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記録的長寿の台風5号による大雨について

はじめに

 2017年7月21日9時に日本のはるか南東海上で発生した台風5号は、約2週間にわたって海上をゆっくりと移動し、8月4日から5日にかけて奄美大島付近を通過しました。その後、九州や四国の南を通過して7日午後に和歌山県に上陸し、9日3時に日本海上で温帯低気圧に変わりました。発生から温帯低気圧に変わるまで18日18時間という、観測史上3位の長寿台風となりました。

 台風の通過に伴い、奄美大島では1日で500mmを超える記録的な大雨となり、建物の浸水が発生しました。九州や四国、近畿、北陸でも多いところで300〜400mmの大雨となり、滋賀県長浜市では姉川が氾濫しました。また、愛知県豊橋市では、台風のアウターバンドの積乱雲の通過に伴って竜巻と推定される突風が発生し、トラックの横転や建物への被害をもたらしました。さらに、台風の中心から離れた山梨県でも線状降水帯が発生し、JR大月駅周辺では線路が冠水し、大月市の中央自動車道でも土砂が流れ込み、通行止めとなるなど大きな被害が発生しました。

1.被害状況

 8月5日から8日にかけて、全国のウェザーリポーターから大雨、河川の増水や氾濫、土石流などの報告が81,462通届きました(図1)。

図1:ウェザーリポーターから寄せられた報告

 

 風の被害状況を調査するため、8月4~9日にスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに対して「風の状況は?」と質問し、“大きなものが飛ぶ”、“倒木”、“停電”、“被害なし”から選択いただきました。全国17,027人の回答から、台風の経路に近い地域で倒木や停電が多く起きており、さらに、台風の経路から離れた関東や瀬戸内でもそれらが起きていることがわかりました(図2)。台風による強風の影響が西日本から東日本の広範囲に及んでいたことがわかります。

 

 

 

 

2.台風の経路と勢力の推移
2−1.南海上の蛇行

 台風5号は、7月21日9時に日本のはるか南東海上で発生し、23日にかけて西に進んだ後、24日に進路を東寄りに変え、27日にかけて反時計回りに回転する進路をたどりました(図3)。反時計回りに回転した理由として、台風5号の東から接近した台風6号との相互作用(2つの台風がお互いの周りを反時計回りに回る「藤原効果」)が考えられます。

図3: 台風5号・台風6号の経路と海面水温
(経路上の丸は3時間ごとの中心気圧。海面水温は7月30日のデータ)

  

 28日から30日にかけて、台風は小笠原近海を南寄りに進みました。これは、西日本から南西諸島を覆う高気圧の周りを時計回りに回る気流(図4左の矢印)の影響を受けたためと思われます。

図4:500hPa(上空約5800m)の高層天気図(気象庁GSMモデル解析、左:7月29日9時、右:8月4日21時、
赤色のグラデーション:渦度、矢羽:風(色は風速、図右側のカラースケールに対応))
青色の矢印は台風の移動に影響する高気圧周辺の気流

 

 30日頃には2930℃の海水温の高い海域に進み、急速に発達して313時には非常に強い勢力に達し、3121時には中心気圧が930hPaまで低下しました。
 816時以降は徐々に勢力を弱めながら北西に進み、4日から5日にかけて、奄美大島から種子島・屋久島近海で移動スピードが非常に遅くなりました。これは、上空で台風を取り囲むように高気圧が張り出し、台風の北上を妨げたためと考えられます(図4右)。
 6日以降は北上を妨げていた高気圧の勢力が弱まり、大陸から朝鮮半島付近まで気圧の谷が進んできたことで、上空の南西の風が強まり、台風は進路を北東に変えました。その後、71530分頃に和歌山県北部に上陸し、近畿・東海から北陸を通過して日本海に抜け、93時に温帯低気圧に変わりました。 

 この台風の寿命は記録的に長く、18日18時間という観測史上3位の長寿台風になりました。発生後、台風を流す風が弱かったことでゆっくりと移動したことや、日本の南側の29〜30℃の非常に温かい海の上を長時間移動したことで、勢力が衰えなかったことが要因と考えられます。

2−2.和歌山上陸から日本海へ

 台風は7日15時30分頃に和歌山県北部に上陸しました。全国3,000カ所の独自観測システム「WITHセンサー」で観測された上陸時の中心付近の気圧データを解析すると、中心から半径30km程度の範囲で等圧線が特に混み合っており、台風の中心付近に強い渦が維持されていたことがわかります(図5)。

