TOP > NEWS > 2017

ニュース

観測史上初、本土4島に上陸した台風18号の振り返り

はじめに
 2017年9月17日に鹿児島県に上陸した台風18号は、18日にかけて日本列島を縦断し、気象庁が統計を開始した1951年以来初めて、本土4島(九州・四国・本州・北海道)全てに上陸した台風となりました。暴風域を伴ったまま日本列島に沿って北上したため、全国の広範囲で風速20m/s以上の強い風が吹き荒れ、西日本を中心に大雨となりました。記録的な大雨となった大分県南部や宮崎県北部では2,000棟を超える家屋が浸水し、大分県の佐伯市・津久見市では道路が寸断され、一時約1,200人が孤立状態となりました。宮崎県では、宮崎市や延岡市で突風が発生し、住宅の屋根瓦が飛ぶなどの被害が出ました。台風18号の影響で交通機関は、九州・四国・東北・北海道の発着便を中心に飛行機が1,000便以上欠航したほか、道路や鉄道も通行止めや運休が相次ぎ、各地で大きな影響が出ました。

1.風の被害状況
 9月16日~18日(※沖縄は13日〜15日)、風の被害状況を調査するため、スマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに「風の被害は?」と質問し、“大きな物が飛ぶ”、“倒木”、“停電”、“被害なし”の4択で回答していただきました。全国10,382人の回答から、“倒木”や“大きな物が飛ぶ”という被害が全国の広範囲で発生していたことが分かりました(図1)。今回の台風は暴風域を伴ったまま日本列島を縦断したため、北海道をはじめとする北日本でも強風で大きな被害を受けました。

「風の被害は?」の調査結果
図1:「風の被害は?」の調査結果

2.雨の被害状況(冠水)
 9月16日~18日、雨による影響を調査するため、スマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」のユーザーに「冠水の状況は?」と質問し、“ふくらはぎ以上”、“足首が浸かる”、“水たまり程度”、“特になし” の4択で回答していただきました。全国8,440人の回答を見ると、“足首が浸かる”や“ふくらはぎ以上”の報告は西日本と関東で多かったことが分かりました(図2)。また、北日本では岩手県沿岸から“ふくらはぎ以上”の報告があり、東北太平洋沿岸の一部の地域で深刻な浸水被害が発生していたことが分かりました。
「冠水の状況は?」の調査結果
図2:「冠水の状況は?」の調査結果

 また、台風18号が九州から北海道へ縦断した17日〜18日は、全国から41,000通以上の写真付きのウェザーリポートが寄せられ、各地の被害状況を詳細に把握することができました。記録的大雨となった大分県からは道路の損壊や大規模冠水のリポートが届き、断続的に強い雨が降った岩手県沿岸からは大規模冠水の様子が、北海道からは強風による倒木などの被害が報告されました。
図3:ウェザーリポートによる台風18号の被害報告

3.台風18号の進路の特徴
 台風18号は9月9日21時にグアムの北西海上で発生し、発達しながら海面水温29〜30℃の温かい海の上を北西に進み、東シナ海で勢力のピークに達しました。15日頃には東寄りに転向し、17日11時半頃に鹿児島県南九州市に上陸しました。その後も台風は北東〜北北東へ進み、四国、近畿、北陸を通過して、18日には北海道を通過しました(図4)。台風18号は1951年の統計開始以来初めて、本土4島(九州・四国・本州・北海道)に上陸した台風となりました。

図4:台風18号の経路と海面水温
(経路上の丸の色は3時間ごとの最大風速、
海面水温は9月14日の気象庁データ)

