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ウェザーニューズ、2015年の台風に関する振り返りを発表

統計開始以来初となる12か月連続で台風発生

エルニーニョ発達年は台風の発生域が変化、強い勢力となる傾向に

株式会社ウェザーニューズ(本社:千葉市美浜区、代表取締役社長:草開千仁)は、2015年の台風に関する振り返りを発表しました。2015年12月の台風27号の発生により、2015年は1月から12月まで毎月台風が発生したこととなり、1951年の統計開始以来初の記録となりました。また、全27個の台風のうち、「非常に強い」以上の勢力に達した台風が16個と非常に多くなりました。これには、2014年夏以降、観測史上最大規模となったエルニーニョ現象が影響していると考えられます。このエルニーニョ現象はピークを超えつつあり、今後、夏にかけて終息する見込みです。今回と同様に、強い規模のエルニーニョ現象が年末頃にピークを迎え、春~初夏に終息した過去の事例から、エルニーニョ発達年の翌年のエルニーニョ終息年は、台風の発生数が少なく、勢力も前年と比べて弱まる傾向が見えてきました。当社は、ひとたび発生すると人々の生活に大きな影響をもたらす台風や熱帯低気圧の動きを今後も注視していきます。


2015年の台風について〜エルニーニョ現象の影響で毎月発生、統計開始以来初の記録〜

 2015年は1年を通して毎月台風が発生しました。例年発生数の少ない1月~3月の間に4つの台風が発生し、7月には3つの台風(台風9号、10号、11号)が同時に存在するなど、過去最も早い台風の発生ペースとなりました。これまで、1965年の1月〜11月までの11か月連続発生が年間の連続発生記録でしたが、2015年の12か月連続発生は1951年の統計開始以来、初めての記録となりました。また、年をまたいだ連続発生最長記録は1964年5月~1965年11月の19か月ですが、現在、すでに当時に並ぶ19か月連続発生タイ記録(2014年6月~2015年12月)となっています。

図1. ひまわり8号でとらえた台風9号・10号・11号同時発生の様子
(2015年7月7日0時(UTC))
図2.平年と2015年の月別台風発生数

 2015年に台風が毎月発生したことは、熱帯域の海面水温と関係していると考えられます。月別の台風の発生数を平年と比較してみると(図2)、台風が通常あまり発生しない1月から3月にも1〜2個発生しています。この時期の海面水温は、太平洋の中央部(図3中の楕円)で平年と比べて1〜2度高くなっていました。この平年より暖かい海からの水蒸気の供給により対流活動が活発となり、1月から3月でも台風が発生しやすい状況となって、12月にかけての毎月の台風発生につながった可能性があります。


図3. 3ヶ月平均海面水温の平年からの差(NOAAのデータより作成。楕円は台風発生域のうち、1-3月に海面水温が平年より特に高かった海域。破線の四角はエルニーニョ監視海域。)

 4月以降もこの太平洋中央部の海面水温が平年より高い状態は続き、さらにその東側の赤道付近でも海面水温が平年より最大で3度程度高くなりました。これがエルニーニョ現象を示しています。
 エルニーニョ現象は、エルニーニョ監視海域(図3の点線)の海面水温によって定義されています。1949年以降のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差(図4)を見てみると、2015年11月(図4の右端)は海面水温が基準値より約3度高く、これは1997年から1998年にかけて発生し、20世紀最大と言われたエルニーニョ現象と同じ規模になっています。


図4.エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差(基準値:その年の前年までの30年間の平均値)

エルニーニョ現象と台風の発生傾向の特徴

エルニーニョ現象と台風の発生傾向の関係を調べたところ、以下のような特徴が見られました。


図5.1995年以降の台風の発生数(気象庁のデータをもとに作成)

〜エルニーニョ終息年は台風の年間発生数が少ない傾向〜

 1995年から2015年までの21年間で、台風は平均で年間約24個発生しています。図5のように、エルニーニョ終息年(エルニーニョ現象が終息した年)は、台風の発生数が平均より少なくなる傾向がみられます(1998年:16個、2003年:21個、2010年:14個)。一方、エルニーニョ発達年(エルニーニョ現象が発達した年)は、必ずしも台風の発生が多いとは言えません。


〜大規模なエルニーニョ発達年は台風の発生域が変化し、強い勢力になる傾向〜

 「非常に強い勢力(最大風速44〜54m/s)または「猛烈な勢力(最大風速54m/s以上)」の台風は、1995年から2015年までの21年間の平均で年間約8個発生しています。一方、2015年はそのような勢力の強い台風が16個と非常に多く発生し、エルニーニョ発達年の2002年には11個、大規模なエルニーニョとなった1997年も12個発生しています(図5)。エルニーニョ発達年に必ずしも強い勢力の台風が多いわけではありませんが、大規模なエルニーニョ現象は強い台風の発生に関係している可能性が考えられます。
 理由の一つに、台風の発生域の変化があげられます。エルニーニョ現象が発達した1972年、1997年と2015年は、東経150度より東で台風が多く発生しました(図6)。図3のように、エルニーニョ現象の時にはフィリピンのはるか東の海上の東経150度より東側で海面水温が高くなるため、それが対流活動を強め、台風を発生しやすくしている可能性があります。一方、エルニーニョ終息年の1973年、1998年は、前年とは対照的に東経150度より東での発生が少なく、殆どが東経145度以西での発生でした。また日本の南海上の北緯20度以北の比較的高緯度での発生が多くなる特徴が見られます。
 この発生位置の違いは、台風の発達度合いに影響を与えます。台風は低緯度のより東側で発生するほど、海面水温の高い海上を長時間進むため、勢力が強まる傾向があります。一方、より北西側で発生すると、早い段階で陸地に上陸、あるいは偏西風の影響を受けて形が崩れたりするなど、強い勢力まで発達する前に衰退しやすくなります。
 つまり、エルニーニョ発達年には、台風はその発生場所がより東に移り、長時間暖かい海上を進んでより発達しやすくなると考えられます。


図6. エルニーニョ発達年(左)と終息年(右)の台風軌跡(黒線)と発生域(赤丸)

 現在のエルニーニョ現象はピークを迎えており、今後は衰弱に向かうと予想されています。過去のエルニーニョ終息年の傾向から、2016年は2015年と比べて台風の数が少なめとなる可能性があります。また、もしこの1月中に台風が発生すると、連続20ヶ月の台風発生の新記録となります。現在、熱帯太平洋中部にはハリケーンPALIが発生しており、仮に日付変更線を越えて西に進むと、新たな台風とみなされます。また、今後1月末にかけて新たに台風が発生する可能性もあります。
 当社は人々の生活に大きな影響をもたらす台風や熱帯低気圧の発生を監視・予測し、それによる被害の軽減に役立つよう取り組んでいきます。