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10月25日、低気圧による千葉・福島の記録的な大雨
はじめに
2019年10月25日、低気圧と暖かく湿った空気の影響で、千葉県や福島県を中心に記録的な大雨となりました。13時30分までの1時間に千葉県千葉市付近、八街(やちまた)市付近で約100mmの猛烈な雨が解析され、災害が発生する可能性が高まったことから、気象庁は13時45分に記録的短時間大雨情報を発表しました。この大雨の影響で、千葉県を中心に河川氾濫や土砂災害、道路冠水が発生し、死者13名の人的被害が出ました(千葉県・福島県調べ、11月6日時点)。このほか、交通機関への影響も発生しました。鉄道では、在来線や一部私鉄で運休や運転見合わせが発生し、JR千葉駅は足止めされた帰宅客らで混雑しました。航空では、成田空港で欠航や目的地変更が相次いだほか、空港と都心をつなぐ鉄道や高速バスの運行取りやめなどで帰宅困難が相次ぎました。また、高速道路では、千葉県内で道路冠水やのり面の崩落などの被害で一部通行止めとなりました。
1.被害状況:ウェザーリポート
10月25日、千葉県と福島県から1,125件の写真付きのウェザーリポートが届きました。千葉県からの報告数は通常時の約1.6倍で、特に道路冠水の報告が多く寄せられました(図1)。
図1:当社に寄せられたウェザーリポート
2.大雨の状況
千葉県では、25日3時から16時頃にかけて雨が降り続き、広い範囲で日降水量100mmを観測し、県内6カ所のアメダスでは200mmを超える大雨となりました(表1)。この日最も多く雨が観測された地点は市原市のアメダス牛久で、285.0mmを観測し、佐倉では観測史上1位となる248.0mmを記録しました。10月の降水量の平年値は、牛久で218.6mm、佐倉で185.8mmであることから、およそ半日で1カ月分を超える量の雨が降ったと言えます。
また、ウェザーニューズが気象レーダーや雨量計を用いて解析したところ、千葉県の中央部では350mm、福島県の沿岸部では250mmを超える量の雨が降っていたことがわかりました(図3)。
表1:主な日降水量の記録
都道府県 | 市町村 | アメダス地点 | 日降水量 (mm) | 記録 |
千葉県 | 市原市 | 牛久(うしく) | 285.0 | 10月として1位 |
千葉県 | 夷隅郡大多喜町 | 大多喜(おおたき) | 276.0 | 10月として1位 |
千葉県 | 佐倉市 | 佐倉(さくら) | 248.0 | 観測史上1位 |
千葉県 | 鴨川市 | 鴨川(かもがわ) | 246.5 | 10月として1位 |
福島県 | 双葉郡浪江町 | 浪江(なみえ) | 246.0 | |
千葉県 | 君津市 | 坂畑(さかはた) | 241.5 | 10月として1位 |
福島県 | 相馬郡新地町 | 新地(しんち) | 228.5 | |
福島県 | 相馬市 | 相馬(そうま) | 226.5 | |
千葉県 | 館山市 | 館山(たてやま) | 207.5 | |
茨城県 | 鉾田市 | 鉾田(ほこた) | 200.5 |
また、日降水量が240mmを超えた千葉県のアメダス牛久、大多喜、佐倉、鴨川、坂畑や福島県の浪江では、ピーク時の1時間降水量は50mm/hを超えていました(表2)。1時間の降水量が最も多かったのは鴨川で、観測史上1位となる85.5mm/hを記録しました。
表2:主なアメダスの1時間降水量の記録(50mm/h以上の地点)
都道府県 | 市町村 | アメダス地点 | 1時間降水量 (mm/h) | 記録 |
千葉県 | 鴨川市 | 鴨川(かもがわ) | 85.5 | 観測史上1位 |
千葉県 | 市原市 | 牛久(うしく) | 64.5 | 10月として1位 |
東京都 | 三宅村 | 三宅島(みやけじま) | 62.0 | |
福島県 | 双葉郡浪江町 | 浪江(なみえ) | 62.0 | 観測史上1位 |
福島県 | いわき市 | 小名浜(おなはま) | 61.0 | 10月として1位 |
千葉県 | 香取郡東庄町 | 東庄(とうのしょう) | 56.5 | |
茨城県 | 稲敷市 | 江戸崎(えどさき) | 55.5 | |
茨城県 | 日立市 | 日立(ひたち) | 55.0 | |
千葉県 | 佐倉市 | 佐倉(さくら) | 54.0 | 10月として1位 |
千葉県 | 夷隅郡大多喜町 | 大多喜(おおたき) | 53.5 | |
千葉県 | 君津市 | 坂畑(さかはた) | 53.0 | 10月として1位 |
福島県 | いわき市 | 山田(やまだ) | 53.0 | 10月として1位 |
福島県 | 南相馬市 | 原町(はらまち) | 52.0 | 10月として1位 |
福島県 | 相馬市 | 相馬(そうま) | 51.5 | |
千葉県 | 成田市 | 成田(なりた) | 50.5 | 10月として1位 |
福島県 | 相馬郡新地町 | 新地(しんち) | 50.0 |
