2026.09.15

たった3行に込める予報士からのメッセージ「天気コメント」を世界中の人々に届けるAIシステム開発の裏側

「今日はにわか雨に注意、蒸し暑くなるので熱中症にも注意してください」 「雷を伴うおそれがあります。ゴロっと聞こえた場合は一旦雨宿りを」

天気アプリを開いたとき、ふと目に入る小さなメッセージ。一見シンプルに見えるこのコメントには、ユーザーの生活と安全を想う気象予報士の強いこだわりが詰まっています。

実はこのコメント、ほんの数年前まではスタッフが手作業で作成していました。しかし、アプリのグローバル展開が決定したことで、手作業によるコメント作成をやめ、AIを活用したシステム化に踏み切りました。 予報士が今まで天気コメントに込めてきた思いをロジカルにシステムへ落とし込み、再現できるのか。多言語対応と取り扱いデータの拡大に伴うコストの増化を抑制できるのか。知られざる開発の舞台裏と解決への道のりを、予報センター開発担当の池守春奈氏、水津彩花氏に聞きました。




ユーザーの生活に寄り添い安全を守るため、予報士が「天気コメント」に込める想いとは

ウェザーニュースのアプリに表示される天気コメント
ウェザーニュースのアプリに表示される天気コメント

天気予報といえば、晴れや雨の「天気マーク」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかしウェザーニューズでは、ただ天気を伝えるだけでなく「〜だからどう行動すべきか」という具体的な対応策まで踏み込んで発信することに強くこだわってきました。

理由は、「雨」という気象現象だけでなく「傘が必要」であるとか、「気温が35度」という数字だけでなく「熱中症に警戒を」など、気象情報だけでは伝わりきらない生活への影響を情報として届け、ユーザーに具体的なアクションを起こしてほしいという思いがあるからです。

「ウェザーニュースアプリ」が全世界対応することが決定した際には、この天気コメントをどのように世界中のユーザーへ届けるか、検討を繰り返しました。

対象が世界となれば、世界中の天気を見ながら人が手作業でコメントを作ることは不可能です。仮にできたとしても、限りあるリソースでは、情報の解像度を下げざるをえず、私たちが一番大切にしてきた「ユーザーに寄り添う情報」にはなりません。

そこでAIを核としたシステム開発に踏み切り、わずか数ヶ月で全世界のピンポイント予報に対して天気コメントを提供できるAIシステムを作り上げました。その地点数は、なんと7,000万地点に及びます。




複雑な日本の気象環境で磨かれたノウハウが、グローバル展開の礎に

天気コメントのAI化を進めるにあたっては、当然のように懸念の声も上がりました。 「機械的で無機質な文章になってしまわないか?」 「嘘の情報を生成するハルシネーションのリスクはどう防ぐのか?」 この懸念を払拭するため、当社のAI活用のノウハウや天気コメントの運用ノウハウを元に、独自のAIシステムを自社開発しました。

グローバル展開の標準モデル 天気マークの並び、風速、降水量、降水相(雨・雪・みぞれの推移)といった時間変化のデータをインプットし、状況に応じた自然な文章を作成。

日本向けの高度制御モデル 体感、前日差、路面状態など10項目以上の要素を網羅。「強風より大雨・土砂災害の警戒を優先する」など、ユーザーの安全に直結する情報の優先順位をコントロールする高度制御モデル。

地形が複雑で天候の変化が激しく、毎年のように台風や豪雨に見舞われる日本。この過酷な環境下で、私たちは「どの情報を、優先的に伝えれば人の命と生活を守れるか」という判断基準を長年研ぎ澄ませてきました。

一見すると最先端に見えるAIシステムですが、これを実現させた最も重要な鍵は「長年培ってきた人のノウハウ」です。日本で長年磨き上げた「情報の優先度を判断する知見」がAIの制御ロジックにつながり、世界7,000万地点を支えるグローバル展開の土台となっています。




