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8月15~16日、お盆休みを直撃した台風10号について

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はじめに

 台風10号は2019年8月15日15時頃に広島県呉市付近に上陸し、中国地方を縦断しました。この台風の影響で、西日本各地で倒木や建物損壊などの被害がみられたほか、一時約9,700戸の停電が発生しました。また、夏の野球大会の試合が順延、徳島市の阿波踊りの後半2日間が中止になるなど、イベントにも影響が出ました。鉄道では、事前に予告したうえで運行を見合わせる計画運休が実施され、15日に山陽新幹線が新大阪駅~小倉駅間で終日運休、東海道新幹線や九州新幹線が本数を減らしての運行となったほか、多くの在来線や私鉄が運休となりました。空の便では、15日と16日の2日間で約1,000便が欠航するなど、お盆休みのUターン時期と重なったことで多くの利用者に影響が出ました。また、台風による影響で西日本および東海地方で少なくとも死者2名、重軽傷者57名の人的被害が発生したほか、台風上陸前にも、台風から発生したうねりが太平洋側を襲い、各地で高波にさらわれるなどの水難事故が相次ぎました。

1.被害状況:ウェザーリポート

 8月15日から16日にかけて、当社には西日本各地から河川増水や倒木を含む、写真付きのウェザーリポートが4,662通届きました(図1)。

8/15 8:18 高知県高岡郡越知町
台風の強風の影響で道路に倒木がありました。
カーブの先などなにがあるかわからないので皆さんお気をつけて!
8/15 8:19 高知県高岡郡越知町
越知町中仁淀沈下橋は冠水していて通れませんでした。
越知町は低い土地の冠水が続いています。
 
8/15 16:09 岡山県岡山市中区
岡山市中心部で強風により木が折れ地面に。
8/15 16:37 高知県安芸市
畑も浸かりました❗もうこれ以上は(涙)
8/15 18:22 徳島県鳴門市
高潮です。
一部低いところで路地が冠水しています。
8/15 21:27 兵庫県川西市
一部の排水ますから水が溢れていました。

図1:ウェザーリポーターから寄せられた報告

2.台風の経路

 台風10号は、8月6日15時にマリアナ諸島で大型の台風として発生しました(図2)。発生後は海面水温30℃前後の温かい海域を北西に進み、8日15時に小笠原近海で中心気圧950hPa、最大風速45m/sの非常に強い勢力に達しました。
 その後、北側の太平洋高気圧に進路を阻まれたことで速度を落とし、周辺の海水温が低下したことにより10日3時に中心気圧970hPa、最大風速30m/sまで勢力が衰えました。一方、台風の南側で太平洋高気圧の張り出しが強まったために強風域は拡大し、12日15時に超大型の台風となりました。
 11日頃から台風は北西に進み、14日頃に西日本の南海上に達しました。そして太平洋高気圧の縁を回って進路を北に変え、15日11時頃に愛媛県佐田岬半島を通過し、15時に広島県呉市付近に大型の勢力で上陸しました。上陸後は中国地方を縦断して日本海へ抜け、16日21時に北海道の西で温帯低気圧に変わりました。

図2:台風10号の経路
(経路上の丸の色は中心気圧、海上の色は8月8日の海面水温 (気象庁))

3.大雨の状況

 14日から16日にかけて、近畿や四国地方を中心に大雨となりました(図3)。期間中最も降水量が多かったのは魚梁瀬(やなせ、高知県)で、期間中の降水量は864.0mmとなりました。魚梁瀬では、台風が接近した13日深夜から雨が降り始め、16日2時まで降水が継続しました。また、15日の日降水量は616.5mmを観測し、観測史上2位を記録しました。
 また、上北山(奈良県)でも743.0mmの降水を記録し、木頭(徳島県)や龍神(和歌山県)、風屋(奈良県)など7地点で500mmを超える降水を観測しています(表1)。

図3:8月14日0時〜17日0時のウェザーニューズ解析雨量(単位:mm)

 

