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10月12〜13日、大規模な河川氾濫をもたらした台風19号について

はじめに
 2019年10月12日、過去最強クラスの台風19号(Hagibis)が大型で強い勢力を保ったまま伊豆半島に上陸しました。台風の接近・通過に伴い、西〜東日本の広い範囲で大雨・強風となりました。中でも静岡県や関東甲信越、東北地方ではこれまでに経験したことのないような記録的な大雨が降り、大規模な河川氾濫や土砂災害に見舞われました。この大雨で、気象庁は1都12県に大雨特別警報を発表しました(12日15時30分に静岡県、神奈川県、東京都、埼玉県、群馬県、山梨県、長野県の7都県、19時50分に茨城県、栃木県、新潟県、福島県、宮城県の5県、13日0時40分に岩手県)。茨城県、栃木県、宮城県では2015年9月に鬼怒川が氾濫した「平成27年9月関東・東北豪雨」以来2回目、残りの都県では初の大雨特別警報となりました。 

1.被害状況
 台風19号の影響で河川氾濫や土砂災害などが相次ぎ、九州地方から東北地方にかけての広い範囲で少なくとも死者66名、行方不明者13名、重軽傷者398名の人的被害が発生しました(10月19日時点、総務省消防庁調べ)。また、群馬県や岩手県など各地で300件を超える土砂災害が発生したほか、多摩川や千曲(ちくま)川、阿武隈(あぶくま)川など一級河川を含む少なくとも71の河川で堤防が決壊したことで、住宅や福祉施設などが甚大な被害を受けました(全壊85棟、半壊324棟、床上浸水24,266件、床下浸水21,474件、10月19日時点、総務省消防庁調べ)。このほか、最大で14都県内の15万戸で断水したほか(厚生労働省調べ)、一時52万戸を超える大規模な停電が発生しました(10月13日、経済産業省調べ)。さらに、東海地方から関東地方を中心に、高波による防波堤の損壊や道路の崩落、港湾施設への浸水・漁船の転覆なども相次ぎました。

 台風に備えて、交通機関では大規模な計画運休が実施されました。鉄道は12日昼頃から13日昼頃にかけて全面的に運転見合わせとなっていたので、鉄道利用者への被害はありませんでしたが、千曲川の氾濫によって長野市の車両基地や北陸新幹線の車両が浸水しました。航空は、9月に千葉市に上陸した台風15号の際には成田空港からの移動手段がなくなり、空港で利用者が孤立する事態が発生しましたが、今回は早めに11日から1,500便を超える欠航を決定したことで目立った混乱は見られませんでした。高速道路や国道では、のり面崩落や土砂流入、路面冠水などが発生し、現在も一部区間が通行止めになったままになっています。

 12日はコンビニやスーパー、商業施設の多くが利用客と従業員の安全を考えて、計画休業あるいは営業時間を短縮しました。自治体からは避難所開設の予定が異例の早さで公表されるなど、過去最強クラスの台風の接近に、自治体、企業、個人それぞれが最大限の警戒と早めの備えを進める動きがありました。

1-1.被害状況:冠水の報告
 10月12日以降、台風による大雨の影響で大規模な冠水が発生しました。当社では冠水の状況を詳しく調べるため、13日0時から18時にかけて、全国のウェザーリポーターに冠水の状況について質問し、「冠水なし」「足首以上」「ひざ以上」「腰以上」の4択から回答していただきました。全国から寄せられた19,931件の報告のうち、冠水した回答をマッピングすると、概ね台風の経路に沿って冠水していることがわかります(図1)。
 細かく見ると、長野県や関東・東北の太平洋側の地域を流れる流域面積の広い千曲川、多摩川、阿武隈川などの周辺で冠水報告が多く見られました。

図1:冠水状況のアンケート結果

1-2.被害状況:暴風被害の報告  
 当社では暴風による被害状況を詳しく調べるため、12日9時から24時にかけて、全国のウェザーリポーターに周辺の暴風被害の状況について質問し、「被害なし」「家屋損壊」「倒木」「大きなものが飛んだ」の4択から回答していただきました。全国から寄せられた77,426件の報告のうち、「家屋損壊」、「倒木」、「大きなものが飛んだ」の件をマッピングしたところ、台風の進路の右側の方でより被害が深刻であることや、台風の中心から遠く離れた西日本の地域でも影響があったことがわかりました(図2)。
 影響別に見てみると、家屋破損の被害は関東南部の沿岸に集中しており、倒木などの被害は西日本や北陸など広範囲に及んでいます。また、風速との関係性を調べたところ、家屋破損の被害は最大瞬間風速30m/s以上、倒木の被害は20m/s以上を観測した地域で多くみられることが明らかになりました。

