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2013年5月20日オクラホマで発生した竜巻に関して
オクラホマ >2013年5月20日、アメリカ オクラホマ州で複数の竜巻が発生し、中でもムーア市を通過した大規模な竜巻により、数多くの建物が完全に倒壊し、死傷者が多数出るという大きな被害が出た。アメリカ国立気象局(National Weather Service, NWS)によると、竜巻の規模を示すEnhanced Fujitaスケール(EFスケール)は最高ランクのEF-5とのことである。
ムーア市を襲った竜巻の移動経路
ムーア市は州都オクラホマシティと当社オクラホマイノベーションセンター(以下、OIC)のあるノーマン市との中間にある。図1は、NWSの調査による竜巻の移動経路と被害状況である。現地時間20日14:45頃、ムーア市の南西で発生した竜巻は北東~北北東に強度を強めながら進み、ムーア市の中心部を通過し、15:35頃に消滅した。経路の長さは約27km、幅は最大2kmとのことである。被害はムーア市付近で最も大きく、EF-5と認定されている。
現地調査
被害発生当日の20日から23日にかけて当社OICのスタッフが現地調査を行った。
図3①、②は、竜巻が発生した時間帯にノーマン市からムーア市の方角(①)およびノーマン市の上空(②)を撮影したものである。①では竜巻を発生させた非常に発達した積乱雲が確認できる。②はノーマン市上空を覆った乳房雲の様子である。乳房雲は竜巻をもたらすような積乱雲の発達に伴い、上空に乱気流が発生していることを示す。
図4は、竜巻通過直後のムーア市東部の、竜巻が消滅したとされる場所周辺(図2.③)の写真である。この付近では木が幹から折れている状況などから、竜巻の規模はEF0-1程度だったと推定される。また、周囲には竜巻によって運ばれてきたと思われるものが散乱していた。
図5.はムーア市中心部の南の被害が最も大きかった付近(図2.④)の様子(現地時間22日撮影)である。家屋は吹き飛ばされて瓦礫となり積み重なり、大型の乗用車も原型をとどめないほど潰れ、巨木も根元から折れている。この被害状況から、このエリアにおいては竜巻の規模はEF-4相当と推定される。
一方、ここから数百メートル離れた場所では被害は軽微であり、竜巻は規模に関わらず、ライン状かつ局所的に甚大な被害をもたらすことが改めて確認できた。
また、現地時間23日には、ヘリコプターによる上空からの被害状況の調査も行った。図7は、その際に上空から撮影した様子である。撮影地点は右の図6に対応する。
南西から北東へ移動した竜巻の経路に沿って、家屋の倒壊により周辺とは異なる赤茶色になった場所が帯状に伸びているのが確認でき(図7の赤線に挟まれた部分)、Briarwood Elementary School~Plaza Towers Elementary School~Moore Medical Center付近の被害が壊滅的で、特にPlaza Towers Elementary School付近は被害幅も大きいように見受けられた。
気象状況
竜巻発生当時、オクラホマの北には大きな低気圧があり、一方のメキシコ湾から暖かく湿った空気が流れ込みオクラホマ周辺は大気の状態が非常に不安定であった。またオクラホマ州やテキサス州では両側で湿度の差が大きく、ドライラインと呼ばれる乾燥した空気と湿った空気のぶつかり合う前線が通過した(図7)。オクラホマ周辺ではドライライン上で竜巻が発生することが多く、今回もその一例である。
ノーマン市での高層気象観測によると、積乱雲が発達するためのエネルギーであるCAPEは最大で約5000J/kgと非常に大きくなった。(2012年5月6日の茨城県つくば市周辺での竜巻発生時におけるCAPEは、6日9時時点の高層気象観測で約550J/kgであった。)
また、竜巻をもたらした積乱雲はNWSのレーダーでも捉えられていた。図9はその一例であるが、大きなエコーの塊の南西端に強い反射強度で渦を巻くように見える部分がある。中心部は円形で特に強いエコーが出ており、竜巻やメソサイクロン(竜巻より高高度の雲の中の渦)に対応すると思われる(図9 点線部分)。この円形部分は「Debris Ball(デブリボール)」と呼ばれEF3以上の強い竜巻の時に現れることが多い。
竜巻の予測と対策について
竜巻の予測については、前述のような予測モデルで表現される低気圧や前線等の気象状況を元に、数日、数時間前から大まかな地域に対して発生の可能性を見積もることはできる。ただ、竜巻という現象は時間・空間スケールが非常に小さく、竜巻そのものの詳細な発生位置や時刻を予測することは現時点では非常に難しい。よって、竜巻を引き起こす親雲であるスーパーセルやその雲の中の風の回転(メソサイクロン)を高頻度の観測が可能なドップラーレーダーなどにより把握することで、竜巻を引き起こすリスクの高い雨雲の移動方向を予測することが重要である。メソサイクロンを検知し、警報を発表する仕組みはすでにアメリカのNWSでは運用化されており、今回の竜巻においても図10のように来襲15分程度前には予測されていた。
日本でも、昨年茨城県つくば市周辺で発生した竜巻のように、規模が大きく被害をもたらす竜巻の発生が増えている。竜巻被害軽減のために、日本においても竜巻の予測システムを当社にて開発・運営し、竜巻のアラートサービスである「竜巻アラーム」の素材として活用している。また、実際の竜巻発生の確認には当社の全国400万人のウェザーリポーターから寄せられるウェザーリポートが活かされている。今後も竜巻研究の最先端であるオクラホマ大学と連携し竜巻に関する予測技術開発を進め、被害を最小限にするようなサービスを提供していきたいと考える。