ニュース
Wx Files Vol.25 2014年2月14日~15日の南岸低気圧による大雪
2014年2月14日から15日にかけて、本州の南海上から関東地方へと低気圧が通過し、関東甲信地方で大雪となり、東海や近畿地方でもまとまった積雪となった。特に関東甲信地方では、最大積雪深が東京や横浜で1週間前に記録した値と同等かそれを超える27‐28cmとなり、前橋で73cm、甲府で114cmなど、過去の最大値を大幅に上回った所も多く、記録的な大雪となった。この大雪により、首都圏を中心に道路、鉄道、航空の交通機関などに甚大な影響をもたらした。
これは、発達した低気圧の通過と、その北側に停滞した前線帯に伴い、強い降水が長時間継続してこの時期としては非常に降水量が多くなったこと、および、下層の寒気によってその降水の多くが雪として降ったためと考えられる。
1.大雪の状況
今回の大雪で、特に記録的な積雪となったエリアは、関東甲信地方である。表1は、気象庁のアメダスの観測地点において過去最大、あるいはそれに近い積雪深となった主な地点である。特に甲信地方では、甲府でこれまでの最大積雪深の2倍以上にも上る114cmの積雪となるなど、多くの地点で積雪深がこれまでの記録を大きく上回った。
地点名 |
2月15日12時までの 最大積雪深 |
備考 |
甲府(山梨県) | 114cm | 1894年の観測開始以来最高 |
前橋(群馬県) | 73cm | 1894年の観測開始以来最高 |
熊谷(埼玉県) | 62cm | 1894年の観測開始以来最高 |
横浜(神奈川県) | 28cm | 1986年以来28年ぶりの大雪 |
東京(東京都) | 27cm | 1週間前の2014年2月8日の大雪と同じ |
奈良(奈良県) | 15cm | 1996年以来18年ぶりの大雪 |
津(三重県) | 13cm | 1994年以来20年ぶりの大雪 |
飯田(長野県) | 81cm | 1896年の観測開始以来最高 |
松本(長野県) | 75cm | 1946年に次、観測史上2番目 |
那須(栃木県) | 79cm | 1989年の観測開始以来最高 |
表1.記録的な積雪深となった主な観測地点(気象庁アメダス正時の最深値)
図1.2月15日に当社サポーターより届いたウェザーリポート
図1は、山梨県の当社サポーターから届いたウェザーリポートの一部である。甲信地方からのリポートでは、大雪に対しての驚きとともに恐怖を感じるコメントが届いており、この地方で未曾有の大雪だったことが覗える。尚、2月14日、15日の両日で、全国から約77,000通ものリポートが届いた。
2.記録的な大雪になった要因
1)発達した低気圧とそのコース
図2に15日3時の地上実況天気図と、黄色線で今回の低気圧のコース、薄緑線で2月8日の低気圧のコースを示す。
今回大雪をもたらした低気圧は、2月13日に南西諸島沖で発生し、14日~15日にかけて本州の南海上を東北東から北東に進み、15日に房総半島付近を通過した。低気圧の中心気圧は、14日9時には1010hPaであったが、翌15日の9時には996hPaまで発達し、24時間で14hPaの発達率を示した。
この低気圧のコースを決めたのは、上空の気流である。図3は、2月15日9時の500hpa(上空約5500m)の気流を示している。矢印で示す強風の軸が大きく蛇行しており、さらに蛇行した下向き凸部分が南側ほど東に先行していることが分かる。このような大きな蛇行が低気圧の進路を8日以上に北上させ、低気圧周辺の発達した雲の通過によって降水量が多くなったことが推定される。
図2.15日3時の実況天気図 黄色の丸は低気圧の中心位置、薄緑色の丸は 2014年2月8日の大雪をもたらした低気圧の中心位置 |
図3.2月15日9時の500hpaの 等高度線及び風向風速(紫矢印:強風軸の蛇行の様子) |
2)停滞した前線帯の影響
地上天気図には表現されていないが、低気圧の接近前から、その北側にあたる関東沿岸から東海沖に明瞭な前線帯が停滞していた。図4は850hpa(上空約1500m)の相当温位図で、等値線の間隔が集中しているエリア(点線付近)が前線帯に相当している。
図4によると、約1日近くの間、850hPa付近では甲信から関東地方の南岸に前線帯が停滞していたことがわかる。この前線帯付近では、低気圧東側の湿った強い南東風が前線の北側の寒気に乗り上げており、雪雲・雨雲が同じ場所で発達しやすい状況となっていた。このため、低気圧接近前から強い降水が関東甲信地方で継続した。
図4.850hpa(上空約1500m)の相当温位(黒実線)および風向風速。
14日15時から15日9時まで。赤点線が低気圧の北側にあった前線帯の位置を示す。
この前線帯による影響および2-1)で述べた低気圧のコースの結果、2月としては非常に多い降水量となった。図5に、今回14日と前回2月8日の主な降水があった時間帯のアメダス48時間実況降水量を示す。今回は前回と比較して近畿地方から東日本全域、および東北地方の太平洋側で降水量がかなり多くなっており、特に関東甲信地方では100~150ミリ以上に達した所も多く見られる。
3)下層の寒気
図6は、本格的に降水が始まる前の14日9時の地上気温解析図である。地表面付近では、千葉県の北西部まで、0.5℃以下の空気が滞留していた。そのため、降水が雪になりやすい状態であった。
4)雪から雨への変化
1週間前の2月8日の関東地方の大雪では、降り終わりまで雪で経過した。一方、今回の南岸低気圧では、関東地方の平地では14日深夜から15日朝にかけて、南東部から次第に雪から雨へと変化した。図7は、サポーターからのリポートで見る雨雪の分布の変化である。図7によると、15日の1時から5時にかけて、千葉市の南東側から徐々に雪から雨に変わっている。
図8は、上空850hpaの気温である。今回の低気圧は千葉県付近を通過したため、14日深夜以降、上空に暖かい空気が流れ込み、平野部では雪から雨に変化していった。なお、地上からおよそ1000m以下の下層では内陸の冷気が残り、気温の上昇が遅れた。地上では、千葉市付近で午前5時から7時にかけて2℃から10.8℃まで上がり、2時間で約9℃昇温した。上空に0℃以上の暖気が入った後もしばらく地上付近が0℃前後以下だった東京湾周辺では、羽田空港で凍雨が観測されたほか、ウェザーリポートではあられ(氷の粒)の報告が寄せられた。一方、低気圧の北から北西側に離れていた甲信地方では、この暖気はあまり流入せず、ほぼ降り終わりまで雪となった。
3. まとめ
2月14日から15日にかけて、近畿地方から東日本、東北地方など広い範囲でまとまった雪となり、特に関東甲信地方では記録的な大雪となった。これは、発達した低気圧の通過と、その北側に停滞した前線帯に伴い、強い降水が長時間継続してこの時期としては非常に降水量が多くなったこと、および、関東甲信地方では、下層の寒気によってその降水の多くが雪として降ったためと考えられる。低気圧の接近と通過により、関東地方では最終的に雪は雨に変わったが、雨に変わる前の降水量の多さによって、前回8日の大雪と同等かさらに上回る記録的な大雪となった。
事中の解析における雨と雪の境界の把握および予測の修正には、サポーターからのウェザーリポートが非常に有益であった。南岸低気圧の雨雪判断は非常に難しく、特に積雪深計の観測の少ない関東地方においては、その効果は絶大である。
今後もサポーターと共に、より有用な情報を出せるようにしていきたい。
※このWxFilesの記載は速報値であり、二次災害あるいは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。