図2:暴風による被害状況のアンケート結果

1-3.被害状況:停電被害の報告  
 12日は強風や浸水の影響で、静岡県や関東、東北太平洋側を中心に、一時52万戸を超える大規模な停電が発生しました。当社では停電の被害状況を詳しく調べるため、13日0時から18時にかけて、全国のウェザーリポーターに停電の様子について質問し、「停電していない」「停電した(1時間未満)」「停電した(1時間以上)」「停電した(6時間以上)」の4択から回答していただきました。そのうち「停電した」という1,349件の報告をマッピングしたところ、被害報告は河川氾濫のあった千曲川や阿武隈川沿い、あるいは、最大瞬間風速25m/s以上の風が観測された伊豆半島や三浦半島、千葉県、茨城県南部の地域に集中していることがわかりました(図3)。また、千葉県市原市では竜巻の発生が確認されており、その影響で停電したと考えられます。

図3:停電に関するアンケート結果

 

1-4.被害状況:ウェザーリポート 
 10月12日から14日にかけて、関東や東北を中心に、全国各地から43,764件の写真付きのウェザーリポートが届きました。台風通過後の13日と14日には、河川氾濫による浸水や道路崩落の様子の報告が相次ぎました(図4)。

10/13 9:44 
埼玉県坂戸市
越辺川流域です標識は頭しか出てないですね。消防隊と自衛隊の方々が来ていました。
10/13 11:30
栃木県鹿沼市
栃木県鹿沼市の府中橋北側道路が河川増水により、道路崩落。
橋を通行止めにして復旧作業中です。手前のポールから右側は道路があった所です。
10/13 14:33
長野県上高井郡
小布施町県道343号千曲川沿いから約200m離れた所から撮影。
10/13 15:04
宮城県多賀城市
こんにちは。 
朝、近所の道路が川になっていました。
( ´△`)
10/13 15:13
長野県長野市

千曲川の堤防が決壊し一帯は大変なことになっています。
10/13 15:48
神奈川県足柄下郡箱根町
こんなの初めてです。
10/13 15:49
群馬県前橋市
群馬大橋の下の生活道路です。
10/13 17:40
茨城県神栖市
10/13 4時過ぎ。
10/14 8:24
茨城県水戸市
常磐自動車道高架下。側道が崩落しました?
10/14 13:42
茨城県久慈

郡大子町
茨城県久慈郡大子町、久慈川の洪水被害。水郡線第6久慈川橋梁が流出しました。水郡線も被害は甚大です。
10/14 13:49
長野県上田市 

橋が落ちています。
10/14 16:28
千葉県山武市
台風15号でも倒木による停電でしたが、台風19号でも倒木で停電しています。
でも木自体は、しっかりし虫食いは、見られません。
余程強い風が吹いたのだと思われます。木が電線の上に倒れ、電線は、たるみ電柱の上部は、折れています。
図4:当社に寄せられたウェザーリポート


2.大雨の状況 
 11日から13日にかけて、広い範囲で総降水量300mmを超える雨が観測され、特に多かった静岡県や山梨県、関東西部では500mmを超える大雨となりました(図5)。最も降水量が多くなったのは神奈川県の箱根で、24時間降水量は観測史上1位となる942.5mmを記録し、48時間降水量は1001.0mmに達しました。
 また、12日の日降水量は922.5mmとなり、2011年に記録された魚梁瀬(やなせ)の日降水量851.5mmを大きく上回って、日本全国のアメダスにおける統計史上1位の値を更新しました。箱根の10月の降水量の平年値は334.3mmであることから、1カ月の約3倍に相当する雨がこの2日間で降ったと言えます。
 このほか、静岡県の伊豆市(湯ケ島で689.5mm)、埼玉県の秩父市(浦山で635.0mm)、東京都の西多摩郡(小沢で602.5mm)、宮城県の伊具郡(筆甫(ひっぽ)で558.0mm)など、120地点のアメダスで日降水量の観測史上1位を更新しました(表1)。

