2026.09.07

【逆走台風】観測史上初の茨城上陸となった2026年台風15号は日本列島を西へ横断

2026年8月5日15時に発生した台風15号(チャンホン)は、北上したのちに西寄りへと進路を変える、通常とは逆方向に進む特異な経路をたどりました。 本台風は強風域が広く、上陸の半日前から関東〜東北の広範囲を巻き込みました。中心から離れた仙台市で20m/s以上の強風を観測するなど、各地に甚大な影響を及ぼしました。倒木や強風に伴う送電線断線により、翌12日午前にかけて茨城県・栃木県を中心に約3,000戸以上が停電。鉄道の運転見合わせ、高速道路の通行止め、航空便やフェリーの欠航など、広範囲でライフラインや交通インフラに影響が出ました。




気象概況

2026年の台風上陸は、6月に和歌山県へ上陸した台風6号に続く2例目です。 台風15号は8月5日15時にウェーク島近海で発生後、8月11日20時ごろに茨城県南部に上陸しました。気象庁の統計開始(1951年)以来、茨城県への台風上陸は史上初です。上陸後は千葉県、埼玉県、山梨県、群馬県、長野県方面へと西進し、福井県敦賀市付近を経て日本海へと抜けました。多くの台風が日本接近後に東寄りへ進む中、列島を西向きに横断する「逆走台風」として大きな注目を集めました。




台風15号はなぜ「逆走」した?エルニーニョとの関係を分析

台風15号が西に向かって進んだ理由は、太平洋高気圧と、モンスーンの影響で日本の南海上に現れた低気圧(モンスーンジャイア)の位置が影響しています。 台風15号は発生後、モンスーントラフの流れに影響を受け、北西方向へ進みました。その後、千島付近の高気圧の縁辺流(東風)と、上空の冷たい空気の渦が南下したことで生まれた西方向へ引き込む力により、進行方向を西寄りに変え、日本列島を横断するような進路をとりました。 この千島付近の高気圧の発達と寒冷渦の南下には、日本付近で偏西風が大きく蛇行したことが影響していたとみられます。

過去にも2016年10号、2021年8号、2024年5号など、東側から接近・上陸して西進した例が存在します。これらの発生年はエルニーニョ現象が起きておらず、今回の逆走経路とエルニーニョとの間に直接的な因果関係は薄いと考えられます。一方で、共通して見られたのは「モンスーントラフが拡大し、日本の南で巨大な渦(モンスーンジャイア)を形成していた点」であり、進路に大きな影響を与える要因の1つとなっています。




台風進路の精度評価

図1:台風の中心位置の予測誤差と予報時間の関係
図1:台風の中心位置の予測誤差と予報時間の関係

図1は、台風の中心位置の予測と実況の誤差を表したグラフで、横軸は予報時間(*時間先の予測)を、縦軸は予測と実況の誤差を示します。Google DeepMindのAIモデル(FNV ens mean)が120時間先までの予測誤差を350km未満に抑えており、他のモデルよりも早い段階からより実際に近い進路を予測していることがわかります。

FNV ens mean:Google DeepMind (CC BY 4.0) NCEP EM:アメリカ国立環境予測センター ECMWF EM:ヨーロッパ中期予報センター UKMET EM:イギリス気象庁 JMA EM:日本気象庁 ICON EM:ドイツ気象局 CMC EM:カナダ気象庁 AIFS EM:ヨーロッパ中期予報センター AIGEFS EM:アメリカ国立環境予測センター(AI全球アンサンブルモデル)

図2:各モデルにおける台風の中心位置の予測誤差の積算
図2:各モデルにおける台風の中心位置の予測誤差の積算

120時間までの予測誤差の積算値を比較すると(図2)、ヨーロッパ中期予報センターの物理気象モデル(ECMWF EM)が最も精度が高く、僅差でGoogle DeepMindのAIモデル(FNV ens mean)、ヨーロッパ中期予報センターのAIモデル(AIFS EM)、NCEP EMの精度が高い結果となり、台風の進路予測精度について、物理モデルに対するAIモデルの優位性は顕著ではありませんでした。

図3:各国の気象予測モデルの進路予測(左:2026年8月7日9時(JST)時点、右:2026年8月10日9時(JST)時点)
図3:各国の気象予測モデルの進路予測(左:2026年8月7日9時(JST)時点、右:2026年8月10日9時(JST)時点)

台風15号は、モンスーントラフの東側の外縁で発生したために強風域や雲の形にまとまりがなく、発生後数日間は台風らしい特徴が見られませんでした。このように過去に類似例が少ないパターンは、AIモデルの予測精度が低下しやすくなると考えられます。

実際、図3の予測推移を見ても、発生直後の8月7日00UTCの段階ではいずれのモデルも実況より北寄りの進路を予測していましたが、台風の構造が整ってくるにつれて予測が修正され、10日00UTCにはほとんどのモデルが「茨城県上陸」を予測するに至りました。

近年、AIモデルの進路予測精度の高さが脚光を浴びていますが、今回のように初期の大気構造が異例なケースでは、AIであっても予測に誤差が出得ることを示す象徴的な事例となりました。

当社では、高精度の予報を提供するため、ウェザーニューズ独自の予測モデルに加え、他機関のモデルも活用したアンサンブル予報を行い、精度評価を通じて継続的な予報改善に努めています。引き続き、AI気象予測モデルも含め様々な予測モデルの精度検証を重ねることで、モデルの特性を深く理解し、皆様により高精度な気象情報をお届けできるよう努めてまいります。