2025.07.17
世界145カ国の気象警報を集約 自然災害で亡くなる人を1人でも減らしたい
ウェザーニューズでは、2023年に世界中の観測データや警報データを集める専門チームを立ち上げました。今回は、ウェザーニューズが世界中のデータを集約し、このデータを活かしたサービスを開発するまでの経緯について、データインフラグループの石井翔子氏に聞きました。
より多くの人々の安全を守り、グローバルな経済活動を支援したい
当社が日本に限らず海外の気象データの集約に注力する理由は、単に海外での予報精度向上にとどまりません。民間の気象会社として、テレビやネットニュースで災害の発生を知るのでは遅い。自らデータを集め、常に最新の状況を把握できる会社でありたい、という思いに加え、日本で培った高精度な気象予測技術を世界に展開し、より多くの人々の安全を守る、という強い使命感に基づいています。
また近年、企業の海外進出やサプライチェーンのグローバル化が進んでいます。気象は、物流、農業、エネルギーなど、あらゆる産業に大きな影響を与えます。ウェザーニューズが海外の気象データを詳細に把握することで、海外に進出している日本企業や現地の企業に対して、より的確な気象リスク情報や事業継続支援を提供できると考えています。
人口カバー率は98%、品質を高めるデータ管理で利便性の高い情報へ

本チームの立ち上げから2年が経ち、多くのデータを集めることができています。世界気象機関(WMO)で集約されている気象データはもちろん、各国の気象庁と直接コミュニケーションをとり関係性を築くことで、国際機関に提出されていないデータも受信できるようになり、現在は140以上の国からデータを受信しています。 データの種類は、雨・風のような観測データの他、国の機関が国民向けに発表する警報、気象レーダーによる雨雲の様子、各国気象モデル、過去統計値など様々です。
私は、その中でも警報データの集約を担当しており、集めたデータは人口カバー率にして98%に到達しましたが、情報を集める中で新たな課題が見えてきました。それは、各国の警報データフォーマットが全くバラバラであるということです。例えば、世界中で発表される警報は、各国の言葉で発表されており現地の言葉を理解できる人でなければ読むことができません。他にも、国によって発生するリスクは異なるため、モンスーン、干ばつ、大気汚染など特定の国にしか存在しない警報があったり、農産業が盛んな国では牧羊事業者向けの注意報も含まれていたりします。
受信したデータをそのままコンテンツとして表示するだけでは、利用者にとって必要な警報を区別できず、利便性に欠けます。そこで、取得したデータを特定のフォーマットに整理し直すことにしました。具体的には、世界140カ国から集まった気象警報データから必要な要素を取り出し、約40種類の警報に自動で分別・タグ付けします。また、データ処理の過程で発見された異常値は取り除く処理も行います。
データのフォーマットを整理する際、私たちは言語の壁に直面しました。当初、世界中で発表されている警報データの種類を把握するため、過去数年分のデータを収集しましたが、その内容を正確に理解することに苦労しました。さらに、整理したデータをコンテンツとして活用するにあたり、56もの言語への再翻訳を計画していました。ユーザーにとって自然で、利便性の高い表現を目指していたため、この翻訳作業は非常に重要でした。 これらの問題に対してAIによる機械翻訳も試みましたが、完璧な翻訳は難しく、課題が残る部分も多くありました。しかし、ウェザーニューズの多様な国籍を持つ社員たちが大きな助けとなりました。仲間の協力を得ることで、この多言語対応の課題を乗り越えることができたと思っています。
なお、ウェザーニューズは4,800万ダウンロードを超える天気アプリやWebサイト、法人向けサービスを通じて世界中の人々に気象情報を提供しています。今回取得したデータは、天気の質問にAIが答えるチャット機能『お天気エージェント』などでの利用を想定して、あらかじめ生成AIで利用しやすいようなフォーマットで管理してます。より多くの方に活用していただけるよう、引き続きコンテンツの開発にも力を入れていきます。
世界中の人々が迅速に危険を察知できる社会へ
このプロジェクトを通して、私にとって新たな気づきがありました。一部の気象警報は、あくまで発生している災害を発表しているに過ぎず、今後のリスクへの言及や、国民に対するアクション喚起が不足している、あるいは災害の発生から大幅に遅れて発表されるケースがあるということです。こうした情報に接するたび、情報の精度をさらに高められないか、そしてその警報が人々の手元に確実に届いているのか、と疑問に感じることがあります。
世界中には、日本に比べて予報技術が低い国、警報を発令する機関を持たないほど貧しい国、警報を発令するけど国民がその情報を受け取れていない国が存在します。ウェザーニューズは民間企業として、データを集め、予報を作成し、多くの人に情報を届けてきました。こうした技術やノウハウを活かせば、世界中で発生する自然災害で亡くなる人を1人でも減らせるのではないか、ともどかしく感じます。
これからも、皆さんの安全に役立てていただけるように世界中の警報や観測データを集約、高品質に管理した上で、利便性の高いコンテンツや高精度な予報としてユーザーに還元していきたいと思います。
