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2013年9月16日 埼玉県熊谷市・群馬県みどり市で発生した竜巻に関して
2013年9月16日午前1時~3時にかけて、埼玉県熊谷市や群馬県みどり市で突風が発生した。当社の調査によると、突風は竜巻の可能性が高く、竜巻は少なくとも合計2つ以上は発生したと推定される。現地調査および当社のウェザーリポーターからのリポートの被害状況から、竜巻の規模は、EF0~EF1*と推定される。
※EFスケール=竜巻の規模を示すスケール、Enhanced Fujitaスケール
1.現地調査
当社では、突風が発生した16日の午後、熊谷市の被害現場を中心に、現地調査を行った。熊谷市では、被害の大きい地区が、①野原~御正新田~樋春南~広瀬~玉井と、②西城~妻沼の2つに分かれていた。
図1が、①の地区の被害状況をまとめものである。被害は、立正大学のある野原地区から始まり、北北東に玉井地区の国道17号バイパス手前まで、約8kmにわたり線上に伸びていた。屋根瓦が飛ぶような被害の幅は、30-50m程度であった。また、現地の方によると、「ゴーとトラックが近づいてきた感じがした」「激しい音は、1分程度で通り過ぎた」という、何かが近づいてきて去って行ったという話が得られた。これらの被害状況と証言から、深夜で竜巻そのものを見たという情報は得られなかったものの、今回の突風は竜巻であったと推定される。
被害に関しては、特に大きかったのは、南部の野原~樋春南にかけてであり、御正新田付近では、軽装鉄骨倉庫の倒壊、乗用車が横転をしていた。樋春南では、木造倉庫が半壊していた。これらの状況から、この竜巻はEF0~EF1程度であったと推定される。
また、被害があった家屋の多くは南東面に、飛散物による窓ガラス・壁の破損がみられたこと、また、道路標識やミラーが北西方向に倒れていることから、南東からの風が非常に強かったと推定される。
図2は、②西城~妻沼地区の被害状況の調査結果である。こちらも、南北に被害地点が線上に分布していることから、突風は竜巻であった可能性が高い。現地調査は16日時点で妻沼地区までしかできていないため、さらに北部につながっている可能性はある。
西城地区で古い木造家屋が全壊していることから、竜巻の規模は、EF1程度であったと推定される。
また、図3は当社に届いたウェザーリポーターからの被害に関するリポートである。16日未明には、埼玉県に加えて、群馬県みどり市にも強風の被害が出ている。みどり市による調査によると、被害地が線上に分布しており、こちらも竜巻であった可能性が高い。
2.気象概況
日本時間9月13日午前3時にマリアナ諸島近海で発生した台風18号(MAN-YI:マンニィ)は、発生当初は西北西に進路を取りつつ、強風域を広げて大型の台風となった。その後進路を北北西向き、さらに北北東~北東向きに変え、15日深夜から16日の未明にかけて紀伊半島の南の海上を北上しており、当時、関東地方は台風の進行前面向の右側にあたっていた。(台風に対してのこの位置は下層では湿った南東よりの風が強く、上空に向かって南よりから南西よりへと風向が時計回りに変化する場となり、統計的に竜巻の発生が多いことが知られている。)
図6は突風発生前の16日1時のレーダー降雨強度である。当時、神奈川県から群馬県にかけて積乱雲が発生、発達し、上空の風に流されて北北西から北へと進んでいた。熊谷市、みどり市に突風をもたらした積乱雲はこの一部である。気象庁解析データにおける975hPa(高度約250m)の風の収束の強さ(図7右赤線)を見ると、南南東の風がぶつかる関東の西部の山沿いで収束が強まっており、そこで風が強制的に上昇させられていたと推測される。また、積乱雲は海上の相模湾の辺りからも発生しており、上昇気流を発生させる何らかの要因があったと思われるが、この解析データには現れておらず、更なる分析が必要である。
当時の大気の状態は、CAPE(対流有効位置エネルギー)は1018J/kg(1000J/kgを超えるほどになると、上昇気流が非常に強くなりやすい), バルクリチャードソン数(CAPEと風の縦方向の変化の大きさの比率、およそ10から50の範囲だと竜巻が発生しやすい)が19.34と、竜巻の環境となるスーパーセルが発生やすい状況になっていた。このような状況の中で、上記の上昇気流により積乱雲が発生し、その一部が竜巻をもたらした可能性がある。
3.当社の独自インフラによる観測
図9は、当社が羽生市および高崎市に設置している高頻度観測Xバンドレーダー(WITHレーダー)による、竜巻発生時刻前後の雨の観測である。
図9-1を見ると、1:31の画像に非常に強い降水域(赤色):Aが熊谷市付近を通過している。この降水域:Aの南は、カギ状の形をしている。これはフックエコーと呼ばれ、竜巻が発生する際によく見られるレーダーエコーの形状である。このフックエコーをもった降水域:Aは、北に進みこの通過位置が、被害①の地域とほぼ一致する。
次に、2:01の画像をみると、北に移動した降水域Aの南に、新たに強い降水域:Bが南から進んできており、2:11の画像にその降水域:Bに非常に明瞭なフックエコーが確認できる。その降水域:Bが北に進み、2:38の画像で再びフックエコーが確認できる。
また、WITHレーダーのドップラー速度の観測では(図10)、レーダーサイトに対して数キロメートルの範囲で風の近づく成分と遠ざかる成分が隣り合っているのが観測された。これは直径数キロメートルの渦の存在を示している。竜巻は、メソサイクロンと呼ばれる数㎞規模の反時計回りの回転をもった低気圧に伴って発生することが多く、この渦はメソサイクロンに相当すると思われる。
4.今回の竜巻の推定経路
図11は、現地調査およびウェザーリポート、現地自治体への取材、WITHレーダーから推定される、今回の竜巻の通過経路を示している。未調査の地域もあるが、少なくとも2つの竜巻が発生し、東側のものは一旦衰弱(もしくは消滅)し、再発生した可能性がある。
5.まとめ
現地調査から明らかになった被害状況や、当社の独自インフラであるWITHレーダーでフックエコーやメソサイクロンが観測されたことから、今回の突風は竜巻であったと推定される。竜巻の規模は、現地調査の結果からEF1程度であった。
今回、竜巻は深夜に発生したものであったが、東北新幹線の線路や国道を横断するなどしており、日中に発生していた場合、より被害が甚大になっていた可能性もある。当社としては、今後もWITHレーダーなど独自のインフラを活用することにより、1秒でも早く竜巻を検知し情報を発信することで、竜巻による被害を軽減していきたいと考えている。
※このWxFilesの記載は速報値であり、二次災害あるいは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。