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梅雨前線による九州の大雨について
はじめに
6月28日から7月3日にかけて、活発化した梅雨前線が九州南部で停滞し、鹿児島県や宮崎県を中心に記録的な大雨となりました。えびの(宮崎県えびの市)では降り始めからの積算降水量が1000mmを超え、日降水量は鹿児島県の7地点で観測史上1位を記録しました。鹿児島県によると、この大雨の影響によって、県内の約70カ所で土砂災害が確認されており、そのほとんどが鹿児島市内で発生しています。また、河川の増水によって、鹿児島県南さつま市の大王川や、いちき串木野市の大里川で堤防が決壊し、田んぼが冠水するなどの被害が出ています。宮崎県では、都城市で内水氾濫が発生し、住宅や工場が水に浸かったほか、日南市で1名が行方不明となっています。この雨は交通機関にも影響し、鉄道では九州新幹線や在来線で運転見合わせが相次ぎました。JR吉都線では線路下の地盤が流出し、復旧には時間がかかるとみられています。道路では、東九州自動車道や九州自動車道、国道で通行止めが相次ぎました。以下では、大雨の状況や要因について振り返ります。
1.被害状況
この大雨の影響で、7月4日にかけて鹿児島県内の各地で人的被害が発生しました。鹿児島県によると、1日に鹿児島市本城町、4日に曽於市大隅町で土砂が住宅に流入し、2名の死亡が確認されました。また、鹿児島市・薩摩川内市・曽於市・志布志市で、陥没した道路に車両ごと転落するなどして5名が重軽傷を負いました。主な住家被害は、全壊8棟、半壊5棟のほか、霧島市といちき串木野市を中心に299棟の浸水被害が出ています(8日12時時点)。
6月28日から7月5日にかけて、当社には鹿児島県、宮崎県、熊本県から写真付きのウェザーリポートが2,025通届きました。鹿児島県垂水市からは氾濫危険水位を超えた本城川の報告が寄せられました(図1)。
図1:鹿児島県、宮崎県、熊本県から寄せられたウェザーリポート
2.大雨の状況
6月28日から7月3日の6日間にわたって、九州南部を中心に激しい雨が降り続き、鹿児島県と宮崎県の34地点で積算降水量が500mmを超える大雨となりました。また、鹿児島県の7地点では、日降水量が観測史上1位を記録しました(表1)。鹿児島の日降水量は375mmで、これは1993年に九州南部を中心に甚大な被害を及ぼした「平成5年8月豪雨」 (1993年8月6日、日降水量259.5mm) や、1995年8月11日の梅雨前線による大雨(日降水量324.0mm)を上回る降水量になりました。
表1:日降水量の記録
アメダス | 日降水量[mm] | 更新日 | それまでの記録 |
吉ヶ別府(鹿児島県鹿屋市) | 460.0(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 1999年8月17日 384.0mm |
大隅(鹿児島県曽於市) | 421.0(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 2006年7月5日 288.0mm |
輝北(鹿児島県鹿屋市) | 405.5(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 1989年7月28日 371.0mm |
鹿児島(鹿児島県鹿児島市) | 375.0(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 1995年8月11日 324.0mm |
加世田(鹿児島県南さつま市) | 354.5(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 2005年9月5日 287.0mm |
喜入(鹿児島県鹿児島市) | 329.5(観測史上1位) | 2019年7月3日 | 2012年6月27日 273.0mm |
東市来(鹿児島県日置市) | 313.5(観測史上1位) | 2019年7月1日 | 1989年7月28日 291.0mm |
6月28日から7月3日にかけての積算降水量が最も多かった地点は宮崎県のえびので、6日間で1081.5mmを観測しました。当社は、アメダスがない地点の降水量を面的に把握するため、ウェザーリポートやレーダーを用いて積算降水量を解析したところ、鹿児島県の鹿屋市や曽於市周辺でも積算降水量1000mm以上の大雨が降っていた可能性があることがわかりました(図2)。
雨の降り方を時系列で振り返ると、鹿児島や都城など他の地点にも共通して、今回は雨のピークが大きく分けて3回あったことがわかります(6月28日午前、7月1日未明、3日。図3、4)。最も雨が強まったタイミングは、えびのでは1日2時(61.5mm/h)、都城では同日7時(44.5mm/h)、鹿児島では3日13時(39.5mm/h)となりました。また、えびのでは7月3日に3度目のピークを迎え、14時10分に積算降水量が1000mmを超えました。
3.大雨の要因
梅雨前線の停滞と暖湿流の影響
朝鮮半島から日本海に北上していた梅雨前線は、6月28日日中から夜にかけて、九州地方まで南下しました。その後、梅雨前線が7月3日まで太平洋高気圧と大陸から進んできた高気圧に挟まれ、南北の動きは多少あったものの、九州南部に1週間近く停滞しました。この梅雨前線の停滞によって、雨の期間が長くなったことが、大雨の要因の1つとして挙げられます(図5)。
2つ目に暖湿気(暖かく湿った空気)の継続的な流入が挙げられます。6月28日、30日〜7月1日、3日の3回にわたり、梅雨前線が停滞している九州南部に向かって、南から非常に暖かく湿った空気が流れ込んだタイミングで、梅雨前線の活動が活発化し、九州南部を中心に大雨となったと考えられます。この暖湿気の大元をたどると、日本のはるか南から太平洋高気圧の縁を回るようにして、東シナ海の暖かく湿った空気が九州上空に流入していることがわかります(図6)。また、最も多くの雨が降った7月3日は、この流れに加えて熱帯低気圧も大きく影響しました。7月1日にフィリピン ルソン島の北東付近にあった熱帯低気圧は、その後台湾方面に進み、2日には不明瞭化しました。しかし、その後もこの熱帯低気圧由来の暖湿気は北上を続け、3日には東シナ海で梅雨前線に取り込まれる形になりました。この熱帯低気圧由来の暖湿気が梅雨前線付近に流れ込んだことも要因として挙げられます。
6月28日、7月1日、3日の1時間降水量をみると、降水量の多い領域が、線状に細長く延びている様子がわかります (図7)。このことから、今回は線状降水帯が複数発生していたと考えられます。ただし、今回は全体的に上空の風が強く、雨雲の移動も比較的早かったため、線状降水帯は形成されても長時間持続せず、結果として1時間降水量が100mmを超えるような強雨は観測されませんでした。それでも、前線や周辺の暖湿気の影響を長時間受けたため、積算降水量が多くなったと考えられます。
まとめ
6月28日から7月3日にかけて、活発化した梅雨前線が九州南部に停滞し、鹿児島県や宮崎県を中心に記録的な大雨となりました。宮崎県のえびのでは6日間の積算降水量が1000mmを超え、鹿児島県内の7地点で日降水量が観測史上1位を記録しました。また、独自の解析では鹿児島県の鹿屋市や曽於市周辺でも積算降水量1000mm以上の大雨が降っていた可能性があることもわかりました。今回の大雨は、太平洋高気圧と大陸からの高気圧に挟まれて梅雨前線が停滞したことに加え、熱帯低気圧の影響を受けて多量の水蒸気を含んだ暖かく湿った空気が梅雨前線に向かって継続的に流入したことによると考えられます。
梅雨末期は、南からの暖かく湿った空気の影響で、梅雨前線の活動が活発化して大雨になることが多いため、最新の気象情報にご注意ください。