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11府県で大雨特別警報が発表された「平成30年7月豪雨」について
はじめに
2018年7月3日から8日にかけて、台風7号の接近や梅雨前線の停滞により、西日本や東海地方の非常に広範囲で記録的な大雨となりました。72時間降水量が広島で444mm、呉で465mm、愛媛県の松山で360.5mmとなり、観測史上1位を記録しました。気象庁は7月6日より11府県に大雨特別警報を発表しました(6日に福岡県、長崎県、佐賀県、広島県、岡山県、鳥取県、京都府、兵庫県、7日に岐阜県、8日に高知県、愛媛県)。福岡県は九州北部豪雨以来1年ぶり、京都府は2013年の台風18号以来2回目、他は県初の特別警報となりました。
今回の記録的な豪雨で死亡が確認された方は、10日2時までに124人となりました。100名を超えるのは1983年に梅雨前線に伴う大雨により島根県西部で土砂崩れや洪水が発生するなど、112名が亡くなった「昭和58年7月豪雨」以来のことです。広島県では土砂崩れや河川の氾濫による被害が相次ぎ、45人の死亡が確認されています。また、岡山県では7日に9つの河川が決壊しており、小田川が決壊した岡山県倉敷市では真備町の3割が浸水、4,500棟が冠水するなどし、これまでに29人が死亡、一時1,000人以上が取り残される甚大な被害が出ました。愛媛県でも土砂崩れが多数発生し、25人が死亡しました。この3県で総死者数の85%を占めています。西日本の高速道路では一時、民営化以降最大規模となる2,268km(速報値)の通行止めが発生しました。鉄道では17事業者56路線(速報値)が一時運休しました。橋の流出や土砂流入などが各線で起きており、復旧には時間がかかる見込みです。
1—1.被害状況:浸水被害のアンケート調査
非常に広範囲に及んだ被害の全容を明らかにするため、7月7日18時から現地のウェザーリポーターに緊急アンケート調査を実施しました。「一番高いときで、どの高さまで浸水しましたか?」と質問し、“腰以上の高さ”、“ひざ以上の高さ”、“足首以上の高さ”、“大きな水たまり程度”、“浸水なし”、 “わからない”から選択いただきました。
9日18時までに届いた約22,395件の回答の中から、被害の回答を抽出したところ、被害が大きい広島県、岡山県、愛媛県だけでなく、京都府以西の広い範囲で、ひざや腰以上の高さの浸水や土砂崩れによる家屋への被害が発生していたことがわかりました(図1)。
広島県、岡山県、愛媛県では“腰以上の高さ”の浸水が特に目立ちます。愛媛県では、“腰以上の高さ”の浸水報告のほとんどが、肱川(ひじかわ)氾濫の影響を受けた大洲市から寄せられました。一方で、広島県と岡山県の浸水報告のあるエリアは、24時間降水量や48時間降水量が観測史上1位を更新した地点と重なることから、長い時間の大雨が河川氾濫を引き起こし、大規模浸水につながったと考えられます。
浸水被害状況: https://weathernews.jp/s/gensai/rain_enq201807/map.html
土砂崩れの状況についても同様にアンケート調査を行いました。7日18時から9日18時までに届いた約22,796件の回答から、土砂崩れが“発生し、家屋に被害”、”発生したが、被害なし”から選択いただきました。土砂崩れで多くの死者が出ている広島県、愛媛県、岡山県を中心に、家屋への被害が広い範囲で見受けられます(図3)。
1—2.被害状況:災害要因で見た人的被害
当社で10日2時までの人的被害(死者数)を災害の種類ごとにまとめたところ、土砂災害が約6割、河川の氾濫やため池の決壊が約3割、川や用水路への転落が約1割となり、土砂災害による被害が最も甚大であることがわかりました。分布としては、土砂災害による死亡は、広島県、岡山県、愛媛県で多く確認されました(図4)。