さらに、養老川が一部氾濫するなどの被害があった千葉県市原市のアメダス(牛久)で、25日の雨の降り方を時系列でみてみると、低気圧が接近してきた25日の4時頃から雨が降り始め、11時をピークに、昼前から夕方にかけて強弱を繰り返しながら雨が降り続いたことがわかります(図4)。
今回の千葉県の雨の降り方の特徴として、広範囲で20mm/hを超える強い雨が数時間にわたって降り続いたことに加え、50mm/hを超えるような非常に激しい雨が降った時間帯があったことで、被害をもたらすような大雨となったと言えそうです。
3.千葉の冠水と降水量の関係
この大雨により、千葉県では広い範囲で冠水が発生しました。当社は、冠水の状況を把握するためにスマホアプリ「ウェザーニュース」の会員にアンケート調査を実施し、「特になし」、「水たまり程度」、「足首が浸かる」、「ふくらはぎ以上」の4択から回答していただきました。24日から25日に寄せられた約5,000通の回答から「ふくらはぎ以上」を抽出し、1時間降水量、総降水量とそれぞれ重ね合わせたところ、1時間降水量が50mm/h以上、総降水量200mm以上の地域で「ふくらはぎ以上」の大規模な冠水が発生していたことがわかりました(図5)。
4.大雨の要因
4-1.暖湿気流
10月25日には、本州の南東海上に台風21号が、また東海地方沖に低気圧がありました。関東地方には暖かく湿った気流(暖湿気流)が台風の北側を回って東から、また低気圧の周りを回って南からも流れ込む状況でした(図6)。
4—2.気圧の谷や寒冷渦の通過による強い上昇気流の発生
上空に着目すると、25日12時には近畿地方の上空に深い気圧の谷があり、18時には気圧の谷から切り離された寒冷渦が東海地方から甲信地方を通過していました。一般に気圧の谷や寒冷渦の東側では上昇気流が強まりやすく、今回も気圧の谷や寒冷渦の東側にあたる東海地方や関東地方、東北地方南部で強い上昇気流が見られました(図7)。
4-3.局地前線と小低気圧(千葉県)
25日7時頃から17時頃にかけて、茨城県南部から千葉県では20mm/hを超える強い雨が降り続き、その後、18時頃には強い雨のエリアが千葉県の東へと抜けました(図8)。
これらの強い雨が降った地域は、風と気温の分布から解析される局地的な前線の位置と一致します。この日、前線の北西側では北から北東の風が吹き、前線の南東側では東から南東の風が吹いていました。また、25日9時の気温は、前線の北東側の木更津では15.1℃であったのに対し、南東側の勝浦では21.5℃と高く、約40kmの距離で6.4度もの大きな気温差ができていました。このように、風向の違いに対応して前線の両側の気温差が大きく、顕著な局地前線が形成されていました(図9)。東や南東から流れ込んだ暖かく湿った気流はこの局地前線に沿って冷たい空気に乗り上げ、上昇気流となったと考えられます。
今回のような大きな気温差を伴う局地前線は、24日夕方から関東地方で弱い雨が降り始めて気温が下がったところに、南東側から暖かく湿った空気が流れ込んだことで形成されたと推測されます。この前線は24日22時頃から見られ、25日18時頃までの約20時間にわたって停滞していました。
また25日15時には東海沖にあった低気圧とは別に、千葉県の局地前線上に小低気圧が発生し、その後18時頃にかけてゆっくりと北上しました。小低気圧周辺ではより強い上昇気流が発生しやすく、この上昇気流が積乱雲を発達させたと考えられます。
4-4.地形性の上昇気流(福島県)
一方、東北地方南部の太平洋側では、関東地方より8時間ほど遅れて、13時頃から雨が強まり始め、19時から21時頃にピークを迎えました。18時の状況を天気図で解析すると、低気圧が茨城県から北上し福島県へ接近しており、福島県では東寄りの湿った気流が強く流れ込んでいました。この湿った気流が阿武隈山地の東側斜面にぶつかって上昇したことで、雨雲が発達したと考えられます(図10)。このような状況が23時頃まで継続しました。
まとめ
10月25日、低気圧と暖かく湿った空気の流入により、千葉県や福島県を中心に大雨となりました。この影響で、千葉県の広い範囲から河川氾濫や冠水などの被害報告が寄せられました。また、冠水報告と降水量の分布を重ね合わせたところ、1時間降水量50mm/h以上、総降水量200mm以上の地域で大規模な冠水が発生していたことがわかりました。
大雨の要因としては、千葉県と福島県で共通して、本州のはるか南東の台風21号や東海沖の低気圧の周りを回って暖かく湿った気流が流れ込むとともに、深い気圧の谷や寒冷渦が西から接近したことで上昇気流が強まりやすい状況になっていました。加えて、千葉県ではさらに局地前線やその上の小低気圧が形成されたことで、流れ込んだ暖湿気流が持ち上げられて強い上昇気流が発生し続け、大雨につながったと考えられます。一方、福島県では低気圧が北上して接近したことで、東寄りの湿った気流が強く流れ込み、それが阿武隈山地の東側斜面にぶつかって上昇したことが要因と考えられます。
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