図5:ウェザーニューズ解析雨量
(11日0時〜13日12時の合計、黒太線は氾濫した主な河川)

 

表1:各都道府県の最大日降水量を記録した地点
都道府県
市町村
地点
降水量(mm)
統計開始年
記録
神奈川県
足柄下郡箱根町
箱根(はこね)
922.5
1976年
観測史上1位
静岡県
伊豆市
湯ケ島(ゆがしま)
689.5
1976年
観測史上1位
埼玉県
秩父市
浦山(うらやま)
635.0
1977年
観測史上1位
東京都
西多摩郡檜原村
小沢(おざわ)
602.5
1977年
観測史上1位
宮城県
伊具郡丸森町
甫(ひっぽ)
558.0
1978年
観測史上1位
栃木県
日光市
奥日光(日光)
481.0
1944年
観測史上3位
(おくにっこう)
群馬県
甘楽郡下仁田町
西野牧(にしのまき)
471.0
1976年
観測史上1位
茨城県
北茨城市
花園(はなぞの)
455.5
1976年
観測史上1位
福島県
双葉郡川内村
川内(かわうち)
428.0
1976年
観測史上1位
長野県
南佐久郡北相木村
北相木(きたあいき)
395.5
2004年
観測史上1位
新潟県
糸魚川市
能生(のう)
252.5
1976年
観測史上1位

3.河川の状況 
3-1.多摩川の水位 
 12日23時頃、東京都を流れる多摩川が世田谷区付近で氾濫しました。多摩川では、12日6時頃から台風の接近により強い雨が降り出し、上流の小河内では20mm/h以上の強い雨が12日5時から21時の16時間も続きました。世田谷では小河内ほどではないですが、10mm/hを超える雨が同じ時間帯に継続しました。

 日降水量は小河内で556.0mm、世田谷で253.5mm、青梅で384.5mm、八王子で392.5mm、府中で289.0mmとなるなど、東京都の多くのアメダス地点で観測史上1位の記録を更新しました。

 多摩川の水位は強い雨の降り出しから1〜2時間遅れて急激に上昇し始めました。国土交通省の田園調布の観測をみると、それまで2m程度であった水位が、12日16時には氾濫危険水位である8.4mを超え、23時にピークとなる10.77mを記録したことがわかります。上流の青梅市の調布橋や、多摩川の支流である浅川の浅川橋でも同様の時間帯に水位が上昇しており、広範囲で降った記録的な雨が多摩川に流れ込み、最終的に氾濫の発生につながったと考えられます(図6)。

図6: 多摩川の水位と付近の降水量
(水位は国土交通省の観測、降水量は気象庁アメダス)

3-2.千曲川の水位
 大規模な氾濫となった長野県の千曲川では、上流に位置する佐久市(アメダス佐久)で12日0時頃から連続的に雨が降り始め、12日13時から20時にかけては20mm/hを超える強い雨が8時間にわたり降り続けました。このため、下越(しもごえ、佐久市)の水位はそれに呼応して上昇し、12日21時には4.77mに達しました(図7)。佐久の日最大1時間降水量は10月としては観測史上1位となる35.0mm/h、12日の日降水量はこれまでの記録(1999年8月14日の205.0mm)を大きく上回る303.5mmとなりました。また表1のように、佐久市の南にある北相木でも395.5mmという観測史上1位の記録的な雨が降りました。

 このように過去にないような雨が流域に降り、千曲川に流れ込んだことにより、下越より約100km下流にある立ヶ花(たてがはな、中野市)では、氾濫危険水位の9.6mを大きく上回る12.44mという水位に達しました。また、最高水位を観測した時間は、下越で12日21時、立ヶ花で13日4時となり、上流と下流では約7時間の時間差がありました。千曲川は流域面積が7,163km2で、多摩川(1,240km2)と比べて非常に広く、上流部でより多くの雨が降ったことからこのような時間差ができたと考えられます。

図7: 千曲川の水位とその付近の降水量
(水位は国土交通省の観測、降水量は気象庁アメダス)