一方で、河川の氾濫やため池の決壊については岡山県と広島県の3市町村のみで、場所は少ないものの、死者数としては約3割を占めていることから、一度河川氾濫が起きると大きな被害をもたらすと言えそうです(表1)。
表1:災害要因別の人的被害数(10日2時時点)
| 土砂崩れ | 川氾濫・ため池決壊 | 川・用水路への転落 |
市区町村(数) | 22 | 3 | 10 |
市区町村(割合) | 62.8% | 8.6% | 28.6% |
人的被害者(数) | 75 人 | 33 人 | 16 人 |
人的被害者(割合) | 60.5% | 26.6% | 12.9% |
1—3.被害状況:減災リポート
当社には、被害が拡大した7月5~8日の4日間で、合計45,015通の写真付きの報告が届きました(図5)。被害に関する報告は、浸水の写真を中心に7日に最も多く寄せられました。
この他の被害に関するウェザーリポートは「減災リポートマップ」からご覧いただけます。
減災リポートマップ:https://weathernews.jp/gensai_map/
※「減災リポート」はスマホアプリ「ウェザーニュースタッチ」を通して、当社予報センターに寄せられる被害報告です。当社では、被害がいつ・どこで・どんな原因で発生したかを共有し、少しでも被害を軽減することを目的に、自助・共助による減災の取り組みを進めています。
また、今回新たな取り組みとして、Twitter Japan株式会社の協力を得て、ウェブサイト「#減災リポート」を公開しました。Twitterにハッシュタグ「#減災リポート」を付けて寄せられた被害報告をマップで確認できます(図6)。
#減災リポート:https://weathernews.jp/s/gensai/twitter/
2.大雨の状況
西日本から東海地方では3日0時から8日0時までの5日間の雨量が広い範囲で400mmを超えました。特に四国太平洋側や東海地方では5日間で1,000mmを超える雨が降り、九州地方や近畿地方の中部から北部でも600mmを超えた地域が見られました(図7)。
降水量の記録は数多くの地点で塗り替えられ、最も多く雨が降った高知県の魚梁瀬(やなせ)では、7日、72時間降水量の日最大値1,319.5mmを記録し、観測史上1位を更新しました。岐阜県の関市板取(いたどり)の742mm、福岡県の添田(そえだ)の539mmなども観測史上1位となり、広範囲にわたって記録的な大雨となりました(図8)。
土砂崩れが多数発生した山口県、広島県、愛媛県でも、72時間で400mmを超える雨が降り、多いところでは500mmを超えました。広島では444mm、呉では465mmを記録し、観測史上1位となっています。
大規模な河川氾濫が発生した岡山県の72時間降水量は300〜400mmでした。岡山県は比較的雨が少ない地域のため、記録を更新した地点も多くありました。被害が大きい倉敷では、8日に72時間降水量の日最大値が276.5mmで7月の観測史上1位を記録しました。今回、氾濫した小田川や同じ河川系である高梁川(たかはしがわ)では、1985年6月22〜25日に倉敷で72時間に最大205mmの雨が降り、洪水が発生するなどしており、過去に同程度の降水量で度々氾濫が起きています。地域によって雨量による影響は大きく変わり、この流域では72時間で200mmを超える雨が予想される場合は災害に注意が必要です。
3.大雨の要因 〜梅雨前線の停滞と南西風による水蒸気の供給〜
東シナ海を北上してきた台風7号が2日から3日にかけて九州の西海上を通過し、南海上から非常に湿った空気が九州、四国、中国地方に流れ込み、激しい雨をもたらしました。台風は4日15時に日本海上で温帯低気圧に変わりましたが、低気圧に向かって流れ込む南西からの湿った気流は続き、四国、近畿、東海地方を中心に強い雨が降りました。5日には、低気圧は北海道付近に進みましたが、西日本では梅雨前線が停滞し、7日にかけて上空1,500m付近(850hPa高度)で20m/s以上の強い南西風が継続しました。この強い南西風が多量の水蒸気を供給し続けたと考えられます。(図9)