表1:8月14日0時〜17日0時までの積算降水量
都道府県
市町村
アメダス
降水(mm)
高知県
安芸郡馬路村
魚梁瀬(やなせ)
864.0
奈良県
吉野郡上北山村
上北山(かみきたやま)
743.0
和歌山県
田辺市
龍神(りゅうじん)
679.0
徳島県
那賀郡那賀町
木頭(きとう)
610.0
奈良県
吉野郡十津川村
風屋(かぜや)
545.5
高知県
高岡郡津野町
船戸(ふなと)
530.5
高知県
吾川郡仁淀川町
鳥形山(とりがたやま)
529.5


4.強風の状況

 14日から15日にかけて、西日本を中心に各地で強風となりました。特に15日は室戸岬で41.9m/s、徳島で31.1m/sの最大瞬間風速を観測し、30m/s以上の風を観測した地点は8地点となりました(表2)。また、台風10号の影響で停電が発生した近畿や中国地方を中心に、最大瞬間風速25m/s以上の強風が吹いていたことがわかりました(図4)。

表2:アメダスで最大瞬間風速30m/s以上を観測した地点
都道府県
市町村
アメダス
最大瞬間風速(m/s)
記録
高知県
室戸市
室戸岬(むろとみさき)
41.9
 
福井県
敦賀市
敦賀(つるが)
33.5
 
香川県
東かがわ市
引田(ひけた)
32.8
観測史上1位
和歌山県
西牟婁郡白浜町
南紀白浜(なんきしらはま)
31.4
 
岡山県
岡山市北区
岡山(おかやま)
31.3
 
徳島県
徳島市
徳島(とくしま)
31.1
 
徳島県
阿南市
蒲生田(かもだ)
30.7
 
和歌山県
和歌山市
友ケ島(ともがしま)
30.2
 
図4:台風10号接近時(8月14日0時〜16日0時)における最大瞬間風速
(凡例は「10-15」であれば10m/s以上、15m/s未満を示す。
赤線:台風の経路 赤×印:台風の中心位置)

 

.高温の状況

 台風が接近・通過した14〜15日は、北陸・東北地方の日本海側の多くの地点で最高気温35℃以上を観測しました(図5左)。この2日間にアメダスで40℃以上を観測したのは6地点で、最も気温が高かった中条(新潟県)で15日13時16分に40.7℃を観測しています(表3)。また14日から15日にかけては、日中だけではなく夜も気温の下がり方が鈍く、糸魚川(新潟県)では15日の最低気温が31.3℃となり(表4)、観測史上最も高い最低気温の記録を更新しました。

図5:15日13時のアメダスの気温(左)と風(右)
表3:8月14〜15日の2日間で最高気温が40℃を超えた地点
都道府県
市町村
アメダス
最高気温(℃)
観測日時
記録
新潟県
胎内市
中条(なかじょう)
40.7
2019/8/15 13:16
観測史上2位
新潟県
長岡市
寺泊(てらどまり)
40.6
2019/8/15 13:19
観測史上1位
山形県
鶴岡市
鼠ケ関(ねずがせき)
40.4
2019/8/15 13:10
観測史上1位
新潟県
上越市
高田(たかだ)
40.3
2019/8/14 12:54
観測史上1位
石川県
羽咋郡志賀町
志賀(しか)
40.1
2019/8/15 13:49
観測史上1位
新潟県
三条市
三条(さんじょう)
40.0
2019/8/15 12:30
観測史上2位
表4:8月15日に最低気温が30℃を超えた地点
都道府県
市町村
アメダス
最低気温(℃)
観測時刻
記録
新潟県
糸魚川市
糸魚川(いといがわ)
31.3
5:17
観測史上1位 
新潟県
佐渡市
相川(あいかわ)
30.8
3:01
観測史上1位
新潟県
上越市
高田(たかだ)
30.3
4:52
観測史上1位
新潟県
三条市
三条(さんじょう)
30.2
4:15
観測史上1位
石川県
小松市
小松(こまつ)
30.0
4:56
観測史上2位

