2026.08.07

AI・気象分野の第一線で活躍する企業・専門家が集う「第2回 Weather & Climate Forecast Conference」開催

2026年6月、一般財団法人 WNI気象文化創造センターが主催する国際会議「Weather & Climate Forecast Conference(WCFC)」の第2回目が開催されました1。ウェザーニューズは、前回に引き続き本会議に協賛し、当日のセッションにて講演およびパネルディスカッションに参加しました。

前回(第1回)は「AIが拓く、気象業界の新しい価値」として最先端技術の共有が行われましたが1、今回(第2回)は「最新AI技術による気象予測で社会課題を解決」をテーマとして行われました。気候変動によって激甚化する気象災害に対し、急速に進化するAI技術をいかに実社会へ適用し、具体的な減災アクションに結びつけるか(早期警戒から早期行動へ)について議論が交わされました。 本ブログでは、AIがもたらす気象予測のパラダイムシフトや、アジア各国で最新AI技術の社会実装に向けた取り組みなどについて、講演内容をハイライトでご紹介します。

レジリエンスを市民の手に ― 気候変動適応とAIの新たな役割

近年話題になる熱波、洪水、山火事など、気候変動によって極端気象のリスクが増加している現状について触れた上で、能登半島地震の教訓を例に挙げ、かつての社会において最も合理的とされ、拡大してきた中央集権型システムが、災害時には脆弱性になるという課題を指摘。Earty Warning for All という考え方で誰も取り残さない、というコンセプトを実現していくには、市民が作るコミュニティ内における情報伝達や資源を融通し合う「分散型の仕組み」が重要になるということを提起しました。 また、循環型の社会を想定した場合に、市民の防災リテラシーを後押しする存在として「AIエージェント」の役割に期待を寄せました。今後、未来のレジリエンスを高める要素として、「高精度な予測情報」「市民が日常的に情報交換できるコミュニティの醸成」「AIを活用したリテラシー向上」の3つを挙げ、人々を中心とした社会のあり方を提言しました。




Connecting Early Warning to Early Action

東北大学 Specially Appointed Professor / Strategic Management Advisor 元国連事務総長特別代表 国連防災機関(UNDRR) Head 水鳥 真美 氏

元UNDRR(国連防災機関)の代表の水鳥さんは、国連主導の「Early Warnings for All(すべての人に早期警戒システムを)」の重要性と、警報を実際の「早期行動(Early Action)」に結びつけるための課題と展望について講演を行いました。 国連が中心となって進める「Early Warnings for All(すべての人に早期警戒システムを)」は、2027年までに世界中をエンドツーエンドの早期警戒システムで網羅することを目指す取り組みであり、既存の防災システムを置き換えるのではなく、それらを補完・強化するためのものだと説明しました。 アジア太平洋地域は早期警戒システムの普及において世界をリードしており、2015〜2023年の間に事前避難した27億人のうち半数以上がこの地域の人々でした。一方で、「ラストワンマイル」問題やデジタルデバイド(情報格差)など、最も脆弱な人々への情報伝達には依然として大きな課題があると指摘しました。 真に命を守る防災とは、警報を出すだけでなく「早期行動」につなげること。そのためには、気象機関や防災機関だけでなく、政府・民間・学術界・市民社会が縦割りを超えて連携し、事後対応から「予防と備え」への投資シフトが不可欠だと訴えました。 そしてAIは、この転換を加速する鍵となり、膨大なデータのリアルタイム分析、地域の言語・文化に最適化された警報、避難や物資配備との自動連携——AIを活用した「予防の文化」への移行が、より多くの命を救う未来を切り開くと期待を込めました。




NVIDIA Earth-2 Developments and Directions

NVIDIA, Program Manager, Earth System Science Domain Stan Posey 氏

Poseyさんの講演では、NVIDIAが開発を進める地球規模の気候デジタルツイン・プラットフォーム「Earth-2」の最新動向と今後の方向性が紹介されました。 NVIDIAは自ら気象予測を行うのではなく、ウェザーニューズをはじめとするパートナー企業や各国の気象機関に最先端のAI技術を提供することで、予測精度の向上や早期警戒システムの整備を支援していると説明しました。 従来の気象予測では、計算コストの壁からアンサンブル予測(複数のシナリオを同時に計算する手法)のパターン数は数十個程度に限られていましたが、AIの活用によって「ほぼゼロの計算コスト」で数千〜1万パターンの予測が行えるようになったと紹介。熱波など、発生確率は低くても被害の大きい極端な気象リスクをより正確に捉えられるようになったと述べました。 また、広域の予測を局地的に高解像度化する「CorrDiff」、観測データから悪天候をリアルタイムで予測する「Storm Scope」、膨大な気候データを対話的に活用できる「Climate in a Bottle」といった最新モデルも紹介しました。 今後のトレンドとして、解像度1kmレベルの超高解像度予測、観測データから直接予測を行う技術(DOP)、物理学とAIを組み合わせたハイブリッドモデルの普及などを挙げ、WMO(世界気象機関)とも連携しながら防災に貢献していく姿勢を示しました。