 今回、台風18号の進路がこのようになった要因は、太平洋高気圧と動きの遅い寒冷渦、そして、その間のジェット気流にあります。
 台風は発生後、太平洋高気圧の周りを回って北西に進み、東シナ海に至りました。台風は中緯度まで北上すると、偏西風と呼ばれる上空の西風で流されるようになります。モンゴルにあった寒冷渦が17日頃には中国北東部へ進み、本州付近では次第に偏西風が強まりました(図5のジェット気流)。台風はこの気流に流されて、東シナ海から九州南部、四国、近畿、北陸へと移動しました。寒冷渦と太平洋高気圧の気圧配置が18日にかけても変わらず、本州付近のジェット気流の位置も維持され、台風はその後もこのジェット気流に沿って北上し、北海道を通過して本土4島上陸となりました。

図5:台風の移動に影響する700hPa〜300hPa (上空約3,000m〜約9,500m)の平均風
(9月17日9:00、赤い星は台風18号の中心、
 赤点線は台風付近のジェット気流)



4.降水量の特徴
 台風18号が上陸した九州や四国では記録的な大雨となりました。宮崎県や大分県、愛媛県、高知県では15日〜17日の3日間で降水量が300mmを超えたところが多く、17日にはこの4県の34地点で日降水量が観測史上10位以内に入る(※詳細は末尾の<参考情報>表1参照)記録的な大雨となりました(図6)。

図6:解析雨量(9月15日0時から17日24時の72時間積算雨量) (図中に記載した4地点の降水量は17日の日降水量、 南西から北東へ伸びる実線は台風の経路)

 今回の台風では大分県や宮崎県、愛媛県、高知県で記録的な大雨となりましたが、今年8月に台風5号が九州の南を通過した際には、これほどの大雨にはなりませんでした。今回、台風18号が鹿児島県から宮崎県を通過する際は、大分県から四国、和歌山県の南にかけて、南寄りの風と東寄りの風がぶつかる前線が形成され、この周辺で風の収束が非常に強くなり(図7左上)、積乱雲が発達して激しい雨が継続しました。一方、台風5号が九州に接近した時は、台風の中心は台風18号の時より約100km南側を通過しており、台風周辺に前線は見られませんでした(図7左下)。したがって、大分県を中心とした大雨は、台風が九州南部に上陸し、暖かく湿った空気が強く流れ込んだことに加え、台風の北側に前線が形成されたことでもたらされたと考えられます。

図7:
左)900hPa(高度約1,000m)の風の収束発散
(気象庁毎時大気解析、赤が収束を示す)、
右)前1時間の解析雨量 (上段が台風18号の2017年9月17日14時、
下段が台風5号の2017年8月6日22時)
5.風の特徴

 台風18号が通過した16日〜18日にアメダスで観測された最大瞬間風速を見ると、風は台風の経路の東側で特に強く、広範囲の沿岸部で30m/s以上の風が吹き荒れていたことが分かりました(図8)。室戸岬では47.8m/s、横浜では30.3m/s、釧路では35.0m/sの暴風が吹きました。
 台風は暴風域を伴ったまま日本列島を縦断したため、中心から遠い関東や北海道の道東でも最大瞬間風速30m/s以上の風が吹きました。

図8:台風18号の最大瞬間風速
(赤色の×印と線は台風18号の位置と経路)
6.宮崎の突風

 宮崎県では17日に宮崎市や延岡市で突風による被害が発生しました。宮崎市新名爪(にいなづめ)に設置されたウェザーニューズの独自観測機WITHセンサーでは、17日4時35分頃を中心に、約5分間の間に約3hPaという急激な気圧変化が観測されました。アメダス宮崎の観測でも、WITHセンサーで観測された変化ほどは大きくありませんが、5分間で1hPa程度の気圧変化が観測されました(図9)。
 気象庁のレーダーによると、宮崎市ではこの急激な気圧変化が起きた時間帯に台風のスパイラルバンドの積乱雲が通過しており、新名爪(WITHセンサー)と宮崎(アメダス)は1時間に40mm以上の激しい雨を降らせるような活発な積乱雲の南東側に位置していました(図10)。

図9: 17日3:00〜5:00のWITHセンサー新名爪と
アメダス宮崎の気圧観測データ
図10:気象庁レーダーの降水強度と
WITHセンサー新名爪、アメダス宮崎の位置