気圧配置を見ると、4 日に台風が温帯低気圧に変わった後、本州を挟んで朝鮮半島付近の上空に気圧 の谷、本州の南東に太平洋高気圧という配置が 7 日にかけての 4 日間続きました。日本の西側に気圧の谷がある状況では、日本付近では一般に南西寄りの風が吹きやすく、上昇気流が発生しやすくなります。この気圧配置が継続することで、停滞する梅雨前線に南西からの湿った空気が流れ込み、上昇して積乱雲を発達させるという状況が4日間にわたって継続したことが大雨の要因と考えられます(図10)。
4.広島・岡山の雨
小田川の氾濫した岡山県の倉敷やその流域にある佐屋(さや)、矢掛(やかげ)の雨量の推移を見ると二度のピークがあり、5日の午後と6日の夜から7日の朝にかけて雨が強まり、20〜30mm/h程度の強い雨が降りました。ピークを過ぎた8日0時までの積算雨量は佐屋で406.5mm、矢掛で297mm、倉敷で292mmを観測しました(図11)。
土砂崩れが多数発生した広島、呉、福山においても同様に、5日の午後と6日の夜から7日の朝にかけて雨の強まりが見られ、最大で40〜50mm/hの激しい雨が降りました。4日0時から8日0時までの積算雨量は、広島で419.5mm、呉で436mm、福山で374.5mmを観測しました(図12)。
岡山や広島の二度の雨の強まりには、梅雨前線の動きと小さな低気圧が関係していると考えられます。5日から7日にかけて西日本に停滞した梅雨前線を詳細に見ると、南北方向の動きがあったことがわかります(図13)。5日午後に強い雨を降らせた後、梅雨前線が一旦、四国地方へ南下したことで雨は弱まり、上空の気圧の谷の接近に伴って6日午後から7日朝にかけて再び中国地方へと北上したことで激しい雨となりました。
また、梅雨前線上には小低気圧も解析され、雨が強まった6日午後から7日にかけて九州北部から中国地方へと進む様子が見られました。このような梅雨前線上の小低気圧の通過が、南西からの風、つまり水蒸気の流入をより強めたことで、雨をより強めていたと推測されます。
まとめ
2018年7月3日から8日にかけて、台風7号の接近や梅雨前線の停滞により西日本から東海地方を中心に広範囲で大雨となり、土砂崩れや河川氾濫などにより死者100名を超える大災害となりました。当社は被害状況をつかむため、ウェザーリポーターに浸水や土砂崩れに関するアンケート調査を実施しました。その結果、被害が大きい広島県、岡山県、愛媛県だけでなく、近畿地方や九州地方なども含めて西日本の広範囲で、ひざや腰の高さ以上の浸水や土砂崩れによる家屋への被害が発生していたことがわかりました。
降水量が400mmを超えた地点は西日本のほぼ全府県に及び、広い範囲で記録が更新されました。この大雨は、朝鮮半島付近に気圧の谷、本州の南東に太平洋高気圧という気圧配置の状態が続き、梅雨前線が西日本に停滞して湿った空気の流入が続いたことで引き起こされました。また、場所ごとの雨の強さの変化は梅雨前線の動きと対応しており、気圧の谷の接近に伴って発生した梅雨前線上の小低気圧の通過が雨をより強めていたと考えられます。
なお、西日本の広い範囲で梅雨が明け、今後平年より気温の高い状態が続きます。厳しい暑さの中での復旧作業となりますので、屋外や避難所では熱中症に対する注意が必要です。また、これまでの雨で地盤が緩んでいるところもあるため、少しの雨で再び土砂崩れが発生する恐れがあります。当社は近日中に「平成30年7月豪雨」に関する特設サイトを開設し、減災・防災につながるような情報をいち早く発信していきます。