急増する林野火災に挑む、ウェザーニューズ独自の予測システム

株式会社ウェザーニューズ WNI予報センター 吉川 真由子

吉川さんの講演では、近年日本で急増する林野火災の現状と、ウェザーニューズが独自に開発したリスク予測システムの取り組みが紹介されました。吉川さんは予報センターで大気汚染予測や森林火災による煙の拡散予測モデルの開発に携わってきた専門家です。 日本では、2025年を境に大規模な林野火災が急増し、住民の生活圏を直接脅かす災害となっています。2026年1月には条例が改正され、自治体による「林野火災警報」などの運用が始まりましたが、現場の負担増加が課題となっていると指摘しました。 この課題に対応するため、「自動の実績判定」「72時間先までの予測」「スマホ通知と生成AIによる支援」「高精度な衛星検知(J-HAWK)」の4つを組み合わせたサービスを開発したと紹介しました。

さらに、世界標準の火災リスク指標(FWI)はカナダや欧州では広く使われているものの、冬から春にかけて乾燥と人的要因で火災が起きやすい日本の環境には合わないと説明。そこで、林床(森の地面)の水分量などに着目した独自の予測モデルを構築した結果、韓国やフィリピンなどアジア地域でも76%という高い火災捕捉率を達成したと述べました。このシステムがFWIを補う形で、アジア全体の防災力向上に貢献できる可能性があると強調しました。




AIと気象データの融合によるリアルタイム災害検出の社会実装

株式会社ウェザーニューズ WNI Data Store 中田 晃志

中田さんの講演では、地球規模の災害をリアルタイムで検知するための新しいアプローチが紹介されました。 世界には約2万台の従来型気象観測センサーが設置されていますが、道路の冠水や建物の損壊といった「実際の被害状況」を直接把握するには限界があると指摘します。気候変動によって熱波や豪雨などの極端な気象災害が頻発する中、被害をいかに早く把握して次の行動につなげるかが大きな課題となっています。 そこで注目したのが、世界に約48億人いるSNSユーザーの存在です。人々のオンライン投稿を「人によるセンサー」と見立て、SNS上の声と気象データをAIで解析することで被害状況をリアルタイムに把握する技術「Eyeservation(Eyes+Observationを組み合わせた造語)」を紹介しました。2025年9月のベトナムでの台風や2026年6月の熱波での活用事例を交えながら、目に見えにくい被害まで検知できることを示しました。

予報・観測・被害状況のサイクルを継続して回すことで、次の災害時により適切な行動支援が可能になると述べました。そして、そのためには「先回りの行動(Pre-action)」を実現するために、企業・政府・市民が一体となったコミュニティの構築が不可欠だと訴えました。




アジアの各気象局でAI導入が進む一方で、データ不足や国際協力などが課題に

当日行われた2つのパネルディスカッションでは、アジア4カ国(タイ、インドネシア、ネパール、パキスタン)における気候変動による災害対策、早期警戒システム(EWS)の強化、およびAI技術導入の現状と課題について議論が行われました。 AIなど最新技術の導入が進む一方、タイやインドネシアからは、住民の確実な避難には地域リーダーの伝達や人間の判断といった「人間的側面(ファーストマイル)」が不可欠であるという指摘がなされました。 また、AI導入に際して各国に共通する「課題の壁」として、主に2点が浮き彫りとなりました。1つ目はデータとインフラの壁であり、AIの学習に必要な高品質な歴史データの不足に加え、観測ネットワークの密度向上が急務となっています。2つ目はリソースと人材の不足であり、高度なAIモデルを運用するための計算資源の確保や、AIと気象学の両方を理解する人材の育成が強く求められています。 さらに、主要河川の上流が国境外に位置するパキスタンのように、自国データのみでの予測に限界がある地域では、国境を越えたデータ共有や国際連携が不可欠です。本セッションを通じ、真のEWS構築には最新技術だけでなく、人と人との繋がり、強固なデータ基盤、官民連携が重要であり、そして国際協調が欠かせないという認識が改めて共有されました。




講演内容は公開されています、詳細は以下をご確認ください。

講演内容(オンデマンド): WCFC 2026|Opening Remarks - Jiro Miyabe

講演資料:https://wxtech.weathernews.com/event/20260617-wcfc-summary/

"Weather & Climate Forecast Conference (WCFC) 2026 June" 開催報告はこちら

次回のイベントは2026年12月に開催予定です。ウェザーニューズは今後も産官学の連携を深め、気象技術の発展と最新技術の社会実装に向けて積極的に参画してまいります。





Footnotes

  1. 1:最先端の技術と知見が集結する「Weather & Climate Forecast Conference 2025」が初開催! 〜AIが拓く気象業界の新しい価値〜 ↩︎ ↩︎