内では雪の重みにより漁船など約30隻が沈没・転覆しました。また、JR山陰本線の運転見合わせが発生したほか、静岡県内の新東名高速道路では積雪や凍結のため一時1,000台の車が立ち往生するなど、近畿や東海でも影響がありました。
2.大雪の様子
10日から12日にかけて日本海側を中心に降り続いた雪は記録的なものとなりました。鳥取市の積雪は、10日5時の時点では1cmでしたが、その後急激に増加し、11日13時には観測史上5位となる91cmを観測しました。JR山陰本線で運転見合わせが発生した区間に近い、兵庫県豊岡のアメダスでは、12日に80cmの積雪を観測しました。また、9日以前から雪が積もっていた兵庫県の兎和野(うわの)高原や、岡山県の上長田(かみながた)、広島県の高野については、1日の降雪量が記録的なものとなりました(表1)。
当社には10日から13日にかけて合計52,441通のウェザーリポートが届きました。今回は、重く湿った雪という報告が多く寄せられたことが特徴的です(図1)。
当社はリアルタイムに積雪状況を把握するため、全国のウェザーリポーターと積雪調査を実施しました。
10日7時から12日24時にかけて、スマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに「積雪の状況は?」と質問し、“積雪なし”、“芝生にうっすら”、“道路にうっすら”、“道路にしっかり”から選択してもらいました。全国12,489人の回答から、中国地方、近畿北部、九州山地や四国山地の周辺などで道路に積雪していたことがわかりました(図2)。
また、積雪をより定量的に把握するため、10日7時から12日24時にかけて、「積雪の深さは?」と質問し、全国4,897人のウェザーリポーターに定規で測っていただきました。西日本の中でも鳥取県、兵庫県、京都府、滋賀県からは60cmを超える積雪報告がありました(図3、紫色と紺色の丸)。
11日2時頃から、静岡県の新東名高速道路上り線の長泉沼津IC〜御殿場JCT間を走行中の車両約1,000台が雪の影響で立ち往生しました。静岡県内には積雪深を計測するアメダスはありませんが、周辺のウェザーリポーターの報告から、10日21時頃から11日2時頃まで5時間にわたって降雪したこと(図4、黒線枠内)や、“道路にうっすら”程度に積雪があったこと(図5、黒線枠内)がわかります。
3.大雪の要因
3-1. 記録的に強い寒気
2月9日に本州付近を低気圧が通過した後、日本付近は冬型の気圧配置となりました(図6)。それに伴って大陸から日本列島に非常に強い寒気が流れ込み、上空約5,000mの気温は山陰から近畿北部、北陸にかけて-40℃前後にまで下がりました。この非常に強い寒気は10日から12日にかけて約3日間、本州付近に停滞しました(図7)。
島根県松江市の高層気象観測では、10日21時に上空約5,000mで-40.3度を記録しました。これは21時の観測(高層気象観測は9時、21時の1日2回)としては史上2位、2月の21時の観測としては史上1位の低い気温となります(表2)。
3-2. 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)
冬型の気圧配置になると、日本海上には日本海寒帯気団収束帯(Japan sea Polar air mass Convergence Zone; JPCZ)と言われる風の収束帯が現れ、その周辺では上昇気流により雪雲が発達することが知られています。今回もJPCZが形成され、それが差し掛かった山陰から近畿北部にかけて、発達した雪雲が流れ込みやすくなりました。
図8、9のように、風の収束に対応して雲が発達し、山陰東部から近畿北部にかけて強い降水が見られ、JPCZが今回の大雪の直接的な要因であったことが言えます。
3-3. 強い降雪と湿った重い雪
最大積雪深が91cmを記録した鳥取市のアメダスの観測値の経過を見ると、10日朝から11日昼頃にかけて降水が続き、積雪が深くなっていったことがわかります(図10)。特に10日17時から11日0時にかけては、7時間で急激に積雪が40cm増えました。この間、平均6mm/h程度の強い降水が継続しており、これは、JPCZに伴う発達した雪雲が継続的に通過したためと考えられます。
また、今回の日本海沿岸の雪は湿った重い雪であったことが報告されています。鳥取県では港に停泊中の漁船が雪の重みにより沈没・転覆しました。鳥取県のウェザーリポーターからも、重い雪で木の枝が垂れ下がっていると報告がありました(図1)。一般に、気温が0℃前後で、かつ湿度が高い状況で降る雪は、湿った重い雪になりやすいと言われています。鳥取のアメダスを見ると、積雪が増加した10日6〜12時、10日18時〜11日13時には気温が-1℃から1℃の間にあり、湿度が95%前後で、湿った重い雪が降りやすい状況になっていたと言えます(図10)。
3-4. 静岡の局地的な収束線
静岡県東部で降雪があった2月10日深夜から11日未明にかけて、駿河湾付近から東南東へ伸びる局地的な収束線が形成されました(図11)。この収束線は、日本海からの季節風が中部山岳を迂回し、太平洋側で合流することで形成されます。収束線付近では上昇気流が強まることで、雪雲が発生、発達し、上空の西寄りの風に流されて、御殿場や神奈川県側に雪をもたらしたと推測されます。
4. まとめ
2月10日から12日にかけて、西日本の日本海側で大雪となり、鳥取市では33年ぶりに積雪90cmを超える記録となりました。ウェザーリポーターからの報告によると、西日本では山陰や近畿北部に加え、九州山地や四国山地の周辺でも積雪していたことがわかりました。
大雪の主な要因としては、期間を通して記録的に強い寒気が流れ込んだことと、JPCZが山陰東部から近畿北部の沿岸に停滞していたことが挙げられます。また、アメダス鳥取の当時の観測値をみると、 “気温が0℃前後で湿度が高い”という、湿った重い雪が降りやすい条件となっており、それが漁船の沈没に繋がったと考えられます。
一方、新東名高速道路で立ち往生が発生した静岡県の東部でも、局地的に数時間にわたって雪が降り、積雪していたことが確認できました。この積雪は、駿河湾付近から東南東へ伸びる収束線に伴って、約5時間にわたって雪雲が継続的に発生したことでもたらされたとみられます。
当社は、全国のウェザーリポーターから寄せられる報告をいち早く予測に反映し、共有することで被害軽減に努めていきます。Wx Filesは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。