 この高温の要因として、台風10号の北上によって日本付近に非常に暖かな空気が流れ込んだことに加え、東〜南の風の山越えによるフェーン現象の発生が挙げられます(図5右、図6)。フェーン現象とは、気流が山脈を越える際に風上側で雲を作り、空気が風下側で下降しながら圧縮されることで、山脈の風下側で高温となる現象です。北陸や東北地方の日本海側では、このフェーン現象が発生したことにより猛烈な暑さとなりました。2018年8月23日に中条で観測史上1位となる40.8℃を記録した猛暑も、台風20号通過時のフェーン現象によるものです。

図6:アメダス中条の気温と風向の時系列変化
(8月13日0時〜16日0時、青線は気温、緑矢印は風向を示す)

6.高波の状況

 台風10号が一時超大型で非常に強い勢力まで発達したことや、台風9号が一時猛烈な勢力で南西諸島付近を通過したことで、8月7日頃よりフィリピンの東から小笠原諸島にかけての広い範囲で4m以上の高波が発生していました(図7左)。また、台風10号の北上速度は全体的に遅く、8日から10日頃にかけては小笠原近海でほとんど停滞していました。その結果、高波が周期の長いうねりとなって広がり、台風10号の北上に先行する形で西日本から東日本の太平洋側に到達しました。そして、12日頃から台風10号の北上とともに太平洋沿岸での波がさらに高くなり(図7右)、13日には御前崎港で4m以上の有義波高を観測するなど、台風本体が接近する前から海はしけた状態となりました(図8)。
 夏休み・お盆の時期で海のレジャーを楽しむ方が多かったということに加えて、上記のように2つの台風によるうねりや高波が台風接近前から到達したことで、水難事故が多く発生したと考えられます。今回のように台風が遠く離れていたとしても、うねりとして波が伝わってくることがあります。また、うねりは沖合では高くないように見えても、海岸近くで思いがけない高波となることがあるため、注意が必要です。

図7:ウェザーニューズ解析波浪図 8月7日9時(左)、8月12日9時(右)
(色は有義波高(m)、矢印は波向き、Xは台風の中心位置)
図8:御前崎港(国土交通省港湾局)の観測値
※速報値を使用しているため、後日データの補正等により値が変わる可能性があります

.2018年・2019年上陸台風との比較

 今年は7月27日に台風6号が三重県に上陸し、8月5日に8号が宮崎県に上陸しています。また、2018年は12号、15号、20号、21号、24号の5つの台風が上陸しています(図9)。今回の台風を2018年、2019年に上陸したこれらの台風と比較しました。

図9:2018年と2019年に上陸した台風の経路 (赤線が今回の台風10号)
図10:台風の上陸時の移動速度と中心気圧(カッコ内は上陸した月)

 
 近畿、東海、関東地方に大規模な停電等の被害をもたらした2018年9月の21号や24号は、非常に強い勢力を持ち、時速50〜55kmという速い速度で上陸しました。これらは9月に上陸していますが、秋の台風は日本付近に南下したジェット気流に乗って移動速度が速くなる傾向があり、このような速い移動速度は秋の台風の特徴です。移動速度が台風本来の持つ風に加わって進行方向の右側で風速をより強めるため、秋の台風は風の被害が大きくなる傾向があります。これらの台風でも東京や大阪といった大都市で40〜50m/sという猛烈な風が吹き、大規模な停電につながりました(図10)。一方、今年の6号、8号や2018年7月、8月に上陸した12号、15号、20号は「強い」またはそれ未満の勢力で、時速20〜35kmと比較的遅い移動速度で上陸しました。夏の本州付近は上空の気流が弱いために台風の動きは遅いことが多く、遅い移動速度は夏の台風の特徴です。そのため、大都市の最大瞬間風速は大きくても30m/s程度で、停電も大規模なものにはなりませんでした。今回の10号も夏の台風らしく、上陸時には時速25kmと遅い移動速度で、「強い」に満たない勢力であったため、風による被害は大規模というほどではありませんでした。
 これらの台風の中で、大型の勢力で上陸した台風はこの10号だけでした。勢力は強くはないものの、大型で移動速度が遅かったため、非常に湿った空気の流入が長時間継続したことが、総降水量が他の上陸台風に比べて多くなった要因と考えられます(表5)。