3-3.阿武隈川の水位 
 福島県や宮城県で洪水をもたらした阿武隈川流域でも、12日の昼頃から13日未明にかけて20mm/hを超える強い雨が降り続きました(図8)。阿武隈川の上流に近い白河では12日に日降水量が368.5mmとなり、観測史上1位を記録しました。下流に位置する宮城県の最も南にある筆甫(ひっぽ)では、最大で12日20時に74.5mm/hの非常に激しい雨が降り、日降水量が558.0mmとなって記録を更新しました。このため、阿武隈川の上流の須賀川(すかがわ)では水位が12時頃から上昇し始め、12日22時に氾濫危険水位を超えて13日3時頃から9.5mに達しました。下流にある丸森でも水位が12日18時頃から急上昇し、13日2時に氾濫危険水位を超え、最高23.44mを記録しました。

図8: 阿武隈川の水位とその付近の降水量
(水位は国土交通省の観測、降水量は気象庁アメダス)

4.強風の状況 
 12日から13日にかけて、広い範囲で25m/sを超える強風が観測されました。特に風が強かった東京湾沿岸では、最大瞬間風速が江戸川臨海と横浜で43.8m/s、羽田で43.7m/s、千葉で40.3m/sなど、主に台風の中心付近かつ進路の右側で40m/s以上の猛烈な風を記録しました(表2)。
 また、京都府の舞鶴で36.4m/s、山梨県の韮崎(にらさき)で35.0m/s、長野県の東御(とうみ)で30.6m/sの最大瞬間風速が観測されており、台風の中心から離れたところでも30m/sを超える強風が観測されました。

表2: 各都道府県における12〜13日の主な最大瞬間風速
都道府県
市町村
地点
最大瞬間
記録更新時刻
統計開始年
記録
風速(m/s)
東京都
江戸川区
江戸川臨海(えどがわりんかい)
43.8
12日 21:17
2009年
観測史上1位
神奈川県
横浜市中区
横浜(よこはま)
43.8
12日 20:32
1938年
観測史上3位
東京都
大田区
羽田(はねだ)
43.7
12日 20:56
2009年
観測史上1位
千葉県
千葉市中央区
千葉(ちば)
40.3
12日 21:20
1966年
観測史上6位
静岡県
加茂郡南伊豆町
石廊崎(いろうざき)
36.7
12日 20:59
1940年
-
京都府
舞鶴市
舞鶴(まいづる)
36.4
12日 17:22
1947年
-
山梨県
韮崎市
韮崎(にらさき)
35.0
12日 21:09
2008年
観測史上1位
福島県
耶麻郡猪苗代町
猪苗代(いなわしろ)
34.3
12日 17:09
2008年
観測史上2位
宮城県
石巻市
石巻(いしのまき)
34.2
12日 18:44
1940年
-
岡山県
勝田郡奈義町
奈義(なぎ)
33.5
12日 14:37
2008年
観測史上7位
福井県
小浜市
小浜(おばま)
33.3
12日 18:44
2008年
観測史上8位
茨城県
つくば市
つくば
32.5
12日 22:08
1950年
観測史上6位
新潟県
新潟市西蒲区
巻(まき)
31.9
12日 22:18
2009年
観測史上9位
岩手県
大船渡市
大船渡(おおふなと)
31.6
13日 03:41
1963年
-
滋賀県
大津市
南小松
31.5
12日 20:40
2009年
観測史上5位
兵庫県
神戸市中央区
神戸(こうべ)
31.4
12日 11:52
1937年
-
長野県
東御市
東御(とうみ)
30.6
12日 23:55
2008年
観測史上2位
石川県
輪島市
輪島(わじま)
30.1
12日 24:00
1929年
-

  台風15号と台風19号の風の分布を比較すると、15号の通過時は最大瞬間風速25m/s以上の風が台風の経路の周辺に集中していますが、今回は新潟県や長野県など台風の中心から離れたエリアでも観測されていることがわかります(図9)。19号は大型の台風で強風域も広かったことから、台風の中心から離れたところでも強い風が観測されたと考えられます。

 一方で、今回の台風では15号通過時に観測された、最大瞬間風速50m/sを超えるような猛烈な風は観測されませんでした。2つの台風が関東を通過した時の気圧分布をウェザーニューズの独自観測機“WITHセンサー”のデータで比較すると、15号の方が中心付近で等圧線が混み合っており、気圧傾度が大きかったことがわかります(図10)。上陸後の19号は15号のような明瞭な台風の目を維持しておらず、中心付近の気圧傾度が15号ほど強くなかったため、50m/sを超えるような猛烈な風にはならなかったと思われます。ただ、東京や横浜は台風の進路の右側に入ったため、台風の移動速度の効果で15号の際より強い風となりました。

