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2013年3月10日関東地方の砂嵐に関して

 2013年3月10日、関東地方を寒冷前線が通過し、突風が発生した。この際に巻き上がった砂・土により、広範囲で砂嵐となった。この急激な風の強まりと砂嵐による視界不良により、鉄道では一部区間(JR宇都宮線・上野~宇都宮間)で運転を見合わせ、高速道路でも一部区間(成田JCT~潮来IC)で通行止めとなるなど、公共交通機関に影響が出た。埼玉県・千葉県内ではけが人が出たところもあった。また、目や鼻、喉など身体に異常を訴える報告も当社に多く届いた。

サポーターからのリポートによる砂嵐の状況

砂嵐の状況は通常の気象観測だけでは把握が難しいため、現地のウェザーリポートからその状況を分析した。
ソラミッション(※)の報告(図1)を見ると、関東地方の広範囲で「空が霞んでいる」という報告があり、特に群馬県~埼玉県~東京都・千葉県付近にかけては、「近くの景色も見えにくい」という報告が多く届いた。当日は黄砂や花粉の影響もあって、各地で朝から空が霞んだ状態であったが、昼前から近くの景色も見えにくいという報告が急激に増えていった。

図1.空の霞具合を聞いたソラミッションの報告(10日11:30~15:00)
※ソラミッション:当社スマートフォンアプリ「ウェザーニュースタッチ」で天気や季節の変化に関するテーマを日々設け、そのテーマに関する現地の状況を報告してもらうというサポーター参加の場。ウェザーリポーターとしての腕を磨く場。


天気に関するリポートを分析すると、12時~12時30分頃に群馬県で「急に風が強まってきた、外出危険な風」の報告が急増した。さらに、そのような強い風の報告は時間を経るとともに南東方向へ拡大し、2時間程度の間に東京都内・千葉県内など関東南部にまで広がったことが分かる(図2)。

図2.サポーターからの10分天気・風報告
(過去30分間の報告。丸は「外出危険な風」、「歩行困難な風」の大まかな分布エリア)

関東平野の中央部である埼玉県に注目すると、12時30分を過ぎた頃から1時間余りで県内の広い範囲へ強風の範囲が拡大している。図3で報告数の時間変化を見ても、12時30分頃から13時30分頃にかけて強風のリポートの数の急増がわかる。13時30分頃をピークに非常に強い風が吹き、外出が危険と感じる程の強風が吹き荒れていたことも分かる。


図3.埼玉県からの10分天気・風報告の時間変化

ウェザーリポート

突風が発生し、砂嵐となったエリアからはリアルタイムで写真付きのリポートが多く届いた。

突風とともに急激に視界が悪くなっていったことがよく分かる。

サポーターリポートからできたこと、影響

今回は、前日から黄砂や花粉で空が霞んだ状態であったが、当日の昼頃からは突風によって砂や土埃が巻き上がり、急激な視界の悪化をもたらした。(ここ数日、関東地方では晴れの日が続いており、地表付近は乾燥した状態が続いていたため、より一層、砂・土埃が巻き上がりやすい状態であったと考えられる。)
さらに、今が飛散のピークとなっているスギ花粉による花粉症と相まって、目や鼻、喉などに症状を訴える報告が多く届いた。当社がスマートフォンのアプリなどを通じて毎日調査している花粉症の症状に関する調査の回答では、関東地方では砂嵐が発生した10日に症状の悪化を訴える方が増え、今シーズンの花粉症の症状のピークとなった(図5)。

図5.関東地方での花粉症の症状調査に対する回答の変化


以下からは、当日の気象状況の詳細な解説を行う。

気象場の分析

9日日中に大陸からの気圧の谷に対応して日本海付近で明瞭化した低気圧は10日日中にかけて発達しながら、北海道付近を通過後、太平洋側に抜けた。その低気圧から伸びる寒冷前線が東~西日本を南下し、10日夕方には本州の南岸に抜けた。(図6)


図6.左:実況天気図(10日15時)、右:衛星画像(10日15時)

日本海側から南東進した寒冷前線は、日本海側で雨を降らせながら、10日昼ごろに関東平野北部に進入した。図7に示す通り、地上での気温および風向の変化が明瞭で、12時から18時にかけて前線に相当する不連続線(気温や風が不連続に分布するその境界線)が関東平野を南下していったことが読み取れる。

図7.アメダス気温変化と風向風速
(赤点線は関東平野における地上の不連続線(前線)の位置を示す)


埼玉県熊谷における気温・風速・気圧の変化(図8)を見ると、前線通過と推定される12時~13時頃にかけて、気温が急降下し、気圧は急に上昇に転じている。これとほぼ同時に瞬間風速は2~3m/sから15m/sを超えるまでに急変し、突風が吹いていたことが分かる。

図8. 熊谷における気温、風および気圧の変化(気象庁観測値)

また、当社が全国3000箇所に設置している観測器WITHセンサーのデータにおいても、気圧が急上昇する領域が群馬県から埼玉県、東京都、千葉県へと南東方向へ移動した様子が見られた(図9)。当社では過去の突風事例の分析を元に、10分間で0.8hPa以上の気圧上昇が見られると突風の危険性が高いと判断し、10分間の気圧変化量を「突風リスクインデックス」として図9のように表示している。今回は前線の南下に伴い、広範囲で突風の危険性が高くなったと推測される。

図9.WITHセンサーから解析した突風リスクインデックス
(10分当たりの気圧変化量を表し、値が大きいほど突風リスクが高い)
※WITHセンサー:当社が独自に設置している観測器で、全国約3000箇所に設置。1分間隔で気温、気圧、湿度、感雨、紫外線、日照を観測している。


雨雲の動向を見ると、寒冷前線が関東平野に進入した時点ではエコーが不明瞭になっている(図10)。山越えに伴う下降流の影響などにより、雨雲が衰弱したものと考えられる。その結果、地上の前線直上では関東平野において降水がほとんどなかった。

図10.気象庁レーダー(10日12時~15時)

寒冷前線が関東平野に進入する際、冷たく重い空気が群馬県の山沿いから平野部に向けて流れ下った(図7(2)の13時に北西の風が群馬県から埼玉県にかけて舌状に伸びている領域)ことで、埼玉県を中心とした平野部で北西の風が強まった。風の強まりとともに気温が急降下し、気圧が急上昇したことからも、冷気が急速に侵入したことがわかる。この勢いよく南下する冷気の先端によって、日中の日射および南西風によって高温かつ乾燥した(相対的に軽い)空気が冷気の上に跳ね上げられ、強い上昇気流が発生したと推測される(図11)。
以上のように、10日午後の関東南部の広範囲で見られた大規模な砂嵐は、乾燥した地表の砂が、移動する冷気の先端で発生した強い上昇気流によって激しく巻き上げられ、北西の風によって移動したことによるものと考えられる。

図11.移動する冷気の先端で上昇気流が起こる模式図
※このWx Filesの記載は速報値であり、二次災害あるいは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。