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2013年9月2日 埼玉県越谷市~千葉県野田市で発生した竜巻に関して
2013年9月2日午後2時頃、埼玉県越谷市で竜巻が発生した。竜巻は北東に進み、千葉県野田市まで達した。経路にあたる地域では、建物の全壊・半壊、電柱の倒壊、負傷者多数といった被害をもたらした。
当社スタッフによる現地調査・分析から、今回の竜巻のEFスケール※は、日本では規模の大きい「EF-2程度」(風速50-60m/s)と推定される。
※EFスケール=竜巻の規模を示すスケール、Enhanced Fujitaスケール
1.現地調査
当社では、竜巻発生3時間後に現地に到着し現地調査を開始し、被害が広範囲にわたっていたことから翌9月3日にも現地調査を行った。図1は、被害状況の分布と、各地点における被害状況(写真)である。
調査は、しらこばと運動公園付近から開始し、被害が最も甚大であった大杉地区にかけて行った。国道4号下久里交差点付近(①:図1内の番号に対応)では、積み上げ型のコンテナが倒壊、また車が強風にあおられ橋梁から転落していた。
県道115号付近の住宅街(②)では、電柱が多数なぎ倒され、全壊した家屋もあった。
大杉地区(③)では、軽自動車が持ち上げられて横転し、また、鉄骨の建物が倒壊していた。②および③の被害状況から、今回の竜巻の規模は、EF-2程度と推定される。尚、竜巻による被害の幅(進行方向に対して直角方向)は、場所により異なり、20-50メートルであった。もっとも幅が大きかった地域は、被害が最も甚大であった大杉地区であった。
竜巻の経路については、現地調査および、現地の消防からの情報を合せると図2のように推測される。竜巻はしらこばと運動公園付近で発生し、松伏町を通過して野田市へと移動した。移動距離は10~15kmとなった。竜巻は住宅街を横断したため、被害を大きくしたと考えられる。
2.当社のウェザーリポーターからの現地報告
当日、当社のウェザーリポーターからも多数の竜巻の報告をいただいた。図3は、その多数いただいたレポートのほんの数例である。
<図3>
ウェザーリポーターからは、14:06に最初の竜巻報告が届き、その後通常の10倍以上リポートが寄せられ、いち早く竜巻の発生を検知することができた。
3.気象概況
図4は2013年9月2日15時における天気図である。日本付近には三陸沖から本州日本海側を経て、東シナ海に延びる秋雨前線が停滞している。一方、沖縄近海ある台風17号がゆっくりと北東へ進んでいる。このため、秋雨前線に向かって、下層では暖かく湿った空気が流れ込みやすい状態であった。
図5は同日9時における上空5800m付近の気温を示す。関東付近ではこの高度で-6℃前後の気温であり、下層と上空の温度差が大きくなっていた。また、図6は茨城県つくば市館野における同日9時の高層気象観測結果である。1500m付近から11000m前後まで、上空に向かって気温の下がり方(気温減率)が大きかった。地上付近の空気塊が1500mくらいまで上昇する力が加われば、その空気塊の気温が周辺の気温より高く(赤点線が青線より右に)なると相対的に軽くなり、自然に上昇し、最終的に12000から16000mほどまで達する雲が発生することになる。すなわち、地上風の収束や、地上気温の上昇などにより空気が上昇する条件が揃えば、積乱雲が急速に発達する場であったと言える。
4.局地解析
図7は、関東地方における12時~14時30分までの気象レーダー画像である。12時に東京都多摩地方で発生した雨雲が発達しながら北東進し、埼玉県越谷市付近から千葉県野田市付近を通過した。
特に13時30分から14時頃にかけて、急速に発達している様子が分かる。この時のアメダスにおける風の解析結果が図8である。図中の矢印は風ベクトルを示し、赤い線は風が収束している所を示す。これによると、12時には埼玉県南東部で北寄りの風と東京湾からの南寄りの風の収束が顕著となっている。13時から14時かけて風の収束は埼玉県越谷市周辺で更に強まった。
図9は2日13時30分における風の詳細な解析結果である。これによると、越谷市を含む埼玉県東部を中心に低気圧性の循環が見られる。また、この直前13時の局地天気図(図10)を見ると、この付近には局地低気圧が解析されている。
これらのことから、埼玉県の東部では地上風が収束しながら低気圧性の渦が発生しやすい環境にあったことがわかる。
また、図11は気象庁のドップラーレーダーを元にした、積乱雲内のメソサイクロン(数km~20km程度の低気圧性回転)を独自に解析した実況解析結果である。これによると埼玉県東部でメソサイクロンを伴う積乱雲(スーパーセル積乱雲)が検知されたのは14:00で、約40分に渡って北東に移動しながら継続していた。竜巻はこの積乱雲に伴って14時過ぎに最初に目撃され、北東に進んだと考えられる。
5.当社独自インフラを用いた解析
竜巻が発生を予測するには、その元となる小規模(2㎞~10km)な低気圧性循環(メソサイクロン)を検知することが重要である。図12は、当社の高頻度観測Xバンドドップラーレーダー(WITHレーダー)の調布サイトのドップラー観測である。竜巻発生の約15-20分前の13:46頃の観測であるが、この時点で小規模な半周の低気圧性循環が観測されている。メソサイクロンを伴った竜巻の親雲となるスーパーセルが形成されつつあることが推察される。
また、図13は当社の高密度高頻度の地上観測ネットワーク(WITHセンサー)による10分間での気圧変化幅を表している。気圧変化幅の大きな領域がさいたま市付近から野田市付近へ移動していることが分かる。これは上記のメソサイクロンの通過に対応している可能性がある。
※このWxFilesの記載は速報値であり、二次災害あるいは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。