図9:左)最大瞬間風速と台風15号の経路。右)最大瞬間風速と台風19号の経路
図10: 台風15号(左)と台風19号(右)通過時のWITHセンサーの海面気圧

 12日8時8分頃、千葉県市原市では竜巻が発生しました。竜巻が発生した時刻のレーダー降水強度を見ると、台風のアウターバンドに伴う強い降水域が市原市を通過していたことがわかります(図11)。竜巻が発生した市原市では、住宅の屋根が吹き飛ばされたり、自動車が横転して乗車していた方が亡くなる等の被害が発生しました。気象庁はこの被害の状況から、JEF2(日本版改良藤田スケール、2は6段階で4番目の強さ)の竜巻が発生していたと推定しています。また、WITHセンサーは竜巻が発生した時刻の付近で急激に気圧が下がっている様子を捉えました(図12)。7時53分から8時3分の10分間で気圧が1.1hPa下がっており、竜巻をもたらした積乱雲のメソサイクロンの通過に対応していると思われます。

 台風の接近時には、中心から離れた場所でも竜巻が発生することがあります。特に、台風の中心の北東側で発生しやすく、竜巻が発生した市原市も台風の中心の北東に位置していました。これまでにも、2019年の台風17号や2006年の台風13号の際の宮崎県延岡市、1999年の台風18号の際の愛知県豊橋市など、いずれも中心の北東側にあたる地点でアウターバンドの通過に伴い竜巻が発生しています。

図11: 12日8時10分の気象庁レーダーの降水強度。(×印は台風の中心位置、黒丸は竜巻による被害が発生した地点、赤丸で囲んだ領域は竜巻をもたらしたと思われる積乱雲を示す)
図12: 左)12日8時5分のWITHセンサーの気圧変化(星印は竜巻による被害が発生した地点)
右)竜巻による被害が発生した市原市永吉に近い、千葉市緑区のWITHセンサーの時系列変化(位置は図12左の赤丸)

 

5.高波・高潮について 
 今回の台風では大雨や強風に加えて、全国の広い範囲で記録的な高波が発生したほか、東海〜関東地方では過去最高の高潮が観測されました。この影響で、防波堤の損壊や道路の陥没、沿岸域での浸水などの被害がありました。

5-1.高波の状況
 台風19号は大型で猛烈な勢力となったため、日本の南海上では高波のエリアが大きく広がりました。9日頃には、台風の北上よりも進行速度の速いうねりが、九州〜本州太平洋側に到達し始め、静岡県の清水港では、10日頃から12秒以上の周期の長い波(うねり)が観測されました(図13)。

図13: 清水港の有義波高と有義周期の観測値 (国土交通省港湾局ナウファス) 期間は10月8日0時〜13日24時


 その後、台風の接近・通過に伴い、四国〜東北地方の太平洋側や、近畿地方の日本海側では8〜10mの有義波高が観測されました。京都府の経ヶ岬(きょうがみさき)で9.13m、静岡県の清水港で8.03m、福島県沖で10.01m、小名浜港で7.99mを観測し、この4地点で観測史上1位を更新しました(表3)。

表3:今回の台風で記録を更新した地点とその最大有義波高
都道府県
地点名
今回の観測
これまでの最高
波高(m)
観測日時
波高(m)
観測日時
要因
静岡県
清水港
8.03
2019年10月12日
18時20分
6.87
2017年10月23日
04時00分
2017年台風21号
福島県
小名浜港
7.99
2019年10月13日
00時40分
7.73
2006年9月5日
3時20分
2006年台風12号
福島県
福島県沖
10.01
2019年10月13日
00時00分
9.64
2016年8月30日
12時40分
2016年台風10号
京都府
経ヶ岬
9.13
2019年10月13日
01時00分
8.45
2017年10月23日
06時00分
2017年台風21号
出典:経ヶ岬は気象庁のレーダー式沿岸波浪計による観測
清水港、福島県沖、小名浜港は国土交通省港湾局ナウファスの観測(速報値)

