ニュース
2013年3月2日道東地方の暴風雪に関して
2013年3月2日、北海道を発達した低気圧が通過し、道内では暴風雪となった。また、積雪した雪を巻き上げることで起こる地吹雪も発生し、昼間でも数メートル前が見えない状況が長時間にわたり続いた。特にオホーツク海側の地域での影響は大きく、道内では合わせて9名の方が亡くなるという大惨事となった。
吹雪の程度は通常の気象観測だけでは把握が難しい。このため、現地のサポーターからのリポートを元に当時の状況を分析した。
サポーターからのリポートによる吹雪の状況
3月2日に北海道のサポーターから届いたリポートによると、13時30分時点でオホーツク海側の網走付近では、まだ「影はっきり」というくらい晴れ間が出ていた(図1左)。しかし、15時には「ブワァー」という吹雪のリポートが急増し、天気が急変したことが分かる(図1右)。
画像をクリックすると拡大画像が見られます
吹雪の強さに関しても詳細なリポートが多く届いた。13時までは「問題ない」がほとんどだったが、オホーツク海側で吹雪リポートが増えた15時以降には、「前が見えない」、「顔を上げられない」という強い吹雪のリポートが急増した。13時から15時の間の約2時間で状況が一変したことが分かる。
※ソラミッション:当社スマートフォンアプリ「ウェザーニュースタッチ」で天気や季節の変化に関するテーマを日々設け、そのテーマに関する現地の状況を報告してもらうというサポーター参加の場。ウェザーリポーターとしての腕を磨く場。リポートの写真・コメントで見る天気の急変
2日の朝は穏やかに晴れた空の報告であったが、11時半頃以降は猛吹雪を伝えるリポートが多く届いた。
<網走市での被害現場>
1)地理的特徴網走市での遭難現場は、網走市中心部から西に約10km離れた郊外にあった。北側に能取湖があり、冬期、能取湖は表面が凍り、平原の様な状況となっている。また、周りに木々は多少あるものの平坦な土地となっており、オホーツク海からの強い北風が直接吹き込みやすい地形であった。また、今年は雪の量が平年より多く、道路脇の雪の量も多い状況であった。人通りは少ない場所であった。
2)聞き取り調査
付近の住民の方によると、当時の状況は以下の様であった。
・午後から大荒れで目先が見えなくなる状況まで、あっという間だった。
・普段吹雪になっても、吹き溜まりで道を全て遮ることはないが、道の両脇に寄せてある雪の高さまで、道の全てが雪で埋まった。
・これまでビニルハウスが破れたことはない。その点ではこれまでで1番の大荒れだった。
・家も風で揺れた。
・ある程度交通量の多い道であれば、除雪や排雪もある程度は行っているが、脇道までは厳しい。
・市街地の建物がある所と、郊外の民家が少ない所では、吹雪の強度レベル(地吹雪や風)が違う。郊外の方が風を遮るものが何もない所は、さらに大荒れとなる。
<湧別町での被害現場>
1)地理的特徴湧別町の被害現場はオホーツク海から約1kmの平坦な土地で、道沿いには吹雪除けも多く見られるほど、辺りは遮るものは少なく、吹雪やすい。網走の被害現場と同様に郊外であり、民家同士の距離が離れており、人通りは少ない。
2)聞き取り調査
付近の住民の方によると、当時の状況は以下の様であった。
・ホワイトアウトにより視界はほぼ無かった。
・とても外に出られる状況ではない。
・日が落ちた後は、明かりは十字路毎の明かりと、各民家の外灯のみだが、何とか明かりは見えたかもしれない。
・吹き溜まりなどは風が巻いて、いつもと違う雪のたまり方があった。
サポーターリポートの解析と現地調査からわかったこと
被害現場付近では、午後に状況が急変し、猛吹雪となった。朝には暴風雪警報が発表されていたものの、午前中は天気が良く、午後に急変したことが被害を大きくした要因となっている可能性がある。午前中の天気があまりにも良く穏やかな天気だったため、また週末であったこともあり、外出していた方も少なくなかったようだ。ちょうど外出先から戻る途中に、天気の急変によって、動けなくなったり、帰宅できなくなったというケースが多く見られた。もし朝から吹雪になっていれば、外出自体を控えた方も多かったのかもしれない。