 気象庁が18日〜19日に行った現地調査によると、この突風は竜巻であった可能性が高いとのことです。したがって、WITHセンサーで観測されたこの急激な気圧変化は、その竜巻の親雲に伴うメソサイクロン(※1)によるものであった可能性が考えられます。
※1 メソサイクロン: 竜巻をもたらすような発達した積乱雲の中にある、直径数キロメートルの大きさを持つ低気圧性の回転。

7.まとめ
 台風18号は上空のジェット気流に流されて日本列島を縦断し、九州・四国・本州・北海道に上陸しました。日本列島に沿うコースで暴風域を伴って北上したため、全国の広範囲で倒木などの強風被害が発生しました。また、大分県・宮崎県・四国をはじめとする西日本を中心に記録的な大雨となって各地で道路冠水や土砂災害が発生し、全国各地から強風や大雨の被害を報告するウェザーリポートが多数届きました。
 台風の日本列島縦断には、太平洋高気圧と寒冷渦、その間のジェット気流という気圧配置が寄与していたことが分かりました。また、西日本の大雨には、台風の上陸だけでなく、その北側に形成された前線も要因として関係していたことも明らかになりました。このような台風接近時の前線は秋の台風によく見られ、10月にかけても注意が必要です。
 また、宮崎市ではWITHセンサーにより急激な気圧変化が観測され、これは宮崎市に突風をもたらした積乱雲が持つメソサイクロンによる変化である可能性が考えられました。

 今後、当社では予測精度の向上に努めるとともに、災害の危険を早く察知し、減災・防災に繋がる情報をいち早く発信していきます。

<参考情報>
表1:大分県・宮崎県・高知県・愛媛県で、9月17日の日降水量が観測史上10位以内に入った地点

地点

日降水量[mm]

記録

地点

日降水量[mm]

記録

中津
(大分)

111.5

観測史上
6位

田野
(宮崎)

163.5

観測史上
3位

武蔵
(大分)

185.5

観測史上
3位

鳥形山
(高知)

457.5

観測史上
2位

杵築
(大分)

154.0

観測史上
6位

池川
(高知)

366.0

観測史上
4位

蒲江
(大分)

241.5

観測史上
8位

瀬戸
(愛媛)

174.5

観測史上
2位

宇目
(大分)

324.5

観測史上
5位

八幡浜
(愛媛)

178.5

観測史上
2位

竹田
(大分)

266.5

観測史上
2位

大洲
(愛媛)

179.5

観測史上
2位

臼杵
(大分)

379.0

観測史上
2位

松山
(愛媛)

187.5

観測史上
3位

佐賀関
(大分)

334.0

観測史上
1位

久万
(愛媛)

215.0

観測史上
4位

犬飼
(大分)

255.5

観測史上
4位

上林
(愛媛)

260.5

観測史上
1位

佐伯
(大分)

356.5

観測史上
2位

松山南吉田(愛媛)

149.0

観測史上
2位

古江
(宮崎)

225.0

観測史上
9位

成就社
(愛媛)

354.5

観測史上
7位

日之影
(宮崎)

286.0

観測史上
1位

玉川
(愛媛)

243.5

観測史上
2位

鞍岡
(宮崎)

330.5

観測史上
4位

今治
(愛媛)

160.0

観測史上
1位

椎葉
(宮崎)

198.0

観測史上
4位

西条
(愛媛)

224.5

観測史上
6位

北方
(宮崎)

324.0

観測史上
4位

新居浜
(愛媛)

293.5

観測史上
1位

神門
(宮崎)

372.5

観測史上
9位

四国中央
(愛媛)

179.5

観測史上
9位

高鍋
(宮崎)

154.5

観測史上
2位

中山
(愛媛)

158.0

観測史上
5位


本ニュースをプリントアウトしてご覧になりたい方はこちら