図5:「WITHセンサー」の海面気圧
(8月7日15時40分、hPa単位)

 上陸後も北東に進み、83時に岐阜県、福井県、石川県の県境付近から渦が不明瞭になり始めました。一方、富山湾付近に別の渦(図6中、渦2)が形成され始め、9時にはこちらが台風の中心となりました。また、9時には東京都と山梨県の県境付近に新たな渦(図6中、渦3)が形成されました。全体として、この二つの渦を含んで、北西から南東にやや長い大きな渦となって、北東へ進みました。

 台風が山岳部を通過する際には、山岳部の風下側で気圧が下がり、新たな渦の中心が形成されることがあります。渦2や渦3は中部山岳の風下にあたることから、同様に形成されたと考えられます。

図6:8月8日3時、9時、15時の海面気圧(等値線)、地上風(矢羽)(気象庁MSMモデルの解析データより)。
赤線は台風の経路、赤丸は3時間ごとの中心位置。渦2、渦3は新たに形成された渦の中心。

 

3. 大雨の要因
3−1.全国的な雨の状況

 台風の経路に近い、奄美大島・種子島・屋久島、九州・四国・紀伊半島の太平洋側、滋賀県や北陸西部で総雨量が300mmを超えました。特に奄美大島では500mmを超える記録的な大雨となりました。

 また、台風の中心から離れた静岡県や山梨県、関東の山沿いでも300mmを超える雨量となったところがありました。この大雨は、台風の外側にできる発達した雨雲の帯である「アウターバンド」の積乱雲が継続的に流れ込んだことや、南からの暖かく湿った気流が山地の南側の斜面で上昇することで積乱雲が繰り返し発生したことでもたらされました。

図7:解析雨量(8月3日0時から8日24時の144時間の積算雨量)
黒線は台風の経路で、丸印は3時間毎の中心位置を示す

3−2.奄美大島の大雨

 奄美大島では台風の接近に伴い4日から雨が降り始め、5日にかけて激しい雨になりました。特に5日の未明からは、台風の中心を取り巻くらせん状の降水帯「スパイラルバンド」の活発な雨雲がかかり、名瀬や笠利(かさり)では1時間に90mmを超える猛烈な雨が降り、8月としては観測史上1位を記録しました(表1)。日降水量としても、5日は名瀬で509mmを観測(観測史上4位)し、他の地域でも300mmを超える大雨となりました。大雨となった最大の要因は、勢力の強い台風が奄美大島の近くを非常にゆっくりと通過したことです。同じ場所に停滞していたことで、「スパイラルバンド」がかかり続け、1時間に30〜60mmの激しい雨が数時間継続しました。

 

表1:8月5日の降水量(アメダス)

地点名

日最大1時間降水量(mm)

日最大1時間降水量の記録

日降水量(mm)

日降水量の記録

笠利(かさり)

91.0

観測史上1位

348.0

観測史上1位

古仁屋(こにや)

87.5

観測史上7位(8月として1位)

384.0

観測史上4位(8月として3位)

名瀬(なぜ)

92.0

観測史上7位(8月として1位)

509.0

観測史上4位(8月として1位)

喜界島(きかいじま)

64.5

観測史上8位(8月として1位)

317.5

観測史上1位

 

 

図8:解析雨量(左:8月5日5〜6時の1時間、右:4日0時〜5日24時の48時間)
右図の黒線は台風の経路で、丸印は3時間ごとの中心位置を示す

 

4. まとめ

 台風5号は、台風6号との相互作用や本州付近にあった高気圧の影響で、発生から長期間、海水温の高い太平洋上をゆっくりと移動し、18日18時間という記録的な長寿台風となりました。台風が付近を通過した奄美大島では、24時間で500mmを超える記録的な大雨となり、建物への浸水を引き起こしました。この大雨は、台風が強い勢力を維持しつつゆっくりと移動し、「スパイラルバンド」が奄美大島にかかり続けたことでもたらされました。また、台風の上陸時には、中心付近に強い渦が維持されていたことが、「WITHセンサー」の気圧データから解析されました。台風上陸後に通過した近畿や北陸では、多いところで300mmを超える大雨となり、滋賀県や石川県などのウェザーリポーターから川の増水や浸水の様子が報告されました。

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