表5:台風10号と今年および昨年上陸した5つの台風の特徴
 
上陸日時
上陸時の最大風速
(強さ)
上陸時の
大きさ
上陸時の
移動速度
主な最大瞬間風速
主な総降水量
2019年10号
2019年8月15日15時
25m/s
 (-)
大型
時速30km
31.1m/s(徳島)
864.0mm
(高知県 魚梁瀬)
23.9m/s(神戸)
801.5mm
(奈良県 上北山)
2019年8号
2019年8月6日5時
35m/s
 (強い)
-
時速20km
31.2m/s(宮崎)
321.0mm
(高知県 魚梁瀬)
2019年6号
2019年7月27日7時
18m/s
 (-)
-
時速20km
19.5m/s(津)
122.5mm
(岐阜県 関ヶ原)
18.4m/s(名古屋)
140.0mm
(愛知県 茶臼山)
2018年24号
2018年9月30日20時
45m/s
 (非常に強い)
-
時速50km
39.3m/s(東京)
460.0mm
(高知県 鳥形山)
454.0mm
(愛媛県 成就社)
2018年21号
2018年9月4日12時
45m/s
 (非常に強い)
-
時速55km
47.4m/s(大阪)
315.0mm
(奈良県 風屋)
328.5mm
(高知県 魚梁瀬)
2018年20号
2018年8月23日21時
40m/s
(強い)
-
時速35km
32.6m/s(神戸)
535.5mm
(奈良県 上北山)
2018年15号
2018年8月15日3時
23m/s
 (-)
-
時速30km
16.2m/s(延岡)
360.0mm
(高知県 佐川)
15.7m/s(大分)
2018年12号
2018年7月29日1時
35m/s
 (強い)
-
時速35km
34.5m/s(津)
223.0mm
(奈良県 曽爾)

 

まとめ

 大型の勢力で上陸した台風10号は中国地方を縦断し、大雨や強風、高波をもたらしました。8月15日から16日にかけて寄せられた報告から、西日本各地で倒木など強風による被害や、道路冠水など大雨による被害が発生していたことがわかりました。

 西~東日本の太平洋沿岸では台風が上陸する1週間ほど前からうねりが到達し、多くの水難事故が発生しました。これは一時、超大型となった台風10号に加え、南西諸島を通過した台風9号からのうねりも加わったためと考えられます。

 14〜15日は台風の接近・通過に伴い南〜東寄りの風が吹いたことで日本海側でフェーン現象が発生し、最高気温が中条で40.7℃となるなど、北陸・東北地方の日本海側の6地点で40℃を超える酷暑となりました。さらに、多くの地点で熱帯夜となり、最低気温が30℃を下回らなかったところもありました。

 また、2018年と2019年に上陸した台風と比べると、今回の台風10号は夏らしい台風で移動速度が遅く、上陸時の勢力もそれほど強くなかったことから、他の上陸台風と比べて風による被害は少なくなりました。一方、総降水量については、大型で移動速度が遅かったことで、他の上陸台風よりも多くなりました。

 なお、今回の台風は、お盆のUターンラッシュの時期と重なったことで航空や鉄道などの交通機関に影響がありましたが、計画運休が実施されたことや、その情報が事前に周知されていたことで目立った混乱は見られませんでした。一方で、台風上陸前の11~13日には波にさらわれるなどの水難事故が相次ぎました。今回のように、台風がまだ遠くに離れていたとしても、うねりの影響で海岸近くでは思いがけない高波となることがあります。

 台風シーズンはこれからが本番です。被害を少なくするためには、一人一人が自分の周りにどのような危険が及ぶのかを考え、必要な対策を意識し、行動することが大切です。ウェザーニューズは、台風による雨風や高波、交通への影響を予測し、皆様にご活用いただけるような減災・防災につながる情報をいち早く発信していきます。


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