-2.高潮の状況
 台風19号の接近・通過に伴い、沿岸部では潮位が上昇し、御前崎、清水港、内浦、石廊崎、小田原、三宅島(坪田)の6地点で観測史上1位を記録しました(表4)。記録的な高潮が東海地方に集中した要因としては、12〜13日が中潮から大潮の比較的潮位の高い時期であったこと、満潮時刻と台風の接近・上陸のタイミングが近かったこと、台風上陸時の中心気圧が955hPaと低く「吸い上げ効果」が大きかったことの3つが挙げられます(図14)。

表4 過去最高潮位を観測した地点とその潮位(※石廊崎は今回の観測期間中に欠測あり)
都道府県
地点名
今回の観測
これまでの最高
標高潮位
(cm)
観測日時
標高潮位
(cm)
観測日時
要因
静岡県
御前崎
182
2019年10月12日
17時04分
169
2004年10月09日
15時00分
台風第22号
静岡県
清水港
170
2019年10月12日
17時35分
150
2017年10月23日
07時26分
台風第21号
静岡県
内浦
149
2019年10月12日
18時40分
147
2017年10月23日
07時08分
台風第21号
静岡県
石廊崎
200
2019年10月12日
15時05分
183
2009年10月08日
06時48分
台風第18号
神奈川県
小田原
172
2019年10月12日
16時11分
123
2011年09月21日
16時09分
台風第15号
東京都
三宅島
(坪田)
230
2019年10月12日
05時59分
193
2018年07月28日
17時44分
台風第12号
図14: 12日の御前崎港における標高潮位と御前崎アメダスの海面気圧、風向風速の推移
(風向の矢印は右向きが西風、左向きが東風を示す)

 一方、東京湾では台風の最接近が干潮時刻に近い時間帯となったため、潮位の記録を更新するほどにはなりませんでした。ただ、天文潮位からの偏差(潮位偏差)は非常に大きく、東京では12日21時27分に159cmを観測しました。東京で過去に最高潮位を記録した1979年台風20号のときの潮位偏差が122cmであることから、台風19号の最接近時刻が数時間ずれて満潮に近いタイミングと重なっていれば東京湾でも記録的な高潮になっていた可能性がありました。

6.台風の経路 
 台風19号は10月6日3時に南鳥島近海で発生し、海面水温が29〜30℃の暖かい海域を西北西に進みながら発達し、7日18時に大型で猛烈な勢力(最大風速55m/s)まで発達しました。米軍合同台風警報センター(JTWC)によると、ピーク時には1分平均最大風速が140knot (70m/s)を超え、“Super Typhoon”(1分平均最大風速が130knot (65m/s)以上の台風)と呼ばれるレベルの勢力となりました。台風は8日から次第に北上をはじめ、12日6時に進路を北東に変えて進み、強い勢力で暴風域を伴ったまま12日19時前に静岡県伊豆半島に上陸しました。上陸後は関東の都心部を通過して福島県沖へ抜け、13日12時に日本の東海上で温帯低気圧に変わりました(図15)。

図15: 台風19号の経路と海面水温
(経路上の丸は左図では3時間毎、右図では1時間毎の位置で、色は最大風速を示す。海面水温は気象庁の10月7日のデータ)

 台風19号の中心気圧・最大風速は、6日18時に992hPa・45knotであったのが7日18時には915hPa・105knotとなり、それぞれ24時間で77hPa低下し、60knot上昇しました。このような非常に急激な発達は“Rapid Intensification”(複数の定義があるが、24時間で中心気圧が30hPa以上降下または最大風速が30knot以上上昇というものが多い)と呼ばれ、勢力の強い台風の発達過程でよく見られる現象です。猛烈な勢力にまで発達した要因として、海面水温が高い状態であったことが挙げられます。台風が発生した南鳥島からマリアナ諸島周辺にかけての海域では、海面水温が30℃を超え、平年より1〜2度高い状態となっていました(図省略)。