世界7,000万地点を毎時間更新?!膨大なデータ量をコントロールするAI設計で品質とコストを両立

ウェザーニューズ予報センター 開発担当 池守春奈氏(左)、水津彩花氏(右)
ウェザーニューズ予報センター 開発担当 池守春奈氏(左)、水津彩花氏(右)

実は、天気コメントは常に最新の気象状況を届けるため、毎時間更新されています。時差やサマータイムへの自動対応はもちろん、気象予測モデルが更新されるタイミングで全世界のコメントを一斉更新し、画面の「天気マーク」と「コメント」に一切の食い違いを生ませない制御を行っています。

しかし、7,000万地点分のコメントを毎時間リアルタイムでAI生成すれば、莫大な処理コストとサーバー負荷がかかります。そこで私たちは、全地点の情報を毎回AIに読み込ませるのではなく、あらかじめ天気のパターンに応じたコメントを生成・用意しました。アプリを開いた瞬間に天気のパターンに応じた最適なコメントを即座に引き出す設計にすることで、高い品質と応答スピードを保ちながら、処理コストを極限まで抑えることに成功したのです。

このパターン数は現在6,200種類ですが、近年世界中で社会課題となっている猛暑などに対応するため、約12,000種類への拡充を進めています。最先端のAI技術と気象の専門ノウハウを融合させ、品質とコストを高い次元で両立しながら、世界中へ「命を守るメッセージ」を届けます。




世界中のユーザーに寄り添う天気コメント、言語と文化の壁を超えられるか

日本のユーザー向けから全世界対応するアプリへと舵を切ったことで、多言語への対応が必要となりました。その裏側には直訳などの単純な翻訳だけでは決して解決できない「言語と文化の壁」がありました。

たとえば日本語では、「青空が広がります」など情緒的な言葉が好まれますが、これをそのまま翻訳すると海外のユーザーからは「詩的(ポエミー)すぎる」と受け取られてしまうことがあります。こうした違和感をなくすため、ネイティブ社員によるフィードバックとAIによるチェックを組み合わせ、自然な表現へと何度もチューニングを行っています。 現在、天気コメントは、英語・フランス語・ポルトガル語・インドネシア語など、多言語で作成した上で、アプリの設定言語に応じて翻訳することで、最終的には57言語の表示に対応しています。さらに、スペイン語・韓国語・中国語(繁体字・簡体字の差分対応)の3言語を追加開発中で、近日中の対応を予定しています。

また、言語だけでなく「感覚や文化の違い」も大きな課題です。日本語版では「むしっと暑い」「ひんやり」といった細やかな体感表現を取り入れていますが、同じ35℃でも地域や気候風土によって人々の感じ方は大きく異なります。

グローバル版への体感表現の導入や、スコールや砂あらしといった地域特有の気象現象への対応、さらには「雨が降っても傘を差す習慣がない地域」といった文化的な違いの反映は、これからの挑戦です。

世界中どこにいても、自分の「真上の空」と一番しっくりくる言葉を届けるために。ユーザーの毎日に寄り添う私たちのアップデートは、これからも続いていきます。




かつては日本国内限定で、担当者が1地点ずつ手作業で書き上げていた「天気コメント」。2026年8月のグローバルアプリリリースを機に、世界7,000万地点をカバーするAIシステムへと大きな進化を遂げました。 もちろん、地域ごとの細やかな体感表現や、文化的な違いへの適応など、グローバル展開における「天気コメント」は、まだ進化の途上にあります。

それでも、日本で長年培ってきた「人の命と生活を守るための知見」は、世界中のユーザーにとっても変わらない価値を持っています。 ユーザーに寄り添った情報発信や気象災害の注意喚起を、世界中でしっかりと届けていくこと。それこそが一人ひとりから確かな信頼を獲得し、アプリを世界中で不可欠な存在へと進化させる鍵になると信じて、これからもアップデートを続けていきます。