また、吹雪自体の強さも、現地の方から見ても、「経験がないくらいの猛吹雪だった」という声もあった。午後から吹雪になると知っていた方も多かったようだが、予想以上の吹雪になったと思われる。今回の吹雪は昼間の明るい時間帯に始まっているが、明るい時に猛吹雪となると、太陽光の乱反射により、一面真っ白(ホワイトアウト)となってしまい、自分がどこにいるのかさえ判断が難しくなってしまう。今回は突然のホワイトアウトとなり、大きな影響となったと考えられる。
さらに、郊外の平坦で風が吹き抜けやすく、民家の少ない場所で猛吹雪の被害を受けやすいということも分かった。そういった場所では市街地より吹雪が強まりやすく、吹き溜まりが大きくなりやすい。また、助けを求める民家が近くにないことも多い。
以下からは、当日の気象状況の詳細な解説を行う。
総観場の分析
3月1日に日本海上に位置していた低気圧は、大陸から東進する寒冷渦に取り込まれながら猛発達し、3日朝にかけてゆっくりとしたスピードで北海道を通過した。低気圧の中心気圧は1日15時時点の994 hPaから24時間後の2日15時で974 hPaと大きく低下し、36時間後の3日3時では中心気圧は968hPaにまで低下した。低気圧の発達に伴って雪雲が活発化し、さらに低気圧の中心から周囲にかけての気圧傾度(等圧線の密集度合い)が非常に大きくなったところで風が強まった。北海道地方では2日日中~3日朝をピークとして暴風雪に見舞われた。
今回の低気圧では、中心付近の天候と風速の分布に特徴があった。
まず風速の分布については、実況解析の気圧傾度に着目すると、図7のように気圧傾度は中心付近で緩く、中心から100数十kmほど外側で特に気圧傾度が大きい領域が現われていた。そのため、風は中心付近で比較的弱く、中心から離れたところで急に暴風レベルまで強まる傾向にあった。道東付近での時間経過を追うと、2日9時時点では、気圧傾度の緩い領域に入っていたが、12時になると西から急激に気圧傾度が大きくなり、15時以降に低気圧の中心の西側の特に気圧傾度の大きい(風が特に強い)領域に入った。
図7.数値モデルによる気圧および風向風速の実況解析(左上から順に2日9時、12時、15時、18時、21時)
次に、天候の分布、変化について、衛星画像(図8)から見ると、低気圧中心から南側は雲の少ない領域が広がり、その北から西へ回り込む形で活発な雪雲(輝度の高い領域)が環状に形成され、全体として東進していた。強い雪雲の領域がまとまりを見せており、北海道では雲の少ない状態から、急に雪に変わるといった天候の急変が起きやすい状況であったといえる。
特にオホーツク海側を中心に見ると、15時から18時にかけて北側から発達した雲が流れ込んでおり、天候の急変を示している。
図8:衛星画像(赤外) (左上から順に2日9時、12時、15時、18時、21時)
以上より、オホーツク海側では前述の風の強まりのタイミングと合わせ、15時ごろを境に降雪も急に激しくなったことがわかる。
地上観測値からの分析
天候急変の様子は、地上の観測値でも確認された。網走における地上気象観測によると、風は朝9時頃には平均風速5m/s前後であったのが11時半頃から次第に強まり始め、15時から16時の間でさらに強さを増し、16時以降になると平均風速で15m/s 以上、最大瞬間風速で25m/s 以上を観測するようになった(図9)。気圧傾度が中心付近で緩く、周囲で急に大きくなる分布を持つ低気圧の移動に伴う風速の変化の特徴が現われている。
人的被害のあった湧別、中標津、網走の3月の観測統計(表1)を見ると、日最大風速が湧別 (20.1m/s)で観測史上1位、中標津(11.9m/s)で観測史上3位、網走では日最大瞬間風速(31.4m/s)が観測史上5位であった。3月としては記録的な強風であったことがわかる。
今回の暴風雪においては、上記のような観測データに加え、サポーターからのリポートや現地での調査によって、天候の急変の様子や地理的な特徴を詳細に把握することができた。今後、このような様々な情報を最大限活用し、吹雪という現象の理解をより深めることにより、今回の様な被害を最小限にできるコンテンツ、サービスを提供できるよう努めていきたいと考える。
※このWx Filesの記載は速報値であり、二次災害あるいは今後同様の災害を少しでも減らすことを目的としています。