7.大雨の要因 
 今回、広い範囲で記録的な大雨となったのは、台風に加えて主に以下の3つの要因が重なって発生したと考えられます。

7-1.秋雨前線との組み合わせ 
 台風接近前の11日、秋雨前線は本州の太平洋沿岸に停滞していました(図16)。台風周辺をまわる暖かく湿った空気(暖湿気流)が秋雨前線に流れ込み、近畿地方や東日本では次第に強い雨が降り始めました。12日朝には台風が東海地方から関東地方に接近しましたが、秋雨前線は東海地方や関東地方の沿岸に停滞していました。台風上陸後、前線は関東地方では北上しましたが、東北地方南部の太平洋側ではほぼ停滞しました。今回はこの秋雨前線の位置と強い雨の地域がよく重なっており、秋雨前線との組み合わせが大雨となった要因の一つと言えます。

図16: 地上天気図(色はウェザーニューズ解析雨量で-1以下は解析範囲外を示す。
等値線は気象庁MSM実況解析の海面気圧(hPa)。 秋雨前線はウェザーニューズ独自解析であり、気象庁の天気図とは異なる。)

 秋に台風との組み合わせで大雨をもたらす前線は沿岸付近に位置することが多く、前線両側の温度差が地上付近で大きくなる傾向がみられます。950hPa(上空約500m)の相当温位(気温、露点温度、気圧から計算される、空気の暖かさと水蒸気の多さの指標)で見ると、前線の北側では330度前後、南側では345度前後と、15度もの差が見られます(図17)。今回は、台風周辺の暖湿気流がこの前線の北側の相対的に冷たく重い空気の上に乗り上げ、上昇気流となって、継続的に積乱雲を発生させたと考えられます。

図17: MSM実況解析 950hPa相当温位(左: 12日 9時, 右: 12日18時)

7-2.地形性の上昇気流 
 関東甲信での雨雲の発達には、地形の影響も考えられます。900hPa(上空約1000m)の風の収束を見ると、南東からの暖湿気流がぶつかる関東西部や伊豆半島の山地に沿って収束域が見られます(図18)。この地域で上昇気流が強まり、積乱雲を発達させていたと推測されます。

図18: 左)12日9時の900hPa(上空約1000m)の風の収束(10-3 s-1) (赤が収束の強いところ、青が発散の強いところ。気象庁毎時大気解析)
右)同時刻のウェザーニューズ解析雨量(mm/h)。

7-3.大型の台風
 台風19号は大型で、勢力のピーク時から本州通過まで強風半径は600〜700km、暴風半径は240〜325kmありました(図19)。11日の午後から強風域が本州太平洋側にかかり始め、12日深夜に台風が関東地方を抜けるまでの1日半もの間、東日本は台風の強風域の中にあったことになります。その間、台風周辺の暖湿気流が流れ込み、強い雨をもたらす積乱雲が発生しやすい状況が続きました。

図19: 気象衛星ひまわりの可視画像
(10月12日10時、NICTひまわりリアルタイムWebより。水色の丸は強風域を、赤色の丸は暴風域を示す)



まとめ 
 10月12日、台風19号は大型で強い勢力を保ったまま伊豆半島に上陸し、広い範囲に大雨と暴風をもたらしました。この大雨により、気象庁は台風上陸前に1都12県に大雨特別警報を発表しました。自治体、企業、個人の各々が警戒態勢をとって備えていましたが、土砂災害や多摩川、千曲川、阿武隈川などの流域面積の広い河川の氾濫が発生したことで、人的被害、家屋の浸水、停電、断水が相次ぐ甚大な被害が出ました。

 大雨の要因としては主に3つ挙げられます。1つ目は、秋雨前線が本州の太平洋沿岸に停滞し、台風からの暖湿気流が前線に向かって流れ込んだこと、2つ目は、暖湿気流が関東地方西部や静岡県などの山地の斜面に沿って上昇し、上昇気流が強まったこと、3つ目は、東日本が600〜700kmの大きな強風域に約1日半入り、暖湿気流が長時間に渡って流れ込んだことです。これらが重なった結果、積乱雲が発生・発達しやすい状況が続き、記録的な大雨になったと考えられます。

 秋は台風と秋雨前線の組み合わせで大雨となることが多いため、引き続き注意が必要です。ウェザーニューズは、台風19号に関する復旧支援の特設サイトの開設やLINEを用いた災害復旧支援を実施するなどし、気象だけでなく復旧支援や二次災害を防ぐ情報を発信していきます。

 


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図1〜5の図番号が異なっておりますが、内容は同じものになります。